ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第10話

f:id:eitihinomoto:20200806163558p:plain

静寂の教室

「ユ、ユミア……その恰好は!?」
 久しぶりに目にする、翡翠色のツインテールのアイドル教師。

「緊急事態だからね。数学については、わたしが教えるのが1番手っ取り早いでしょ」
 瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)は、ボクの雇い主でもあり最初の生徒でもある。

 ユークリッドの教育動画を最初に始めたのは、彼女の兄である倉崎 世叛だった。
けれども、それを引き継ぎ人気を得たのは彼女であり、今の巨大IT企業の基盤を築いたのも彼女の出した数々の教育動画なのだ。

「ボクに、反論の余地はないな」
 ボクは、もろ手を挙げて降参する。

「先生が数学を任せるって、やっぱユミアの数学ってスゴいのか?」
「普段のユミアって、かなりポンなとこあるからなァ」
 タリアとレノンの親友コンビが、訝しげな顔で栗色の髪の少女を見る。

「レ、レノンにポンだなんて、言われる筋合いないわ!」
「まあ、そうだな」
「タリアまで、ヒドッ!」

 最初は共同生活を嫌がっていたユミアも、今はレノンに突っ込みを入れられるくらい打ち解けている。
ボクはそれだけでも、嬉しかった。

「ユミアって数学に関しては、ホントに特別な才能を持っているのよ」
「そうね、タブンわたしたちとは、数字の見え方が違ってるんだわ」
 天空教室の優等生である、ライアとメリーが見解を述べる。

「ホエー、そこまでスゴいんだ」
「ライアとメリーが言うんなら、確かなんだろうな」

 半年に渡って彼女の数学スキルを見て来たが、ボクなど及ぶレベルじゃない。
ただ単に数学が得意というレベルではなく、歴史に名を遺す数学者のような『天才性』を持っていた。

「とりあえずわたしの方でも、模擬テストを用意してみたわ。これで現在の数学の、みんなの学力を測ってみましょう」
「テストまで作ってくれたのか。確かに数学の模擬テストは、まだだったが……」

 ユミアから受け取った、模擬テストに目を落とす。
自分のカバンに忍ばせた模擬テストを出すのが、はばかられる完成度を誇っていた。

「ユミアったら、朝からいきなりテストするのォ」
「しかも数学って、まだ寝起きで頭も回って無いのにムリ過ぎィ」
 星色の髪の、ボーイッシュな双子姉妹である、カトルとルクスが嘆いた。

「そう言わないの。昨日の夜の短い時間で、頑張って作ってくれたのよ」
「まあ、パソコン仕えてキータッチも神がかってるから、とんでも無い速さで完成してたケドね」
 2人の優等生が言った通り、ユミアはパソコンスキルも凄まじかった。

「今のノーパソは、性能もスゴいからね。基本ソフトも入ってるし、アレくらい余裕よ」
「ボクが必死で作ったのは、なんだったんだ……」
「ン、なにか言った?」

「イ、イヤ、なんでも無い。それより、さっそくテストを配ってしまって構わないか?」
「モチロンよ。わたしは出題者だから、今回のテストはパスね」

 ボクは、ユミアが表計算ソフトなどを駆使して作ったテストを、教室の最前列の席に回す。
再びテストが、前列から後列に向けて配られて行く。

「アステたちとシアちゃんは、これ。ミアとリアは、こっちを解いてみて」
「わかりました、ユミア先生!」
「恐れ入ります」

「りょうかいやで」
「ま、任しときィ」
 中学生と小学生用のテストも、ちゃんと用意してくれていたユミア。

「流石だな。ボクとは、場数が違う」
「わたしは、言われるがままにカメラの前で喋っていただけ。先生の方が、経験は上よ」
 ナゼか頬を赤らめ、謙遜するユミア。

「生徒を前にしての授業って、1度もやったコト無いのか?」
「あるワケ無いじゃない。ユークリッドのアイドル教師なんて言われてたケド、実際には生徒も居ない部屋で1人、喋っていただけよ」

「そ、そうか……」
 それから天空教室は、静寂の空気に包まれる。
筆記具の、カリカリと鳴らす小さな音だけが教室に響いた。

 前へ   目次   次へ