最期の言葉
「バ、バカな。ムル・ミィーロンの最新鋭の盾が、たかが滞空砲火如きに突破されただとォ!?」
取りつく島も与えられず、次々に破壊されるムル・ミィーロン隊。
ペンテシレイアさんの率いる、元はトロイア・クラッシック社が開発した蒼い艦隊は、押し出してマーズの赤とオレンジ色の艦隊に攻勢をかける。
「う、右翼は後退しつつ、敵を突出させよ。左翼は押し出し、敵の右翼に突進を仕掛ける」
もはや自分がモニターに映し出されているコトも忘れ、必死に指示を飛ばす軍神。
「マーズはどうやら、敵を縦深陣に引き込もうとしている様子ですね、アポロ」
「フン。だが果たして、そう上手く行くかな?」
アポロは腕を組み、戦況を寡黙に見守った。
「我が6個艦隊のうち、左翼の2個艦隊の主力コンバット・バトルテクターは、アトラ・イックだ。ムル・ミィーロンとは異なり機動性に優れている」
既に宇宙空間に展開していた、アトラ・イックの大部隊。
湾曲した刀と丸い盾を持った、いかにも軽装兵の装備をした機体は、ヒュッポリュテーさんの率いる緑色の艦隊に攻撃を仕掛けた。
「つまりは……当たらなければ、どうと言うコトは無いのだァ!」
20世紀のアニメの誰かが言ったような、雄弁な台詞を吐くマーズ。
軍神の号令と共に、アトラ・イックの大部隊は対空砲火をかい潜る。
「無様だな……」
けれども多少の砲火はかわせても、取り付くまでには至らない。
砲火を集中されてクロスファイヤーポイントを作られ、各個に撃破されて行った。
「アポロさん、今すぐ戦闘を停止させたい。マーズさんに、停戦を打診して貰えませんか」
「残念だが、ヤツは聴く耳を持たないだろう。キミの艦隊が優勢なのだ。停戦などする必要は、無いように思えるが?」
「で、ですがアポロ様。このままでは、火星艦隊は甚大なる被害を被ってしまいますわ」
自分の名を冠するリゾート艦の、ロッジのガラス戸に投影される戦況に怯える、セミラミスさん。
彼女の瞳には、軍神の艦艇が次々に破壊されて行く様子が映っていた。
「マーズの右翼艦隊は偽装後退をしていますが、宇宙斗艦長の艦隊は誘いに乗って来ませんね。対して左翼は突出し、宇宙斗艦長の右翼艦隊は後退しつつある」
「そ、それじゃあ逆に、誘いに乗ってしまっているのは火星艦隊の方じゃない!?」
メリクリウスの冷静な戦況分析に、蒼ざめるセミラミス。
「アポロさんよ。オレもここいらで、停戦を受け入れた方が得策だと思うぜ」
プリズナーも、かつての雇い主に提案する。
けれども、太陽神は沈黙したままだった。
「マーズの突出した左翼艦隊が、宇宙斗艦長の全艦隊の集中砲火を受けて、ほぼ壊滅状態ですよ。このままでは……」
流石のメリクリウスも、表情を歪めた。
「ア、アポロ様、どうか停戦の指示を!」
いきなりスクリーンが切り替わり、血相を換えた1人の女性が懇願を始める。
「お願いいたします、アポロ様。どうか今すぐ、停戦を打診してください」
「ナキア。貴女……」
彼女はセミラミスの実の妹で、マーズに好意を寄せる女性だった。
「マーズ様を、見殺しにするおつもりですか!?」
ナキア・ザクトゥの必死の訴えにも、沈黙を続けるアポロ。
次の瞬間、ボクの艦隊の右翼が突撃を開始した。
壊滅した左翼艦隊の側から回り込んで、マーズの主力艦隊の側面を突き攻撃を集中させる。
「か、回頭しろ。右に回頭して……敵艦隊の対処に、グワッ!?」
スクリーンに映ったマーズの周囲が、紅蓮の炎に包まれた。
「愚かな。敵前回頭など、愚策も甚だしい」
アポロがやっと、重い口を開く。
「回頭などしたところで結局、宇宙斗艦長の左翼艦隊に右側面を突かれるコトになりますからね。対してマーズの右翼艦隊は、後退してしまっている」
「そ、それは、どう言うコトなのかしら?」
「マーズの右翼艦隊は今、主力艦隊の背後に周ってしまって機能してません。詰まるところ主力艦隊だけで、宇宙斗艦長の全艦隊と対峙しなければならないと言うコトですよ」
側面を突かれたマーズ主力艦隊は、短い時間で宇宙の藻屑と化し消えて行った。
「う、嘘でしょ……火星の6個艦隊が、こんなにも簡単に……」
余りの光景に驚愕し呆然自失となる、セミラミスさん。
「サディー・タルス隊を、敵の艦隊に……!?」
スクリーンが、真っ白に輝く。
それが軍神の、最期の言葉となった。
前へ | 目次 | 次へ |