ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第五章・EP036

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クリアボール

「なにィ、トリックプレイかッ!?」
「ヤッベ、下を狙って来やがった!」

 壁としてゴール前に立ち、上を越されまいと飛んでしまった、龍丸さんや野洲田さんたち。

「オラ、行けェ!」
 ぽっかりと大きく空いた隙間に、忍塚さんが全身の筋肉をバネみたいに使って、思い切りシュートを蹴り込んだ。

「うおおォ、壁がジャマしてシュートが見えねェ!?」
 後ろでキーパーの海馬コーチが、あたふたしている。

 飛んだ壁の下から抜けて来た、強烈なシュート。
でも、確実に下から抜けて来るのは解ってるし、右利きのキッカーであればゴールの右側を狙ってくる可能性が高い。

「ここしか……ない……」
 壁の一番左に入っていたボクは、飛ばずに壁の背後を右に走って、一か八かスライディングをした。

「な、なんだとォ!?」
 ボクの脚になんとか当たったボールは、そのまま大きく上空に跳ね上がる。

「か、一馬がまた、防ぎやがった!」
「スゲーぜ。流石は背番号10を背負ってるだけあんな」
 ベンチで感心する、黒浪さんと紅華さん。

「だが、まだボールはペナルティエリアの中だ」
「確かに、このルーズボールをどちかが処理できるかが、鍵になりますね」

 雪峰さんと柴芭さんが指摘した通り、大きく上がったボールの下に、両チームの長身プレーヤーがひしめき合う。

「新壬!」
 ボールを制したのは、九龍さんだった。
壁として飛び上がってしまっていた、龍丸さんや野洲田さんの反応が遅れる。

「ナイスポスト、九龍。これでやっと、ハットトリックだ!」
 新壬さんが、ストライカーらしくボールの落ち際を狙った。

「グボオオッ!?」
 新壬さんのボレーシュートは、海馬コーチのメタボリックな腹を直撃する。

「ナイスキーパー。最後に、根性見せてくれたぜ!」
「黒浪、それ違うと思うね。上がったボールを処理しようとして、とんでもなく出遅れただけよ」

「へ……そ、それじゃあ?」
「偶々(たまたま)、そこにいただけね」
 セルディオス監督が、海馬コーチの偶然のファインプレイを酷評した。

「よし、クリアだ!」
 脂肪の塊に当たってポトリと落ちたボールを、亜紗梨さんがペナルティエリアから蹴り出す。

「チキショウ、ハットトリックもできねぇどころか、同点かよ!」
 新壬さんが、苛立ちを吐き出した。

 審判が、腕時計を確認する。
でも、まだ笛をくわえようとはしてないし、念のためにもう少し大きく蹴り出して置こう。
最後のプレイに関わっていなかったボクは、亜紗梨さんがクリアしたボールを追った。

「まだだ、まだ試合は終わって無いですよ!」
「最後のワンプレイくらいは、残ってる!」
 狩里矢の2人の選手も、ボクと同じボールを追っている。

 ヤバい、旗さんと、湧矢さんだ!?
なんとか、早くクリアしないと……。
相手のエリアへとクリアされるボールは、どちらが先に触れるか解らない、ギリギリの状態だった。

「一馬……シュートだ」
 耳元で、倉崎さんの声が聞こえた気がした。

「……え?」
 倉崎さんは、狩里矢との練習試合の試合会場には居ない。
所属する名古屋リヴァイアサンズの若きエースとして、プロのピッチに立つために試合会場を離れてる。

「でも、倉崎さんはボクに10番をくれた……」
 目の前に迫り来る、旗さんと湧矢さん。
けれども思ったより、ボクの方がボールに近かった。

「やったぜ、一馬がクリアだ!」
「これで、何とか同点で終われましたね」
 黒浪さんと柴芭さんが、ホッと胸を撫で降ろしている。

「ま、待てよ。このボールの軌道……」
「ま、まさかこれは……!?」
 目を丸くし驚く、紅華さんと雪峰さん。

「シュ、シュートだとォ。だけど、流石に無理があるぜ」
「ああ。コースは合っているが、高さが高過ぎる」
 新壬さんと九龍さんが言った通り、ボールは狩里矢のゴールを大きく超えようとする。

「それはどうかな。御剣くんは、もしかして……」
 ボールを蹴り出した亜紗梨さんが、反論した。

「ま、シュートは無謀だったが、同点では終えられたぜ」
「違いますよ、紅華くん。逆転です」
「ハア? 柴芭、お前なに言って……」

「き、決まった。一馬のシュートが、決まっちまったァ!?」
 帰り支度を始めていた紅華さんの背後で、黒浪さんが喜びを爆発させる。

「な、なんだって!?」
 紅華さんの瞳には、狩里矢のゴールに入って転がるボールが映っていた。

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