新たなトロイア戦争
「何だ、これは。小型の、アーキテクターか?」
ペンテシレイアの姉である、ヒュッポリュテーが言った。
彼女の長い髪は、サファイア色の妹とは異なり、エメラルド色をしている。
12人の部下と共に、赤に金色の縁取りのビキニアーマーを着ていた。
「ヒュッポリュテー。戦闘機が変形するぞ」
ペンテシレイアは、姉を呼び捨てにする。
ピンクやオレンジ、チョコレート色の戦闘機が、可愛らしい少女の姿へと変形した。
「頼もしい援軍が、来てくれましたよ、マケマケ」
「ああ。なんてったってアイツらはたた1機で、フォボスの軍用コンバット・バトルテクター12機を、一瞬にして壊滅させたんだからよ」
「それじゃ、頼んだわよ。マニプュレート・プレイシィンガーたち」
トゥランの号令と共に、60機もの機体がアマゾネスの女王姉妹と、二人が率いる24人のアマゾネスに襲い掛かる。
カラフルな色の少女たちが、腕に付いたレーザーを一斉斉射した。
無数の閃光が、26人のアマゾネスたちを追尾する。
「フォーミング能力を持った、レーザーだと!」
「小賢しい真似をする」
アマゾネスの姉妹は、レーザーを盾で防ぎ、剣で切り裂いた。
他のアマゾネスたちも、剣で切り裂くコトは無かったが、半月型の盾でレーザーを防ぐ。
「彼女たちの盾は、レーザーを無力化するのか、トゥラン?」
「どうやらその様ね、艦長。これは、少々厄介だわ」
「そんな……軍用機すら、瞬殺したヤツらなのに……」
「軍用機と言っても、ハルモニアを拠点とする、マーズ宙域機構軍のコンバット・バトルテクターなのでしょう。そんな100年以上も、機構(アーキテクト)を変化させていない旧型(ロートル)機を倒したところで、何の意味があると言うのです」
イーピゲネイアは、相手の戦力を見極め、情報分析を終えようとしていた。
「た、確かに、戦争がほぼ無かった火星圏の警備軍と、戦争ばかりしていた二つの軍事企業が生みだしたアーキテクターじゃ、能力が違い過ぎるのか」
「そうらしいな、真央。戦国時代の日本が、文禄の役や慶弔の役で唐軍を相手に戦えるくらい強かったのも、納得ができるよ」
「メソポタミアの王朝をいくつも滅ぼしたエラム人や、勇猛な騎馬民族スキタイ、そう言えばエトルリアも、戦争ばかりしていたローマに滅ぼされたわね」
エトルリアの女神の名を持つ、トゥランが言った。
「出自と言うならばアマゾネスも、スキタイに関係があるとされていますね。彼女たちが使う半月型の盾はペルタストと呼ばれ、後にギリシャ軍にも取り入れられました」
イーピゲネイアは、何故かトゥランに張り合う。
「交戦的な戦闘部族アマゾネス……考えてみれば、アルテミスと共通点が多いな」
「え、そうですか、おじいちゃん?」
「女性だけの部族と処女神、狩り、それにどちらも元はアナトリアの出身であり、トロイア戦争ではトロイアの味方をした……」
「フッ、確かにわたしはトロイア戦争において、英雄アキレウスに討たれたのだったな」
ペンテシレイアが言った。
「アマゾネスとアルテミス、元は同じ女系部族を指す言葉だったのかも知れませんね」
アルテミスと同義の名を持つ少女は、哀しそうな笑みを浮かべる。
「歴史に想いを馳せるときは、終わりました。これより、現実の狩りを再開いたしましょう」
「イービゲネイア。ホントに、ボクたちが戦わなくちゃいけないのか?」
「これは人間とアーキテクターとの、新たなトロイア戦争なのです。覚悟を決めなさい」
「戦争なんかして、何になる!」
「それは、我々アーキテクターが抱いていた疑問です。人間たちの無意味な戦争で、我らが同胞が意味も無く塵となって、宇宙を漂っているのですよ」
「人間も……無意味な戦争なんて、言える立場じゃ無いのか」
「60機のマニプュレート・プレイシィンガーは、オモチャと言えど我らがアーキテクターの同胞となり得ます。破壊せず、無力化しなさい」
「我が女神よ……」
イービゲネイアの左右に陣取った、二人のアマゾネスの女王。
「仰せのままに」
姉妹のがそれぞれが、12人の部下を率いて突撃して来た。
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