王都の激闘1
「卿は、覇王パーティーの、天酒童 雪影ではないか」
オフェーリア王国が誇る天才軍略家、グラーク・ユハネスバーグが問いかける。
「いかにも」
オレンジ色の軍団に併走する白馬に乗った男が、短く答えた。
「魔王は、わたしたちが何とかする」
「魔物の軍があちこち荒らしてるから、そっちは任せる」
褐色の肌にオレンジ色の瞳、白い髪の双子が生意気な指示を出す。
「なんだァ、このガキ共は。お前らなんかで魔王の相手ができるのかァ?」
「コヤツらも、元は邪神だ。心配はあるまい」
ニーケルスの危惧に答える、グラーク。
「よく見れば跨っている馬は、禍々しいスケルトン・ホースじゃねえか」
「ならばこの者たちが、蒼髪の勇者によって少女となった魔族なのですね」
「そうだ、レーゼリック。他に双子司祭もおられる様だ。任せて問題はあるまい」
黒い馬鎧を装備した二頭のスケルトン・ホースの後ろを、白と金色の馬鎧を纏った二頭のユニコーンに乗る、ピンク色の髪の双子司祭が追走する。
「うん。魔王は任せて」
「もう、姉さま。相手はグラークさまですよ」
「わ、わかってるよォ!」
「グラーク殿、魔物の大群が王都より打って出て、こちらに向かって来るぞ」
「フッ。魔物風情が、このオフェーリア軍に野戦を挑むか?」
軍の司令官はニヤリと笑うと、魔物の軍隊に突撃を開始した。
「むしろ、のこのこ出て来たのが、運の尽きよ」
「我らの戦術、見せつけてくれようぞ」
ニーケルスとレーゼリックも、グラーク司令の後に続く。
「なれば我らは、魔王の討伐に向かう。お前たちもついて参れ」
「言われなくたって、倒す」
「我が死霊剣の力、見せてやる」
「まさかあのコたちと、共闘するハメになるとは思いませんでした」
「だよね。でも今は、心強い味方なんだ」
双子姉妹も、自分たちをの命を奪いかけた邪神姉妹の背中を追った。
「アレが……魔王か」
雪影は白馬を走らせながら、魔王の容姿を観察する。
「古風な鎧に、背中に四枚の羽根……お前たち、心当たりは?」
「無い。ルーシェリアのヤツほど、魔族に詳しくない」
「それにあの魔王は、サタナトスが生み出したモノ」
王都に降臨し、王城と王を屠った魔王は、『ザババ・ギルス・エメテウルサグ』と名付けられていた。
けれども、サタナトスの命名など知る由も術い一行は、名も知らぬ魔王に向かって駆ける。
「街に、死体が溢れてる」
「血生臭い香りが、鼻腔をくすぐる」
焼け落ちた正門から王都に入ると、至るところに市民の亡骸が転がっていた。
「ちょっと、二人とも。不謹慎だよ!」
「まあ元死霊の王ですから、死体は好物なのでしょうが」
僅かに残った魔物を蹴散らし、王都のあった瓦礫の近くまで辿り着く一行。
「敵の能力が解らんのだ。まずは様子を……」
「フッ、臆したか、雪影」
「一番槍とやらは、貰った」
「一番槍って、なんでしょう?」
「さあ?」
双子司祭が見上げる先で、元邪神の双子は剣を抜く。
「我が死霊剣、『べレシュゼ・ポギガル』よ。敵を呪い殺せ!」
「我が剣、『フェブリュゼ・ポギガル』よ。敵に毒を負わせろ!」
二つの剣劇が、魔王の両肩にヒットする。
「あ、危ない!」「魔王が攻撃に転じます!」
宙を舞う二人の前で、古代の兜を被った魔王の眼が紅く光った。
「ぐわっ!?」「うぬうッ!」
魔王の口が開き、真っ白な閃光が双子を一閃する。
「無作為に突出し過ぎだ。魔王には……」
「呪いも毒も、利かないワケじゃない」
「要は、どちらの魔力が上かだ」
閃光を自らの剣で防ぎ、着地したネリーニャとルビーニャが言った。
「フッ、あヤツと似たようなコトをほざく……」
異国の剣士は、口元を僅かに緩める。
「ならばこの『天酒童 雪影』も、一戦舞ってみるといたそう」
剣士は、左の腰に下げた二本の剣に手をかけた。
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