ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・14話

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アガメムノン王

 ギリシャ群とトロヤ群は、木星を挟んだラグランジュポイントに存在し、互いに交戦をしている。

 トロヤ群に存在する企業国家、トロイア・クラッシック社の会長が、ギリシャ群からの亡命者だとは驚きだった。

「父は、ギリシャ群に属する小惑星アガメムノンの最有力者で、名前も小惑星の名を冠していました」
 イーピゲネイアは、俯きながら言った。

「それがなぜ、トロヤ側に降るコトとなったのですか?」
 アガメムノン王……。
トロイア戦争において、パリスと共に戦争のきっかけとなった人物。

「アキレウス……代々アキレウスを名乗る一族との、軋轢と言ったところでしょうか」
 デイフォブス=プリアモス代表は、解かりにくく言った。
つまりは権力争いに敗れ、亡命を余儀なくされたのだろう。

「古代ギリシャの時代から、何千年が過ぎ去っても、人間は戦争も権力闘争も止めないのです。あの事故も、それに呆れた神々の仕業かも知れませんね」

「神々ですか。トロイア戦争もやはり戦争で、神々の派閥争いの側面もありましたが」
「そう……ですわね。神々も、人とあまり変わらないのかも知れませんね」
 ボクのイジワルな答えに、イーピゲネイアはクスリとほほ笑んだ。

「実はその事故と言うのが、我々の懸念材料なのですよ」
「……と言うと?」

「本当にアレは、事故だったのかと言うコトです」

「まずは事故がどんなだったか、詳細を話せよ」
「プリズナー、ここは交渉の席なのです。あまり粗暴な態度は取らないで」
「ヘイヘイ、わ~ッたよ」

「そうですな。それにはまず、アガメムノン会長がどんな人物だったのかを、話さなければなりません」
 威風堂々とした黒き英雄は、フウっと息を吐くと隣に座った少女を見た。

「遠慮など無用です。父は強欲で、短慮で、傲慢で、その上疑り深く、誰をも信じない人間でした」
「自分の父親を、そこまでこき降ろすとは、顔に似合わず大胆だな」
「どう思われても構いません」

「そんな人が、どうしてトロヤの支配者たる、トロイア・クラッシック社の会長の座を手に入れられたのでしょうか?」

「ギリシャ群での権力闘争に敗れた父は、小惑星アガメムノンごとL5のトロヤ群に、亡命したのです」
「そ、それって、とてつもない距離を、小惑星が移動したコトになりますよ!?」

 実際の宇宙は、何もない……正確に言えば、惑星や岩石などの物質が無い場所が殆どだ。
例えば月と地球は、間近に思う人も多いと思うが、太陽系の全ての惑星が並んだ距離くらい離れている。

「太陽を中心とした木星の公転半径は、約8億キロね」
 L4のギリシャ群、L5のトロヤ群は、太陽を中心とした木星の公転軌道の上にあり、木星を頂点とした二等辺三角形の、底辺の対局に位置した。

「直線でも10数億キロを、小惑星が移動したコトになりますが?」
「それ『アガメムノンの大遠征』ってヤツですね。コミュニケーションリングの情報にあります」
 セノンが言った。

「父は指導者として、小惑星アガメムノンの民を扇動し、遠征を強引に成し遂げました。重力による小惑星の損傷や、気候の変動によって、多くの者が命を失ったのです」

「けれどもトロヤ群の民衆は、熱狂的に彼と、彼の名を持つ小惑星を迎え入れました」
「大遠征を成功に導いた立役者か……解からなくもない話だぜ」

「英雄となったアガメムノンは、やがてトロヤ群でも人脈を築き、小惑星アガメムノンの民も彼に力を貸し、会長の座を手に入れたのです」
 会長の英雄譚は、それで終わった。

「事故は、遠征の20周年記念パーティーで起こりました……」
「やっと本題だな。イラっとさせるぜ」

「父の兄弟一族や会社の関係者らが、ただ父を褒め称えるためだけに、小惑星プリアムスに集められたのです。そこで父は、ある発表を行いました」
「その発表とは?」

「ギリシャ群に新造艦隊をもって遠征を行い、征服すると父は宣言したのです」

 古代ギリシャから数千年後のアガメムノン王も、やはり戦争を始めるきっかけを作る人物だった。

 

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