レノンとアリス
余りに突然の、宣告だった。
クララの言葉を聞くまで、試験の結果が悪くても、クビにされるのは自分1人だと思っていたボク。
「ホ、本当なのか、クララ」
「どうやらって、言ったでしょう。残念ながら、久慈樹 瑞葉の心の内まではわからないケド、社長自身がそう言っていたのを聞いたのは事実よ」
「クララは、それをどこで聞いたの?」
ユミアが、ボクの聞きたかった質問した。
「マスコミってのはね。情報源を明かすのが、タブーな場合もあるよ」
「そ、そう……ゴメンなさい」
「少なくとも久慈樹社長本人が、そう言ってたんだな?」
「ええ。もちろん彼のコトだから、どこまでが本心かも解らないし、あるいは単に『わたしたちの生殺与奪(せいさつよだつ)の権利を握っている』と言う意味で、使ったのかも知れないけれど……」
「それであるなら有難いが、希望的観測が過ぎる気がするな」
「そうよ。アイツが、そんな生易しいコトを言うモノですか」
久慈樹社長のマイナス面の評価には、絶対の自信を持つユミア。
「油断なんて、できるハズがないな。久慈樹社長は、自分の計画を壮大な実験と称していた」
「アイツったら、そんなコトを言っていたの。それって、天空教室も含まれているのよね?」
「ボクやキミ、他の生徒たちも引っくるめてが、社長にとっては実験材料なんだろう」
「酷い……アイツ、人の人生をなんだと思って……」
「仕方ないじゃない。わたし達は元々、そう言う契約だったのよ。そうよね?」
クララの視線が、レノンとアリスに振られる。
「ま、まあな。人の弱みに付け込んでるっちゃ、そうなんだケドさ」
「みんなと会えたし、良い暮らしをさせて貰ってるのです」
2人も、クララの意見に同調する。
「みんな、ホントにそれで良かったの?」
ユミアが、3人の生徒に訴えかける。
「構わないわ。わたし達は貴女と違って、それをわかった上でユークリッドと契約したのだから」
「で、でも、アイツに良いように利用されて……」
「だから、利用されてるのなんて、承知の上よ!」
怒りを剥き出しにするクララの、紅いポニーテールが激しく振り乱れた。
「ユミアも、色々あったのは知ってる。でも、アタシたちにも色々あったんだ」
「レ、レノンまで……」
「アタシなんか、札付きのワルだったからさ。タリアと組んで、不良を相手に暴れてたりもしてたんだ。自分たちの正義を貫いてはいたケド、傍(はた)からみればただの暴力女なワケよ。でも久慈樹社長は、そんなアタシを拾ってくれたんだ」
不良少年たちのトップで、今はボクサーを目指す襟田 凶輔(えりだ きょうすけ)を、一方的に倒せるタリアが同等と認める少女が、自分の過去を話し始める。
「正直、最初は金と生活のためだったよ。親が教民法のせいで無職になったのはみんなと同じで、最初の頃は先生に反発もしてたし、ユミアもなんだコイツって思ってたんだ」
「そう思われても……仕方ないわ」
「仕方なくなんかない。アタシが、間違ってた!」
そう言って、ユミアを抱きしめるレノン。
「付き合ってみれば、ユミアってスッゴクいいヤツだしさ。最初の印象と違ってけっこうガサツで、アタシと通じるトコもあるし」
「それってどう言う意味よ、レノン!」
「わ、わたしもなのですよ」
「ア、アリスも……」
「ハイ。わたしの親は教民法に反対の立場で、法律が施行されてからもわたしは、ムリやり学校に通わされてました」
「ムリやりと言うと、アリスは学校には行きたくなかったのか?」
「もの凄く、イジメられてましたから……」
白いモコモコ髪の少女は、寂しそうにほほ笑んだ。
「イジメって、なにをされたの?」
「言えません。ゴメンなさい」
アリスの言葉に、ユミアは絶句する。
「親や学校には、言わなかったのか?」
「言いました。でも調査の結果、イジメは無いって言われました」
「そんな……本人が、イジメられてるって言ってるのに!」
「なるホドね」
「なるホドって、なにがなるホドなんだよ」
クララに噛みつく、レノン。
「学校にとってイジメは、『あってはならないモノ』だからよ」
従来の学校教育に置いてそれは、辛らつな針だった。
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