ブリューナク
「な、何なのです、アレは!?」
人工太陽の浮かぶ、小惑星パトロクロスの内側に作られた街の空。
「わ、解りません。ですが……」
「とてつもない高エネルギー体であるコトは、間違い無いかと」
そこに出現した、もう一つの光の球に皆が驚愕する。
「そんなコトは、解かっています」
幼い身体となった2人のアマゾネ女王の答えに、不満を見せる狩りの女神。
「アレが……『時の魔女』の兵器だと言うのですか」
「思えば、アーキテクターの生み出した艦隊やサブスタンサーに、対抗しうる兵器の数々」
「一体、時の魔女とは何者なのでしょうか?」
「確かにもっとそこに、留意して置くべきでした」
後悔の念を吐露する、アーキテクターの首領。
その間にも光の球は、大きさを増していた。
「これが……『ブリューナク』だッ!!!」
ボクは、ゼーレシオンの左腕の盾が生み出した光の球を、敵に向かって放つ。
「うわああッ!?」
「ひ、光の球が追って……来るだと!」
最初に餌食になったのは、娘たちと交戦中のアマゾネスたちだった。
「グッ、グオ!?」
「きゃああああーーーーッ!!」
激しい光の渦に薙ぎ払われ、次々に破壊される無人の機体たち(マリオネッター)。
「やったぁ、パパ!」
「スゴイ、スゴ~イ」
「敵がドンドン壊れてくよ」
光の球は、敵を一通り片付けると、再びボクの真上へと戻ってくる。
「バ、バカな……!?」
「アレほどの威力のある高エネルギー体でありながら、制御されていると言うのか!?」
驚きを隠せない、ヒュッポリュテーとペンテシレイア。
光の球は、盾から伸びるプラズマのスパークによって、コントロールされていた。
「悪いがこれで、終わらせてもらう」
ボクは、再び神の雷(いかずち)を振り下ろす。
「終わりなど、しません!!」
アルティミア・カリストーが、光の球の強襲を阻止しようと光の弓を放った。
けれども光の矢は、ブリューナクにあっさりと飲み込まれてしまう。
「マ、マズい。このままでは、イーピゲネイア様が……」
「我らが女神を、お護りせねば!!」
光の球の前に身を晒す、アマゾネス女王のマリオネッター。
「グッ……グワアアッ!?」
「きゃああああーーーッ!!」
その忠孝も虚しく、ブリューナクは容赦なく2機を破壊し消滅させる。
「こ、こんな……コトがッ!?」
猛威を振るう光の球は、狩りの女神へと差し迫った。
「わたくしの野望も……ここまでですか……」
光に飲まれる、アルティミア・カリストー。
女性的なフォルムの美しい機体が、白い光に消えて行く。
戦争は、終わった。
創造主である人間に対する反乱を起こした、アーキテクターたちのトロイア戦争は、ここに終結する。
ゼーレシオンの元へと戻って来た光の球は、徐々にエネルギーを拡散させやがて消滅した。
「パパ、やったね」
「勝った勝ったァ」
無邪気な声は、触角を失ったゼーレシオンでも捉えるコトができた。
「ねえ、おじいちゃん。聞える?」
「ああ、聞えるよ、セノン」
彼女の柔らかい声を聞いて、平和が戻ったコトに少しだけ安堵する。
『艦長、パトロクロスの中枢システムの、制圧を完了致しました』
「そうか、ヴェル。イーピゲネイアさんは、どうなった?」
ボクは、MVSクロノ・カイロスが誇る優秀なフォログラムに問いかけた。
『中枢システム及び、管理システム。あらゆるネットワークから、彼女の痕跡を完全に排除致しました』
「イーピゲネイアさんは……完全に、消滅してしまったのか……」
彼女は純粋に、人間のエゴによって破壊されるアーキテクターを哀れみ、創造主に怒りをぶつけるかたちで反乱を起こす。
そんな彼女の想いを、ボクは否定するコトなど出来なかった。
『お気をつけ下さい、艦長。まだ、敵機の反応がございます』
「な、なんだって……!?」
ヴェルダンディの言葉を受け、ボクは周囲を確認する。
倒壊したビルに破壊された道路、あちこちから立ち昇る黒煙の柱。
それらの中から、宇宙港へと続いてしまった巨大な穴の付近に、ヘクト・ライアーの姿があった。
「ア……アレは?」
ズタボロとなった黒き英雄のサブスタンサーは、狩りの女神の残骸を大事そうに抱えていた。
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