ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・16話

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燻っていた謎

「だがよ、艦長。二年前の惨劇が事故では無く事件で、犯人がいたと仮定してもだ」
 プリズナーが、ボクの推理に反論する。

「犯人がAIの脳を備えたアーキテクターだったとしても、そのアーキテクターが、ギリシャ群の工作員って可能性も十分にあるぜ」

「この時代……犯人が人間とは、限られないんだな」

「その通りだ。もちろん実行犯は人間で、AIの開発したウィルスプログラムを、会場のアーキテクターたちに感染させた疑いもある」

 やはり、二十一世紀生まれのただの高校生の推理力など、未来の時代には何の役にも立たないのだ。

「我々はアーキテクターの暴走で、会長と多くの命を失った。それゆえ今回の艦隊乗っ取り事件を、重く受け止めておるのです」
 デイフォブス=プリアモス代表が言った。

「ですが、もし宇宙斗艦長に敵意があるのなら、すでにこの宙域は戦闘体制にあるハズ」
 ターコイズブルーの真っすぐな瞳が、ボクを見つめる。

「わたし達の艦隊を乗っ取ったのは、本当に宇宙斗艦長ではないとわたしは思います」
 先代会長の娘は言った。

「信じていただき、有難うございます」
 ボクは、論理や知識に基づかない判断をしてくれた、イーピゲネイアに感謝する。

「ギリシャ群、トロヤ群の二つの艦隊を乗っ取ったのは、『時の魔女』の艦でした」
 ベルダンディが用意してくれた、敵艦との交戦時の動画の入ったチップを差し出す。

「これが、敵艦の姿なのですか!?」
「まるで、タコかイカのようだな。クラーケンとでも言った方が、適切か」
 やはり未来にあっても、異形の艦だったようだ。

「艦の正式名称は解りませんが、便宜上『漆黒の海の魔女』と呼んでいました。映像にはありませんが、魔女はいきなり、我が艦の前方にワープをしてきたのです」

「バ、バカな。ワープなど、未だ開発されていない技術ですぞ」
「そう聞き及んでいます。ですが……」
「ホントだよ。いきなり艦橋の前に、ババーンと現れたの」

「我が艦、MVSクロノ・カイロスは、前方の進路を塞がれ、交戦を余儀なくされたのです」
「では、漆黒の海の魔女が、わたし達の艦隊を、乗っ取った犯人なのですね?」

「実は乗っ取った現場を、目撃したワケでは無いのです」
「他に別の艦が存在した可能性も、十分あるわ」
 トゥランが、口添えをしてくれる。

「ですがナゼ、敵艦に乗っ取られたハズの艦隊のコントロールを、貴方が得ているのですかな?」
 黒き英雄の瞳が、ボクを威圧した。

「いえ。我々がコントロールを得ているワケでは、ありません」
「今のところ勝手に付いて来ているだけで、命令もできないわ」
「でもでも、親鳥に付いてくヒナ鳥みたくて、可愛いのです」

「なんとも奇妙な事件……ですな」
「一体『時の魔女』とは、何者なのでしょうか?」
 イーピゲネイアの疑問は、ずっとボクの頭の中に浮かんだ疑問だった。

「実は我々の艦も、『時の魔女』が創ったものなのです」
「な、なんと。それは誠ですか?」

「ああ、マジだぜ。現にオレたちは、火星の衛星フォボスで艦に拉致られたんだ」
「『ウィッチレイダー』と呼ばれる、少女たちにね」
 プリズナーと、トゥランが答える。

「拉致の目的は、どうやらボクだったみたいです」
 外交問題になりそうなご令嬢、クーヴァルヴァリアの名は伏せた。
「その後、色々とあって艦長に就任するコトとなりました」

「にわかには、信じがたい話だが……」
「ですが、誠実に話してくれているように思えます」
 感情で感想を述べるだけの二人に対し、ボクは人間の限界を感じる。

「やはり、懸念と言うのは……」
「率直に言ってしまえば、AIたちの反乱です」

 かつて人間は、創造神の如くAIを生み出した。
AIやロボット技術の革新や発展は、ボクの眠っていた千年の間も続き、やがてアーキテクターやサブスタンサーなどへと進化する。

「一体、時の魔女とは何者なのでしょうか?」
 イーピゲネイアが、ボクに問いかけた。

 それはボクの心の中で、ずっと燻っていた疑問でもあった。

 

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