ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第12話

日本の会社社会の悪癖

「久慈樹社長。貴方はもっと、理性的な方だと思っていました」
 ボクは自分ですら、最後の悪足掻(あが)きだと解っていながら言った。

「それは、キミの見解だろう。間違いなく彼女は、そう思っていない……だろ?」
「ええ、とうぜんよ。アンタが理性的だなんて、考えたコトすら無いわ」
 ピシャリと言い切る、ユミア。

「キミとの付き合いも、かなりのモノだからね。ボクがキミの過去を知っているように……」
「わたしだって、アンタの過去はウンザリするくらい知っているわ。何人もの女の子たちを泣かせてきた、ドス黒いアンタの過去を……ね」

 控室の前で、いがみ合う久慈樹社長と、瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)。
すると部屋の中から、煌(きら)びやかなアイドル衣装を着たボクの生徒たちが出てきた。

「あら、ユミアたちも来たのね」
「もうすぐ、ライブの時間よ。それに……テストの時間でもあるわ」
 生徒たちを代表する、優等生のライアとメリー。

「ライアとメリーは、知ってるのか。アタシたちが、アイドルにされるってコト」
「ええ、知っているわ。と言っても、聞かされたのはつい先刻だケドね」
 レノンの問いに答える、ライア。

「レノン、アリス、大丈夫……じゃないわよね」
「ま、まあな。メリー先生」
「ぜんぜんだいじょうぶじゃ、ないのですゥ」

「久慈樹社長。アイドルを目指してすらいない彼女たちに、いきなりアイドルになれって言われてもムリに決まっているでしょう。歌もダンスもレッスンすらしていないのに、無謀過ぎです」

「キミはボクに、口答えするのかな……八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)」
「そ、それは……」
 高圧的な台詞でメリーを黙らせる、ユークリッドの支配者。

「完全にパワハラですね、久慈樹社長」
 ライアが、正義の眼差しを向ける。

「これはこれは、正義の弁護士でも気取るのかい。新兎 礼唖(あらと らいあ)?」
「そんなつもりは、ありません。正義を断罪するのは、弁護士の役目ではありませんから」
 ライアの言葉は、揺らがない。

「自分を裁判官と勘違いしてる弁護士も多いようだが、キミは違うのだね。だがね、ライア。日本の会社社会の生んだ、悪癖とでも言うべきモノがあるのだよ」
「日本の会社社会の悪癖……ですか?」

「残念ながらパワハラなんて罪状でショッ引かれるのは、いつもそこそこの立場のヤツらだろう。頂点に立つヤツらは、ちゃんと身代わり(クッション)を用意して置くモノだよ」

「そ、そんなコトが、許されるのですか!」
 表情が強張る、ライア。

「大抵の場合、許されているじゃないか。なあ、クララ」
 向けられた久慈樹社長の視線から、顔を逸らす深紅のポニーテールの少女。

「残念ながら、多くの報道ではそうなっているわ。社長は直接、無理難題を最下層の社員に押し付けるのではなく、中間管理職と言う名のクッションを通してそれを行う。もし問題が生じたとしても、責任を取らされるのは部長や課長クラスなのよ」

「確かに、悪癖ですね。ですが、正義が成されるようにクライアントを精一杯弁護するのが、弁護士の役目です」
 ライアも、ただでは引き下がらない。

「それは、金次第だな」
 久慈樹社長の返答に言葉を詰まらせる、ピンク色の髪を宝石で飾った少女。

「キミだって知っているだろう、ライア。事務所を構える1流の弁護士と、弁護士を雇う金すら無い人間に付けられる国選弁護人とでは、能力がまるで違うのだよ」

「1流の弁護士を高額の金を払って雇っている人間には、金のない貧乏人は勝てないってコトですか?」
 今度はボクが、直接伺いを立てた。

「そう言っているじゃないか。例えば、こんな話がある」
「どんな話か知らないケド、さっさと語りなさい!」
 ユミアが、威嚇(いかく)する。

「ブラック企業に勤めていた、ある男の話さ。その男は、ブラック企業の違法なヒドい待遇を、裁判所に訴えた」
「訴えが……認められなかったのね?」

「イヤ、認められたよ。契約社員に対し、違法な処遇を行っていたとね」
「え、だったら……?」

「だがブラック企業は、その男を逆に名誉棄損で訴えた。自分たちを、ブラック企業と呼んで大きく名誉を損ねたとしてね」
「違法な行為を、行っていたんでしょう。そんなの、通るワケ……」

「そこを通すのが、企業のお抱え弁護士さ。裁判に負けた男は、高額の慰謝料と裁判費用を請求され、借金にまみれた」

 久慈樹 瑞葉は、金の無い男の顛末(てんまつ)を心底嘲笑(あざわら)った。

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