ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・55話

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尾羽張 御中(オハバリ ミナカ)

「なに勝手に、答えてやがる!」
 プリズナーが、相棒に対し怒りを顕(あらわ)にした。

「相手は、アナタよりも高齢のお爺さんなのよ。年齢くらい、イイじゃない」
 トュランが、悪戯っぽい顔で笑う。
アーキテクター(機構人形)と言えど、表情豊かなのだ。

「トゥラン、それってボクのコトだよな?」
「他に1000年も生きた人間なんて、わたしは知らないわ」
 彼女の受け答えも、ウィットに富んでいる。

「ま、ガキだったオレは、あの刑務所で育ったワケだ」
「多感な、青春時代をね」
「うっせ。テメェ、殺すぞ」

 プリズナーはそう言ったが、アーキテクターに命が宿っているのか、ボクには解らなかった。

「刑務所ってのも、少年兵だったオレにとっては、天国みてェな場所でよ。大人たちの大半は、10歳のオレに服従してやがったぜ」

「そこで、ギムレットさんにも出会ったのか?」
「まあな。アイツは、オレに怯える素振りも見せず、偉そうに色々と説教を垂れて来やがってな。何度、本気で殺そうと思ったコトか……」

「全ての発言が、物騒だな。でもキミは、ギムレットさんとあるアーキテクターの力を借りて、刑務所を脱獄したのだろう?」

「ケッ。あの野郎、死に際にそんなコトまでバラして、逝きやがったのか!」
 プリズナーの脚が、固そうなテーブルを蹴り飛ばす。

「その時に手助けした、アーキテクターってのは……やはり?」
 ボクの視線は、目の前の凶悪な男から、クワトロテールのアーキテクターに移った。

「モチロン、わたしよ。このコたちも、一緒だったわ」
 トゥランの4本の髪パーツから、4体の少女型アーキテクターが分離する。

「う~ん、久しぶり」
「やっと、わたし達の過去が明かされる日が来たのね」
 4体のうち、ラサカとラサナが言った。

「オメーらの過去じゃなくて、トゥランの過去だろうが」

「同じコトよ」
「わたし達とトゥランは、一心同体なんだから」
 ラサヤとラサラの2体が、プリズナーに反論する。

「キミたちは、プリズナーが冷凍睡眠(コールドスリープ)から目覚める前に、創られていたのか?」
「そうよ。彼が冷凍睡眠から目覚めるときにも、立ち会っているしね」
 本体である、トゥランが答えた。

「次の質問は、解ってるわ」
「わたし達は、誰に創られたかを聞きたいんでしょ?」
 ラサのうちの2体が、ボクの心を見透かしたように微笑む。

「残念ながら、あの男よ」
「わたし達の記憶が、書き換えられてなければね」
 イヤそうな顔を浮かべる、ラサヤとラサラ。

「あの男って、もしかして……」
 今度は視線を、メイリンとラビリアに向けた。

「たぶん、わたし達を生み出した人だリン」
「生物学とか、機械工学とかの権威だったらしいラビ」
 実験室で生まれた2人の少女が、怯えた瞳で答える。

「その男の名は、なんと言うんだ?」
「名前なんて、意味があると思ってんのか?」

「プリズナー(監獄男)、ギムレット(酒の名前)……とうてい、本名だとは思えないしな。だけど便宜上、読み方があった方が困らないだろ?」

「チッ……」
 監獄の名を取った男は、得意の舌打ちをした。

「オハバリ ミナカとか、名乗ってやがったぜ」

「ずいぶんと、変わった名前だな。どことなく、日本語っぽくもあるような……」
 言葉の響きからか、そう感じるボク。

「なんか、おじいちゃんの名前と似てますね?」
「彼は日本人か、日本人の血が混じっていたのかも知れないわ。漢字では、尾羽張 御中(オハバリ ミナカ)と書くみたいね」

 栗毛の少女の感想を受けたトゥランが、ラウンジのモニターに男の漢字名を表示した。

「今は、宇宙のどこに逃げたのかも解らない、男のコトを議論したって意味が無ェだろ」
「そうね。ミネルヴァが倒れた今、今後の方針を決めるのが最優先だわ」
 プリズナーとトゥランが、ボクの顔を見る。

「この艦の艦長は、ボクじゃ無いんだが」
「それでも、ミネルヴァの遺志を受け取ったのは、アナタでしょう?」

 クワトロテールのアーキテクターの正論に、反論の余地はなかった。

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