ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第三章・EP001

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黒浪 景季

 ボクは、また違う学校の校門前に立っていた。

 奈央に褒めてもらったから、またその気になってきてみたケド……。
校門に掲げてあるプレートには、『墨ヶ丘総合工科高校』と書かれている。

 ライバルになりそうなレギュラーが、増えるだけなんだよなあ。
心の中でため息をつきながら、流れ出てくる生徒たちの中からターゲットを待った。

 それにしても、凄い生徒の量だな。
スマホ情報だと、二つの学校が合併してできた学校で、物造りに定評があるそうだ。

 そのまま一時間ほど待ってみたものの、ターゲットとなる人物は一向に出てこない。
ボクは近代的な建築の、整然としたデザインの校舎を見上げる

 雪峰さんはすんなりと見つかったケド、紅華さんの時はケッコウ時間がかかった。
やっぱ人の見つけ易さって、学校の生徒数によるよね。

 ボクは仕方なく、学校の周囲を歩き始める。
街路樹が名画のように植えられていて、中々にキレイだ。

 すると学校の裏手が、グランドになっているのに気付く。
グランドには、校門からじゃなくても入れそうだな。

 ちょうどサッカー部が練習してるし、行ってみよっと。
ボクはスルスルと、小さな土手を降りてグイランドに入る。

 校舎はやたらとたくさんあるケド、グランドはそんなに大きくないみたい。
サッカー部と野球部が、窮屈そうに使ってる。

「オイ、お前。ウチの生徒じゃねえだろ?」
 突然、後ろから声がかかった。

 ヤバッ、見つかった!
慌てて振り返ると、真っ黒に焼けた肌の少年が、ボクを睨みつけている。

「他の学校のスパイ……なワケねえか。ウチは、大した運動部なんてねえからな」
 少年は、天然パーマなのか波打った髪を、頭の後ろで二つに束ねていた。

 今回のターゲットの、『黒浪 景季(くろなみ かげすえ)』だ!

 ボクは、慌てて名刺を差し出す。
ここからの流れは、いつもの通りだ。

「あん……デッドエンドボーイズ・サッカークラブゥ?」
 訝しげに、名刺を食い入るように見ている黒浪さん。

「お前、御剣 一馬って言うのか。カッケー名前じゃん!」
 それ、たまに言われるコトある。

「オレさまは、『黒狼』よ!」
 へ……?

「あだ名だよ、あ・だ・名」
 あだ名?

「ガキの頃、浪を狼と間違えて呼ばれてさ。そっから黒狼ってワケ。カッケーだろ?」

 ちゅ、中二病だぁぁ!?
……と思いつつも、一応頷く。

「そっかそっか。ま、本名の黒浪 景季ってのも、カッコ良くて気に入ってんだ」
 ニカッと笑った口元から、ヤイ歯がこぼれた。

「でも悪ィな。オレさまは陸上部なんだ」
 黒浪さんは、茶褐色のメタリカルなジャージを着ていた。
けれども周りを見ても、似たジャージを着た人は居ない。

「……つっても、オレさま一人なんだがよ」
 ぶ、部員が一人。こんなに生徒が居るのに!?

「ウチの学校、生徒数は多いんだケド、グランド狭くてさ。親が言うには、就職に有利な技術は身に付くらしいんだが、失敗したぜ」

 ある意味、デッドエンドなのかも。

「人気のあるサッカー部や野球部が、我が物顔でグランド占有しててよ。陸上部は端っこの方で走るくれーしかなくてな」
 流石にそれじゃ、入部希望者も少ないだろう。

「よし、お前入部しろ!」
 ……はえ?

「とーぜん、オレさまが勝ったらの話だ。お前が勝ったら、お前のチームに入ってやるぜ」
 うおお、なんか小学生みたいなコト言い出したァ!?

「ウチは陸上トラックなんてねえから、直線勝負だ!」
 また、いきなり勝負するハメに……。

「まずは見とけ。オレさまの、脚の速さをよ」
 黒浪さんは、クラウチングスタートの体制を取ると、一気に駆け出した。

「ガアアァァァァーーーーーーーーーーーーオ!!」
 狼のように雄叫びを上げながら走る、黒浪さん。
一瞬で、突き当りの部室棟の前まで辿り着いていた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第08話

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群がるマスコミ

「まったく、利用規約なんか全部読む人がいるなんて、呆れてモノが言えないわ」
 栗色の髪の少女が、ボクに向かってため息を付いた。

「キミがアナログが苦手なように、どうもボクはデジタルが苦手なんだ」
「べ、別にわたしは、アナログ苦手じゃないケドね」
 隣を歩くユミアが、腕を組みソッポを向く。

 直線と直角で構成された四角いオフィスビルは、後ろに小さくなっていた。

「でもキミが、久慈樹社長に助言するなんて、意外だったな」
「そ、そうかしら。別に助言なんて偉そうなモノでも無いわ」

「いや、デジタルが苦手なボクでも、的確な助言だってコトは理解できたよ」
「アイツは嫌味で悪趣味なヤツだケド、プログラミングやデジタルアプリの開発に関して凄腕なのは、認めてるってだけ」

「社長としても、中々のやり手だと思うケドな」
「そうね。でもアイツは、わたしを追い出したがってるのよ。ユークリッドを私物化する為にね」

 果たして、本当にそうなのだろうか?
「アレだけの助言をできるキミを、解雇するほど彼は愚かじゃないと思うが……」

「ん、なにか言った?」
「イヤ、何でもないさ」

 ユミアを解雇する気はなくとも、ボクを解雇する理由などいくらでもある。
天空教室に戻って、生徒たちにできるコトを精一杯しようと思った矢先。

「せ、先生。マンションの前に、人だかりが!?」
「どうやら、マスコミ連中のようだな」

 円筒形の高層マンションの前には、カメラなど取材機材を持った大勢の報道陣が、今回の事件についてインタビューを取ろうと待ち構えていた。

「セキュリティや監視カメラ、ガードマンで固められた本社ビルよりも、キミのマンションの方が攻略し易いと踏んだか」
「ど、どうしよう。このままじゃ、天空教室に行けないわ」

「よし、地下駐車場から入ろう」
 やはり、取材を受けるのを嫌がっている感じのユミアの手を取り、逆方向の大通りに出るとタクシーを拾った。

「このままマンションの、地下駐車場に入って下さい」
「ええ、アソコはユークリッドのマンションなんですよ!?」
「わたし達、関係者なのよ。早くして」

 タクシーは、少女の指示通りにマスコミの車列の間を縫うように走り、地下駐車場へと雪崩れ込む。

「お釣りはケッコウですので」
「これはどうも」
 ボクたちはタクシーを見送ると、エレベーターに向かった。

「デジタルはダメダメなクセに、こう言うところはこなれてるわね」
 虹彩認証でセキュリティチェクをする、ユミア。

「キミとは正反対だな。とりあえず、天空教室に行こう」
 エレベーターは、眼下に群がったマスコミのサイズを、どんどん小さくした。

「あ、先生にユミア。大変なんだ!」
 天空教室の部屋に入った途端、レノンの大きな声が響く。

「玄関にマスコミ連中が、押し掛けてるんだ。これじゃ外に出られないよ」
「仕方ないさ。全員居るのか?」

「キアがまだ戻ってないよ、先生」
「昨日の夜も居なかったんだ」
 カトルとルクスの双子姉妹が言った。

「ゴ、ゴメン、先生。言うべきだったわ」
「いいさ、ユミア。きっと、家に帰ってるだろう」
 昨日のキアの様子から、何となく想定はしていた。

「キアの他は、全員居るか」
 とくに気になったのは、事件の被害者であるテニスサークルの少女たちだった。

「アステ、メルリ、エレト、マイヤ、タユカ、カラノ、アルキ」
「全員居るよ、先生。でも……」
 タリアが、七人の少女たちを抱き慰めている。

「お、お姉さま!」
「あ、あんな動画が……」
「もうイヤァ!」

「酷い仕打ちです。一度ネットに拡散されてしまった動画は、もう……」
「そうだな、ライア」
 正義を重んじる少女にとって、それは許しがたい行為に他ならなかった。

「動画が拡散したのは、ユークリッドのニュースのせいでもあるのよ!」
 ライアの放った言葉に、ユミアは大きく瞳を見開いた。

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・16話

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燻っていた謎

「だがよ、艦長。二年前の惨劇が事故では無く事件で、犯人がいたと仮定してもだ」
 プリズナーが、ボクの推理に反論する。

「犯人がAIの脳を備えたアーキテクターだったとしても、そのアーキテクターが、ギリシャ群の工作員って可能性も十分にあるぜ」

「この時代……犯人が人間とは、限られないんだな」

「その通りだ。もちろん実行犯は人間で、AIの開発したウィルスプログラムを、会場のアーキテクターたちに感染させた疑いもある」

 やはり、二十一世紀生まれのただの高校生の推理力など、未来の時代には何の役にも立たないのだ。

「我々はアーキテクターの暴走で、会長と多くの命を失った。それゆえ今回の艦隊乗っ取り事件を、重く受け止めておるのです」
 デイフォブス=プリアモス代表が言った。

「ですが、もし宇宙斗艦長に敵意があるのなら、すでにこの宙域は戦闘体制にあるハズ」
 ターコイズブルーの真っすぐな瞳が、ボクを見つめる。

「わたし達の艦隊を乗っ取ったのは、本当に宇宙斗艦長ではないとわたしは思います」
 先代会長の娘は言った。

「信じていただき、有難うございます」
 ボクは、論理や知識に基づかない判断をしてくれた、イーピゲネイアに感謝する。

「ギリシャ群、トロヤ群の二つの艦隊を乗っ取ったのは、『時の魔女』の艦でした」
 ベルダンディが用意してくれた、敵艦との交戦時の動画の入ったチップを差し出す。

「これが、敵艦の姿なのですか!?」
「まるで、タコかイカのようだな。クラーケンとでも言った方が、適切か」
 やはり未来にあっても、異形の艦だったようだ。

「艦の正式名称は解りませんが、便宜上『漆黒の海の魔女』と呼んでいました。映像にはありませんが、魔女はいきなり、我が艦の前方にワープをしてきたのです」

「バ、バカな。ワープなど、未だ開発されていない技術ですぞ」
「そう聞き及んでいます。ですが……」
「ホントだよ。いきなり艦橋の前に、ババーンと現れたの」

「我が艦、MVSクロノ・カイロスは、前方の進路を塞がれ、交戦を余儀なくされたのです」
「では、漆黒の海の魔女が、わたし達の艦隊を、乗っ取った犯人なのですね?」

「実は乗っ取った現場を、目撃したワケでは無いのです」
「他に別の艦が存在した可能性も、十分あるわ」
 トゥランが、口添えをしてくれる。

「ですがナゼ、敵艦に乗っ取られたハズの艦隊のコントロールを、貴方が得ているのですかな?」
 黒き英雄の瞳が、ボクを威圧した。

「いえ。我々がコントロールを得ているワケでは、ありません」
「今のところ勝手に付いて来ているだけで、命令もできないわ」
「でもでも、親鳥に付いてくヒナ鳥みたくて、可愛いのです」

「なんとも奇妙な事件……ですな」
「一体『時の魔女』とは、何者なのでしょうか?」
 イーピゲネイアの疑問は、ずっとボクの頭の中に浮かんだ疑問だった。

「実は我々の艦も、『時の魔女』が創ったものなのです」
「な、なんと。それは誠ですか?」

「ああ、マジだぜ。現にオレたちは、火星の衛星フォボスで艦に拉致られたんだ」
「『ウィッチレイダー』と呼ばれる、少女たちにね」
 プリズナーと、トゥランが答える。

「拉致の目的は、どうやらボクだったみたいです」
 外交問題になりそうなご令嬢、クーヴァルヴァリアの名は伏せた。
「その後、色々とあって艦長に就任するコトとなりました」

「にわかには、信じがたい話だが……」
「ですが、誠実に話してくれているように思えます」
 感情で感想を述べるだけの二人に対し、ボクは人間の限界を感じる。

「やはり、懸念と言うのは……」
「率直に言ってしまえば、AIたちの反乱です」

 かつて人間は、創造神の如くAIを生み出した。
AIやロボット技術の革新や発展は、ボクの眠っていた千年の間も続き、やがてアーキテクターやサブスタンサーなどへと進化する。

「一体、時の魔女とは何者なのでしょうか?」
 イーピゲネイアが、ボクに問いかけた。

 それはボクの心の中で、ずっと燻っていた疑問でもあった。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・18話

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王都の激闘1

「卿は、覇王パーティーの、天酒童 雪影ではないか」
 オフェーリア王国が誇る天才軍略家、グラーク・ユハネスバーグが問いかける。

「いかにも」
 オレンジ色の軍団に併走する白馬に乗った男が、短く答えた。

「魔王は、わたしたちが何とかする」
「魔物の軍があちこち荒らしてるから、そっちは任せる」
 褐色の肌にオレンジ色の瞳、白い髪の双子が生意気な指示を出す。

「なんだァ、このガキ共は。お前らなんかで魔王の相手ができるのかァ?」
「コヤツらも、元は邪神だ。心配はあるまい」
 ニーケルスの危惧に答える、グラーク。

「よく見れば跨っている馬は、禍々しいスケルトン・ホースじゃねえか」
「ならばこの者たちが、蒼髪の勇者によって少女となった魔族なのですね」
「そうだ、レーゼリック。他に双子司祭もおられる様だ。任せて問題はあるまい」

 黒い馬鎧を装備した二頭のスケルトン・ホースの後ろを、白と金色の馬鎧を纏った二頭のユニコーンに乗る、ピンク色の髪の双子司祭が追走する。

「うん。魔王は任せて」
「もう、姉さま。相手はグラークさまですよ」
「わ、わかってるよォ!」

「グラーク殿、魔物の大群が王都より打って出て、こちらに向かって来るぞ」
「フッ。魔物風情が、このオフェーリア軍に野戦を挑むか?」
 軍の司令官はニヤリと笑うと、魔物の軍隊に突撃を開始した。

「むしろ、のこのこ出て来たのが、運の尽きよ」
「我らの戦術、見せつけてくれようぞ」
 ニーケルスとレーゼリックも、グラーク司令の後に続く。

「なれば我らは、魔王の討伐に向かう。お前たちもついて参れ」
「言われなくたって、倒す」
「我が死霊剣の力、見せてやる」

「まさかあのコたちと、共闘するハメになるとは思いませんでした」
「だよね。でも今は、心強い味方なんだ」
 双子姉妹も、自分たちをの命を奪いかけた邪神姉妹の背中を追った。

「アレが……魔王か」
 雪影は白馬を走らせながら、魔王の容姿を観察する。

「古風な鎧に、背中に四枚の羽根……お前たち、心当たりは?」
「無い。ルーシェリアのヤツほど、魔族に詳しくない」
「それにあの魔王は、サタナトスが生み出したモノ」

 王都に降臨し、王城と王を屠った魔王は、『ザババ・ギルス・エメテウルサグ』と名付けられていた。
けれども、サタナトスの命名など知る由も術い一行は、名も知らぬ魔王に向かって駆ける。

「街に、死体が溢れてる」
「血生臭い香りが、鼻腔をくすぐる」
 焼け落ちた正門から王都に入ると、至るところに市民の亡骸が転がっていた。

「ちょっと、二人とも。不謹慎だよ!」
「まあ元死霊の王ですから、死体は好物なのでしょうが」
 僅かに残った魔物を蹴散らし、王都のあった瓦礫の近くまで辿り着く一行。

「敵の能力が解らんのだ。まずは様子を……」
「フッ、臆したか、雪影」
「一番槍とやらは、貰った」

「一番槍って、なんでしょう?」
「さあ?」
 双子司祭が見上げる先で、元邪神の双子は剣を抜く。

「我が死霊剣、『べレシュゼ・ポギガル』よ。敵を呪い殺せ!」
「我が剣、『フェブリュゼ・ポギガル』よ。敵に毒を負わせろ!」
 二つの剣劇が、魔王の両肩にヒットする。

「あ、危ない!」「魔王が攻撃に転じます!」
 宙を舞う二人の前で、古代の兜を被った魔王の眼が紅く光った。

「ぐわっ!?」「うぬうッ!」
 魔王の口が開き、真っ白な閃光が双子を一閃する。

「無作為に突出し過ぎだ。魔王には……」
「呪いも毒も、利かないワケじゃない」
「要は、どちらの魔力が上かだ」

 閃光を自らの剣で防ぎ、着地したネリーニャとルビーニャが言った。

「フッ、あヤツと似たようなコトをほざく……」
 異国の剣士は、口元を僅かに緩める。

「ならばこの『天酒童 雪影』も、一戦舞ってみるといたそう」
 剣士は、左の腰に下げた二本の剣に手をかけた。

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キング・オブ・サッカー・番外編01

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小さな想い

 わたしの名前は、板額(はんがく) 奈央。
今日は幼馴染みの、カーくんこと御剣 一馬との、ある日のお話をしようかなって思います。

「カーくん、今日も遅くなるのかな。最近、ずっとどこか出かけてるよね」
 いつものようにカーくん家のソファーで、ごろ寝をしながらドラマを見ていたわたし。

「昔は小さくて細くて泣き虫で、わたしがイジメっ子から守ってあげたのにさ」
 それは、幼稚園時代の話だった。

「いつの間にやら背も抜かされて、ずいぶんカッコよくなっちゃって……」
 そう言えば今日も、クラスの友達が噂してたなあ。

「御剣くんってさ。カッコいいしクールだし、芸能人みたいよね」
「そうそう。いつも無表情で、物思いにふけってるの」
「知的で、近寄りがたい雰囲気だよね、奈央」

「ふえ。え、ええ……そうね」
「でも奈央って確か、御剣くんと幼馴染みなんでしょ?」
「ウソォ、マジで!?」

「他のクラスのコが、一緒に堤防歩いてるの見たって言ってた」
「どうして言ってくれないかなあ。わたし達、トモダチでしょ?」
「バカね、アンタ。そんなの、決まってるでしょうが」

「あ、そうか。奈央もやっぱ、御剣くんのコト狙ってんだ!」
「ち、違う違う。カーくんって見た目はああだケド、中身はまだ子供なんだから」

「スゲー。カーくんだって」
「やっぱ幼馴染みは、違うわ」
「だ、だから、そんなんじゃないってェ!」

 全力で否定したのに……まあいっか。
液晶テレビには、有名女優の顔が映し出されてた。

「このドラマ、こんなに詰まらなかったかな。再放送で内容知ってるから?」
 そう言えば最近、カーくんのコトを考えるコトが多くなった気がする。

「ふわ~あ。今日はおば様もまだ帰ってないし、これじゃ家に居るのと変わらん」
 もう何週間もロクに、口を聞いて無いんじゃないかな。

「カーくん……」
 その時、玄関ドアが開いた音がした。

「な、奈央。居るの。聞いてよ、奈央ォ!?」
 ルビングのドアも開き、長身の見慣れたイケメンが、ソファの上に倒れ込んで来た。

「ふにゃあああッ、ど、どど、どうしたの、カ、カーくん!?」
 昔のように、わたしの胸に顔を埋め泣きつく幼馴染み。

「それが、倉崎さんってば酷いんだよ」
「く、倉崎さん!?」
 端正な顔(マスク)が、わたしの真上にあった。

「ボクにスカウトばかりさせて、チームで使う気なんか無いんだ」
「い、一体、何の話をしてんの……」
 さらさらとした前髪が、わたしの頬を撫でる。

「ゴ、ゴメン。実はボク、奈央の言うコトを聞かずに、倉崎さんに会ってたんだ」
「倉崎さん……って、前に堤防で会った、ジャージの怪しい人ね」
「倉崎さん、プロのサッカー選手なんだケド、自分のチームを創ろうとしててさ」

 それから、イケメンになってしまった幼馴染みは、わたしにそれまでの経緯を話してくれた。
わたしは何故かホッとしたし、とてもうれしかった。

「そうねェ。カーくんの話だと、どうやら本気でチーム創りをしてるみたいね」
「う、うん。ボクも一応は契約してもらって、お金も貰えるみたいなんだ」

「でもスカウトの仕事ばかり、させられてる……と?」
「そ、そうなんだ……」

「だったら実力を上げて、倉崎って人を見返すしか無いんじゃない?」
「う、うん。そう……だよね」
「それに考えようによっては、スカウトも悪くない気もするわ」

「なんで?」
「だってカーくんってば、極度の人見知りでしょ。克服するいい機会じゃない」
「ボクにはハードル高いんだ。なんとか三人、スカウトできたケドさ」

「ウソォ。自分の高校のサッカー部にすら入れなかったカーくんが、どうやって?」
「ハハ。まあ、色々と……」
 幼馴染みは背丈だけじゃなく、中身も大きく成長しようとしていた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第07話

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アプリ開発

「ところで今日、キミたちに来てもらったのは、新しく開発したアプリの意見が欲しかったんだ」

 久慈樹 瑞葉社長は、自分のスマホ画面を見せながら言った。
どうやら言葉の綾などではなく、本気で別件でボクたちを呼んだらしい。

「アプリの名前はユークリッター。小さな文章でコミュニケーションを図ったり、ウチの動画にコメを付けたり、ネットショッピングまでできるんだ」
 社長がデスクのパソコンを操作すると、スマホ画面が巨大モニターに拡大表示された。

「まだ、プロト段階だからダウンロードはできないが、実機を用意した。触ってみてくれ」
 マホガニー材のデスクには、二台のスマホが置かれていた。

「仕方ないわね。どれどれ?」
 デジタルは大の得意な少女は、一台を手に取りスワイプし始める。

「うッ……うう」
 デジタルなど大の苦手なボクも、恐る恐る手に取った。

「そうね。この手のアプリの場合、あまり多機能にしちゃうと、かえって評価が下がるケド、かなりの機能を詰め込んだわね?」

「そこはあえて踏まえた上での挑戦さ。動画と買い物サイトを統合するだけでも、かなりの相乗効果が見込めると踏んでね」

「確かに海外の有名ストリーミング動画サービスでも、動画と広告との親和性は甘々だわね」

「ウチは、誰でも動画をアップできるサービスじゃない。質の高い動画を厳選して提供し、ユーザーから支持示を得てきた」

 そこが大手動画サイトとの差別化を可能とし、ユークリッドが急成長できた要因でもある。

「今後は、教育動画以外の分野にも進出する。新規ユーザーを獲得する必要もあってね」
「ネットで見たわ。ニュース、ドラマ、アニメなんかに手を出すってヤツ」
 ニューヨークで大々的に開かれた、記者会見のコトを言っているのだろう。

「マスコミを毛嫌いしてるクセに、やっているコトは電波を使わないテレビ局じゃない」
「相変わらず痛いトコを突くな、キミは」
 ピシャリと言い放つユミアに、苦笑いを浮かべる若き社長。

「テレビとの差別化を図るのが、ユークリッターだよ。動画の収益化にも、貢献してくれるハズさ」
「それはアプリの出来次第よ。どんなに企業側が目論んだって、ユーザーに見向きもされないんじゃ、話しにならないわ」

「手厳しいねえ。とりあえず、触ってみた感想を聞いてもいいかな?」
「そうね。まず、コンセプトとしては悪くないと思うわ」
 ユミアの評価は、悪く無さそうだ。

「動画のコメ欄に書き込めるだけじゃなくて、単独で会話アプリとしてもちゃんと機能している」
 その間、ボクはまだアプリの利用規約を読んでいた。

「それから?」
「会話アプリを中心に見れば、動画やネットショッピングサイトともリンクしてるから、テキスト会話の中で自然に、動画や商品紹介なんかを入れられるわ」

「ああ、全てウチがやっている強みだよ。大手のテキスト会話サービスみたいに、唐突な広告では効果は薄いからね」
 久慈樹 瑞葉は、誇らしげに言った。

「でも……そうね」
「何か、気になる点でも?」

「異なるサービスとのリンクは面白いのだけれど、テキスト会話アプリ単独で見るとどうしても、大手海外サービスと比べて見劣りがするわね」

「ウウム、確かに改善の余地があるな。何かアイデアは無いのかい?」
「アイデアって言われたって……でも、他との差別化は必要よね?」
「そうだが……」

「だったら、タブ形式にしたらどうかしら。今話題のワードをタブにして、情報を切り分ける感じ?」

「な、成る程、素晴らしいアイデアだよ!」
 ユークリッドの社長は、目を輝かせてユミアの手を取った。

「確かに、アメリカの大手サービスでは、関係ない分野の情報は発信し辛いから、分野ごとにアカウントを作るユーザーも多い」
 ボクには、何のことかもさっぱりだ。

「アカウントではなく、タブで情報分野を切り替えられるのなら、ユーザーの利便性も増すハズだ」
「でも、ただタブ形式ってのも、詰まらなくない?」
「そ、そうか?」

「例えば話題のワードを、投票できるようにしちゃうのよ。で、ユーザーは人気のワードを選んで、タブにできる……みたいな?」

「スペシャルなアイデアだ。さっそく開発陣に伝えよう」
 その頃ボクは、利用規約を全て読み終えたところだった。

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・15話

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推理ゲーム

「小惑星・プリアムスには新造艦隊も集結し、観艦式も執り行う予定だったのですよ」
 プリアムスは星自体が軍事研究所で、全ての開発がAIによって行われているらしい。

「ですがパーティーのあった日、会場の警備をしていたアーキテクターたちが、突如として暴走を始め、会場にいた人間に銃を向けたのです」
 イーピゲネイアが、哀しい瞳を見せた。

「暴走は一分間だけ続き、アガメムノンの一族の方は、ほぼ亡くなられました」
「ほぼ……とは?」
「わたしを始め、何人かの子供たちは無事だったのです」

「一族と無関係の接待係や、人間の警備兵らも、何故かは解りませんが無事でしたな」
「アーキテクターたちは、アガメムノン一族のみを狙ったと?」

「わたしもアガメムノンの娘で、事故の当日は会場におりました。どうしてわたしだけ、助かったのかは謎ですが……」

「事件はアガメムノン会長と、妻のクリュタイムネストラ夫妻を始め、十三人の死亡と言うかたちで、一応の決着を見たのです」
 デイフォブス代表は、事故ではなく事件と述べる。

「本当に、AIの一時的な暴走であるのなら、事件ではなく事故なのでは?」
「こ、これは……失礼を。単なる事故の可能性も、大いにありますからな」
 やはり黒き英雄も、単なる事故とは考えていないようだ。

「もし事件だったらよ。当然誰かの策謀で、会長が暗殺されたってコトだろ」
「プリズナー、言い方!」
「お構いなく。父は暗殺されて当然の人間だと、思っておりますので」

「跡継ぎも、こう言ってんじゃねえか」
 トゥランは無言だったが、目で圧力をかけていた。

「本当に事件なら、誰が犯人かが重要になって来ますね」

「会長が、ギリシャ群を攻めると言った途端、暴走は起きたワケですよ」
 古代ギリシャ風の、黒い民族衣装を纏った男が、推理戦の口火を切る。

「デイフォブス代表は、ギリシャ群の者の仕業とお考えなのですか?」
「可能性は、大いにあるでしょうな」
「どうしてそう、思われるのです」

「小惑星アガメムノンにも、遠征に反対した者が少なからずおりしましたし、スパイや工作員が入り込んでいた可能性も、否定はできません」

「どんな決断にも、それを嫌がる人は存在します。ましてや自分の故郷である小惑星が、星ごと敵陣営に寝返ったのですから、父を憎む者もいたと考えられます」

 どうやらデイフォブス代表と、イーピゲネイアは、ギリシャ群の人間が犯人と思っているらしい。
でもボクは、その推理に疑問を感じていた。

「暴走は、一分だけと仰いましたが?」
「アーキテクターたちは、一分だけ銃撃を行った後に、ピタリと正気に戻ったのです」

「事故後のアーキテクターの様子は、どうだったのですか?」
「そうですね。まず自分が銃を構えているコトに驚き、目の前の惨劇を引き起こしたのが自分たちであるという現実を、受け入れられないコたちも多くいました」

「事故後も、プリアムスの軍事研究所は、稼働を続けているのでしょうか?」

「はい。AIから、事故は古い時代のバグが残ったもので、修正プログラムも当てられたとの報告がありましたので……」
 そう言いつつも、アガメムノンの娘は浮かない顔をしていた。

「どうやら宇宙斗艦長は、AIやアーキテクターが犯人とお考えのようだ」
 黒き英雄の眼が、ボクを睨む。

「そう……ですね」
 本来の気弱な自分を思い出し、目を逸らしながら答える。

「まず、アーキテクターの暴走を引き起こすコトが、人間に可能でしょうか?」

「どんなに優秀な人間であろうと、無理でしょうね……」
「彼らの機構(アークテクト)を理解するなど、人類の脳のスペックでは到底不可能なのです」

 二人の答えに、ボクは言い知れぬ寂しさを感じていた。

 

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