推理ゲーム
「小惑星・プリアムスには新造艦隊も集結し、観艦式も執り行う予定だったのですよ」
プリアムスは星自体が軍事研究所で、全ての開発がAIによって行われているらしい。
「ですがパーティーのあった日、会場の警備をしていたアーキテクターたちが、突如として暴走を始め、会場にいた人間に銃を向けたのです」
イーピゲネイアが、哀しい瞳を見せた。
「暴走は一分間だけ続き、アガメムノンの一族の方は、ほぼ亡くなられました」
「ほぼ……とは?」
「わたしを始め、何人かの子供たちは無事だったのです」
「一族と無関係の接待係や、人間の警備兵らも、何故かは解りませんが無事でしたな」
「アーキテクターたちは、アガメムノン一族のみを狙ったと?」
「わたしもアガメムノンの娘で、事故の当日は会場におりました。どうしてわたしだけ、助かったのかは謎ですが……」
「事件はアガメムノン会長と、妻のクリュタイムネストラ夫妻を始め、十三人の死亡と言うかたちで、一応の決着を見たのです」
デイフォブス代表は、事故ではなく事件と述べる。
「本当に、AIの一時的な暴走であるのなら、事件ではなく事故なのでは?」
「こ、これは……失礼を。単なる事故の可能性も、大いにありますからな」
やはり黒き英雄も、単なる事故とは考えていないようだ。
「もし事件だったらよ。当然誰かの策謀で、会長が暗殺されたってコトだろ」
「プリズナー、言い方!」
「お構いなく。父は暗殺されて当然の人間だと、思っておりますので」
「跡継ぎも、こう言ってんじゃねえか」
トゥランは無言だったが、目で圧力をかけていた。
「本当に事件なら、誰が犯人かが重要になって来ますね」
「会長が、ギリシャ群を攻めると言った途端、暴走は起きたワケですよ」
古代ギリシャ風の、黒い民族衣装を纏った男が、推理戦の口火を切る。
「デイフォブス代表は、ギリシャ群の者の仕業とお考えなのですか?」
「可能性は、大いにあるでしょうな」
「どうしてそう、思われるのです」
「小惑星アガメムノンにも、遠征に反対した者が少なからずおりしましたし、スパイや工作員が入り込んでいた可能性も、否定はできません」
「どんな決断にも、それを嫌がる人は存在します。ましてや自分の故郷である小惑星が、星ごと敵陣営に寝返ったのですから、父を憎む者もいたと考えられます」
どうやらデイフォブス代表と、イーピゲネイアは、ギリシャ群の人間が犯人と思っているらしい。
でもボクは、その推理に疑問を感じていた。
「暴走は、一分だけと仰いましたが?」
「アーキテクターたちは、一分だけ銃撃を行った後に、ピタリと正気に戻ったのです」
「事故後のアーキテクターの様子は、どうだったのですか?」
「そうですね。まず自分が銃を構えているコトに驚き、目の前の惨劇を引き起こしたのが自分たちであるという現実を、受け入れられないコたちも多くいました」
「事故後も、プリアムスの軍事研究所は、稼働を続けているのでしょうか?」
「はい。AIから、事故は古い時代のバグが残ったもので、修正プログラムも当てられたとの報告がありましたので……」
そう言いつつも、アガメムノンの娘は浮かない顔をしていた。
「どうやら宇宙斗艦長は、AIやアーキテクターが犯人とお考えのようだ」
黒き英雄の眼が、ボクを睨む。
「そう……ですね」
本来の気弱な自分を思い出し、目を逸らしながら答える。
「まず、アーキテクターの暴走を引き起こすコトが、人間に可能でしょうか?」
「どんなに優秀な人間であろうと、無理でしょうね……」
「彼らの機構(アークテクト)を理解するなど、人類の脳のスペックでは到底不可能なのです」
二人の答えに、ボクは言い知れぬ寂しさを感じていた。
前へ | 目次 | 次へ |