ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第07話

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あってはならないモノ

「あってはならないモノ……か」
 クララの言葉を反復したボクの口から、ため息が漏れ出る。

「イジメは無いって、結論ありきの指標ってコトね」
 栗毛の少女が、ボクに反抗するように言った。

「そう。教育関係の偉い人たちにとっては、イジメはあってはならないモノなのよ。だから、あってはならないハズのイジメは、徹底的に隠ぺいする」

「ええ、そんなの意味ないじゃん」
 わかり易い感情を、素直に表現するレノン。

「そうね、レノン。でも、かつての学校教育は、イジメを隠ぺいして来たのよ」
 クララの言う通り、旧来の日本教育の負の側面がそこにあった。

「ど、どうして、隠ぺいなんてしたんだよ?」
「上からの指示でしょ。イジメを失くせと、命令されたのよ」
「無くなってないジャン。ただ、隠しただけだろ」

「だから、そう言っているじゃない。でも少なくとも、隠ぺいすれば大勢の目からは、イジメが無くなってるのと同じに見えるわね」
 クララの鋭利な瞳が、アリスを刺す。

「……そ、そうなのです。イジメは、あってはならないんです」 
 俯いたアリスが、震えていた。

「だからわたしは、存在しちゃダメな子だったんです」

「な、なに言ってるの、アリス。存在しちゃダメだなんて、誰が言ったのよ!」
「みんな、言ってました。パパも、ママも、友達もみんなです」

 学校と言う空間は、ある意味残酷だ。
心がまだ未熟な子供たちは、その成長過程で互いに傷つけ合ってしまう。
加害者と被害者が生まれ、些細なコトでその立場も容易に逆転する。

「わたしの存在が、みんなを傷つけちゃってたんです。わたしさえ居なければ、みんな幸せで居られたのにって、言われて……」

「アリス!」
 白いフワフワ髪の少女を、ユミアがギュッと抱きしめた。

「貴女も、彼女とお風呂に入っているんだから、気付いていたでしょう?」
「そうよ。気付いていたわ。見て、見ないフリしてた」

「な、なんのコトを、言っているんだ?」
 その答えを、薄々勘付いてしまっているボク。

「アリスの身体の、無数の傷跡をよ」

 それは予想していた答えだったし、聞きたくない答えでもあった。

「アリスの事件について、調べていたのよ。彼女は、両親ともに一流企業に勤務するエリートで、彼女自身もエリートの子息が通うコト有名な、私立の小学校に通っていた」
 マスコミの卵であるクララが、容赦のないレポートを語り始める。

「それってアリスも、エリートってコト?」
「立場としては、そうなのでしょうね。でも彼女には、エリートとしての実力が伴わなかった」

「わたしは、落ちこぼれでした。勉強もスポーツも、なにをやってもダメダメで、みんなに迷惑ばかりかけていたのです」
 ユミアに抱かれながら、過去を話し始める少女。

「クラスのみんなは、勉強もスポーツもできて、スゴい人たちばかりでした。わたしはそんなクラスで、3人のコたちがリーダーのグループに入っていたんです」

「そのコたちに、アリスは……」
「最初は、仲良くしてくれてたんです。でも、わたしがダメダメ過ぎて……」
 ポロポロと、大粒の涙を流すアリス。

「彼女は、リーダー格の3人の少女を中心にしたグループから、イジメを受けるようになっていた。そしてイジメは、より凄惨で陰湿なモノへとエスカレートして行ったのよ」

「かつて、アメリカの刑務所で行われた、心理学の実験がある」
 ボクはナゼかそれを思い出し、口走っていた。

「罪を犯したワケでもない一般の人間を、看守役と囚人役に分けて、本物の刑務所のように過ごさせた」
「そんなコトして、なにになるんだ。どっちもホントは一般人なんだから、なにも起きないんじゃね?」

「普通は、そう思うでしょうね。でも、実際に実験に参加した人間は、そうはならなかった」
 実験結果を知っていたであろうクララが、ボクに視線を移す。

「看守役の人間は、徐々に横暴になって行き、囚人役の人間を本当に虐待し始めたんだ。やがてそれがエスカレートして行って、手が付けられなくなってしまい、実験は中止された」

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