先生たちと生徒たち
「よし、そこまでだ。後ろから、プリントを回収するように」
ユミアが作った、数学の模擬テストが終わった。
「ユミア、難し過ぎだよ。こんなの、解けるワケ無いじゃん」
ため息を吐く代わりに、レノンが愚痴を吐く。
「確かに難しい問題ではあったケド、基礎が出来ていればある程度解けるようになっていたわ」
「そうね。模擬テストには、打ってつけの内容だと思うわよ」
メリーとライアの、2人の優等生が言った。
「2人にそう言って貰えると、安心ね。それに問題は、模擬テストの結果じゃないわ」
テストの出来に胸を撫で降ろしたユミアが、ボクを見る。
「模擬テストはあくまで予行演習であり、解らない箇所を浮かび上がらせるためのモノだからな」
ボクは受け取った回答用紙を、ユミアへと渡した。
「ライアとメリーは、流石に及第点は取れてるわね」
「答え合わせもせずに、解るのか?」
「数学に関してわね。ライア、メリー。2人には、教師役をやってもらうわよ」
「了解よ、ユミア」
「でも、普段のユミアを見てると、どうしても同一人物には見えないわね」
「言えてる。普段のあの子って、ゲーマーでアニメ好きな残念少女だもの」
「うっさい。本人を前にして、よく言えるわねェ!」
ユミアは怒りながらも、否定はしなかった。
「ゴメンゴメン。わたしはいつも通り、レノンとアリスを受け持つわ」
「お、お手柔らかに、お願いします」
「メリー先生、お願いします」
「残念だケド、時間がないのよ。ビシバシ行くわ」
「ええ、そんなァ」
「ひィ~ん」
「さて、わたしは誰を担当しようかしら」
「ライアには、アロアとメロエ、それとエリアをお願いできるかしら」
「任せて。それじゃ、彼女たちの答案用紙も貰っていくわね」
「ラ、ライアさん。芸能界を目指すのに、数学は必要なくてよ?」
「そ、そうですわ。経理などは、マネージャーか税理士にお任せするものでして……」
「牧師になるのにも、数学は必要ないんじゃないかな?」
「いいえ。今の時代に経理を覚えて置くメリットは、大いにあるわ。パソコンに入力するにしても、基礎ぐらいは身に付けて置かないと出来ないものだしね」
あっさりと論破される、3人の少女。
弁護士を目指すライアを相手に、論理で挑んだのが裏目に出る。
「それじゃあわたしは、カトルとルクス……」
言いかけたユミアの言葉が、遮られた。
「いいえ、その2人は我らが下僕(しもべ)」
「よって教育は、わたし達が受け持つわ」
「あ、貴女たちは!?」
ユミアが振り向くと、そこには先日のアイドルデビューライブで、トリを務めた2人が立っていた。
「うわ、レアラとピオラじゃない」
「それにしても、今日は制服姿なんだ」
下僕と言われた双子が、そのコトには反応を示さずに、2人のAIの服装に反応する。
「当たり前でしょう。わたし達だって、この天空教室の生徒ですもの」
「今までだって、共に授業を受けていたでしょう」
「そりゃそうだケド、今までは人形だったじゃない」
「人間の身体はライブのときに見たケド、制服着てるとなんだかヘンな感じがするな」
「確かに人形からのギャップは、かなりあるからな。今の身体は、人間にしか見えないし」
カトルとルクスの抱いた感想はボクも感じたし、他の生徒たちもそう思っているだろう。
「フン、おべっかはいいわ。それに、この身体はまだまだ未完成よ」
「細部だって粗削りだし、改善の余地は大いにあるわ」
人間の素人目では完璧に見えても、完璧主義の2人にはまだ不満があるらしい。
「それより、カトル、ルクス。なに、この回答は」
「半分も合ってないわ。これでは本番では、落第点よ」
「イヤ、それは2人のステージの練習に、付き合わされたからで……」
「そ、そうだよ。アレが無かったら、もっと良い点数取れてたのに」
「いいえ。貴女たちの学力から計算して、上ったとしてもせいぜい5点」
「焼け石に水よ。落第点に変わりないわ」
「うッ、ぐう……」
「それは、その……」
全世界に散らばるサーバーが頭脳であるAIの言葉に、反論する余地は無かった。
「それじゃあわたしは、タリアとテミル、キアを見るわ」
「だったらボクは、アステたちとシア、ミアとリアを見れば……ン?」
ボクは、1人の生徒の名を呼んでないコトに気付いた。
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