ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第06章・43話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

魔女と量子論

「なあ、クーリア……」
「なんでしょう、宇宙斗艦長」
 バーチャルコースターを降りたボクは、隣に座っていた女のコに問いかけた。

「クーリアはバーチャルコースターで、一体どんな映像を見たんだ?」
「どんな……とは、スピード感のあるファンタジーとSF的な映像だったと思いますが?」
 ボクの見た内容もSFではあったが、内容が食い違っている気がする。

「もう少し、具体的な内容はどうなんだ、セノン?」
「えっとですねえ、最初にお魚さんが泳ぐ海の中を進んで、海から出て雲の上を飛びましたよね?」
「ええ。雲の王国を巡った後、宇宙に飛び出して行きましたわ」

「宇宙で、おっきな戦艦や戦闘機が戦ってましたね。スゴい迫力だったですゥ」
「それから敵の要塞に入って、破壊してエンディングを迎えたのですが……ナゼ、そのようなコトを?」

「ボクが見たのは、2人が見た内容とは違うんだ」
 そう言うと、2人は驚いて口を手で覆っていた。

「例えば人によって、見えるモノが違うと言うコトは無いのか。搭乗者の深層心理にアクセスして、それに応じた映像を流すとか?」

「このコースターは、そんな仕様では無いと思いますが」
「そうだよ、おじいちゃん。気絶して、夢でも見ていたんじゃないんですか?」

「失礼だな。気なんか失って無いよ」
「それで艦長は、どんな映像をご覧になったのでしょう?」
 ドリル状のピンク色のクワトロテールを揺らし、ボクの顔を覗き込むクーリア。

「ボクが見たのは、第三次世界大戦の映像……それから、時の魔女との激戦だよ」
 ボクは、クーリアや大勢の少女たちと共に、コースターの乗り場を出ながら答える。

「オイオイ、なんだかメチャクチャハードな内容だな」
 後ろで会話の内容を聞いていた、真央が言った。

「だね。でも、おかしい……」
「ウン。わたしが見た映像も、セノンやクーリアの言った内容と同じだったしね」
 ヴァルナとハウメアも、盟友の話に追従する。

「それじゃあ、ボクだけが異なった内容の映像を見ていた……そんなコトが、あるのか?」
「誰かがコースターに、ハッキングを仕掛けて細工でもしたのでしょうか?」

「わ、わわ、わたしはまだ、何もしてません。クーリアさま、信じて下さい!」
 護衛役を務める3人の少女の1人であるフレイアが、アワアワと慌て始めた。

「別にフレイア。わたくしは、貴女が何かしただなんて思っておりません!」
「そ、そうでしたか。失礼致しましたァ!」
 顔を真っ赤に染めながら、シルヴィアとカミラの間に消える少女。

「ハッキングの可能性……もしかしたら、時の魔女が絡んでいるのかも知れない」
 ボクは振り返って、バーチャルコースターの乗り場を見る。

「ですが時の魔女は、どこの誰とも解らず、存在しているかすら解らないとの見解が、ディー・コンセンテスからも示されております」
「だけどクーリア。ミネルヴァさんたちはあんなにも、時の魔女を警戒していたじゃないか」

「宇宙斗艦長の、考え過ぎじゃねえか。時の魔女なんて、漆黒の海の魔女をけしかけて来て以来、鳴りを潜めてるだろ」
「そう言えばそうですよ、マケマケ。う~ん……」

「なんだよ、セノン。珍しく考え込んじまって」
「珍しくは失礼ですゥ。でも、漆黒の海の魔女をけしかけて来たのは、事実なんですよね」
「そりゃまあ……推測ではあるケドな」

「艦の形状や性能からして、まず間違いは無いだろう。バーチャルコースターで見た映像でも、漆黒の海の魔女と同系統の艦が、地球の艦隊を一蹴していたよ」

「そう……だよな。警戒は、怠るべきじゃねえってか」
 真央も、ボクやセノンの意見に納得した。

「クロノ・カイロスにしても、時の魔女から与えられたモノだ。どうしてボクを艦長にしたのかも、謎のままだしな」

「何処に居るのかも解らない。その素顔や目的も解らない。けれども、存在しているコトは推察できる。これではまるで、量子論のようではありませんか?」

 存在するコトが解れば位置が特定できなくなり、位置が特定されれば存在するかどうかが解らなくなる……ナノマイクロの微細な量子の世界は、ボクたちが眼で見ている世界とは異なった理(ことわり)が支配する。

「的を射た答えだね、クーリア。時の魔女はもしかすると、量子力学的な存在かも知れないな……」
 パルク・デ・ルベリエから、ドームに覆われた宇宙を見上げるボク。

「時の魔女……やはり、キミなのか?」
 けれども星々は、何も言わずただ煌めいていた。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第六章・EP018

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

兄と妹

「話は聞いた。スマン、妹が世話になったな」
 千葉委員長が、ボクに向かって軽く頭を下げる。

 風流な和のたたずまいの居間で、正座をするボクの前に座った。
渡り廊下を挟んだ向こうには、質実剛健な創りの道場が見える。

 妹……考えてみれば、直ぐにわかるコトじゃないか。
ボクがオブって運んだ女のコは、千葉 沙鳴で、委員長の名前は千葉 蹴策なのだから。

「……ったく、明日が試合だってのに、今日はやけに練習早く終わんなと思ったら、岡田先輩がそんなコトしてやがったのかよ」
 所属するサッカー部の先輩に、実の妹を傷付けられ、怒りをぶつける千葉委員長。

「沙鳴のお兄さん、お茶です。どうぞ」
 バドミントン部キャプテンの、海帆 春香さんがボクと同じ湯呑にお茶を注ぎ差し出した。

「春香ちゃんも、済まねェな。ウチの部活の先輩たちが、派手にやらかしたみてーでよ」
「いえ。練習場をめぐって、わたし達バドミントン部が因縁つけられてたところを、沙鳴が割って入ってくれたんですが……」

「岡田先輩に、返り討ちに遭っちまったのか。あの先輩、イカレてやがるからな」
「沙鳴はバットで右脚をやられて、それで……その……」
 言葉を詰まらせる、海帆さん。

「まあ、本気で殺されそうになったんだ。チビっちまうのも、無理ねえよ」
「その時、沙鳴の彼氏さんがサッカーボールで、アイツのバットを弾いてくれたんです」

「御剣が、沙鳴の彼氏ィ!? お前ら、付き合ってんのか!!?」
 血相を変えてボクを睨む、千葉委員長。
ボクは、激しく顔を横にスイングして否定した。

「そりゃそうか。アイツ、お調子者だからな。口から出まかせでも言ったんだろ?」
「わたしもタブン、そんなトコだろうとは思ってました」
 二人は顔を見あわせ、ため息を吐く。

「アイツ、どうしてる?」
「今、森や庄司たちに、お風呂で身体を洗って貰ってます」
「ずいぶんと、世話かけちまったな」

「沙鳴は、わたし達の為に戦ってくれたんです。それに、去年の合宿ではお世話になりましたしね」
「そうだったな。アイツも少しは凝りて、大人しくなってくれりゃ良いんだが」
 そう言うと千葉委員長は、グイッと茶を飲み干した。

「御剣。迷惑かけて悪いんだが、今日のコトは他言しないでやってくれるか?」
 湯呑みを置き、ボクを真っすぐに見る瞳。

「アイツもジャジャ馬ではあるが、あれでも年頃の女のコなんでな」
 妹を気に掛ける、優しい兄でもある千葉委員長。

 ボクはコクリと頷く。
心配する必要もなく、ボクは奈央くらいしかまともに話せないんだケド……。

「キャプテ~ン、こっち終わったよォ」
「傷も湿布と包帯巻いて、手当てして置きました」
「沙鳴の部屋に布団しいて、寝かしといたから」

「汚れた制服もパンツも、洗濯機に放り込んで……あ!?」
 兄が帰っているとは知らずにやって来た、4人の女子中学生。

「ワ、悪ィな。沙鳴のヤツ、迷惑かけっぱなしで」
 居間に、気まずい空気が流れる。

「い、いえ。アンタら、なにやってんのよ!」
 キャプテンが、必死にその場を取り繕った。

 それから直ぐに、ボクたちは道場を後にする。
急いでデッドエンド・ボーイズの練習場に向かったが、待っていたのは練習を終えた紅華さんたちと、監督の怒った顔だった。

「沙鳴……入るぞ」
 その頃、千葉 蹴策は、妹が眠る部屋の障子を開けようとしていた。

「全くお前は……無茶が過ぎるだろう」
 膨らんだ布団の中に、亀みたいに引き籠る妹を前に、ドカッと胡坐をかく。

「だ、だって……春香たちが……悪いヤツらに襲われて……」
「お前もまだ剣は、修行中の身だ。それに岡田先輩は、イカレてるからな」

「ア、アイツらやっぱ、お兄ちゃんの先輩なの!?」
「そう……なるな。スマン」
「スマンじゃ、済まないわよ。こっちはどれだけ、痛くて怖い思いをしたか!!」

「悪いと思ってる。先輩たちとは、いずれ決着を付けねェとな」
 膨らんだ布団の向こうの窓に登る、真っ白な月。

「ねえ、お兄ちゃん。今日……一緒に寝て」
「アア!? お前、幾つになったと思って……」
「沙鳴が恐い思いしてるのに、お兄ちゃん助けに来てくれなかったじゃない!」

「だからそれは……ま、しゃ~ねェか」
 委員長は、妹の布団に大の字になって寝る。
その傍らには、安心した寝顔の妹が寄り添っていた。

 前へ   目次   次へ 

ある意味勇者の魔王征伐~第11章・29話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

深海の宮殿

「ここが、伝説の都アト・ラティアなのか。確かに黄金の凝った彫刻のされた、とんでもねェ建物ばかりの街並みだぜ」
 6匹の深海ザメに乗って、失われた古代都市の遺跡を進む、バルガ王子率いる海皇パーティー。

「かつてはここに、大勢の人が暮らしていたのでしょうか?」
「らしいぜ、ティルス。あちこちに、人の骨みてーなのが散乱してやがる」

「なあ、兄貴。コイツら、どうやって死んだんだ?」
「どうってオメー。海の民なら溺れるワケもねェだろうし、地震かなんかじゃねえか?」
「そりゃちゃうやろ。骨の上に、崩れた岩や建物の残骸もあらへんしな」

「アラドスの推理が、正しいですね。彼らは、溺れ死んだのですよ」
「マ、マジか。シドン!?」

「ええ、王子。ここに降りて来る途中の海溝の壁に、幾つもの溝が横に走ってました。恐らく海水の水圧を弱める機構を、何重にも重ねて使っていたんだと思われます」

「カル・タギアの、泡のドームみたいなモノでしょうか?」
「少し、異なりますね。泡のドームは魔法によって形成されますが、このアト・ラティアの機構は古代の超テクノロジーによって、強大な水圧を押さえていたのでしょう」

「確かにカル・タギアは、珊瑚が生息できるくれェの海だ。レヷイアス海溝の底にある、アト・ラティアにかかる水圧は、一体どれ程なのかはかり知れねェぜ」

「けれども水圧を抑える機構が、何らかの理由で失われた。彼らは深海の水圧に押し潰され、溺れ死んだのでしょう」

「ここに暮らしてたヤツらは、海を泳ぐ能力は無かったのか?」
「恐らくは。人骨のどれもが、我々海の民よりも地上の民に近い形をしてますからね」

「ですが、シドンさま。我々は今、古代の海の民が使ったとされる、深海の魔法によってこの深海でも無事で居られるんです。深海の魔法は、ここに暮らす彼らが生み出したモノでは、無いのでしょうか?」

「推測に過ぎませんが、深海の魔法はもっと後の時代の海の民が、編みだしたのでしょう。もしかしたら彼らは、このアト・ラティアに住んでいた者たちの末裔かも知れません」

 海洋生物学者であるシドンを中心に、在りし日の古代文明を推測する海皇パーティー。

「古代に思いを馳せるのも、ここまでみてーだぜ。どうやらオヤジは、あの宮殿の中だ」
 先頭を行くバルガ王子が、街の中心にそびえる巨大宮殿を指さした。

 黄金の巨大なドーム状の屋根に覆われた宮殿は、その周囲にいくつもの塔を備え、さながら要塞を思わせる造りをしている
正門から宮殿へと続く道の左右には、海の生物を象った彫刻が並んでいた。

「王子、お気を付けください。ここで海皇様を魔王にしようとしていると言うコトは、サタナトスはこの古代都市遺跡を知っていたと言うコトになります」

「なるホドな、シドン。狡猾なアイツのコトだ。どんな罠が仕掛けられているか、解らねェ。気を引き締めて、行くぞ!」
 王子の号令と共に、警戒しながら固まって宮殿へと突入する海皇パーティー。

「こ、この神殿、中に空気がありやすぜ!?」
「ホントだ。玄関の扉から、水が一切入って来ねェ」
 ビュブロスとベリュトスの漁師兄弟が、サメから降りて内部の様子を確認する。

「空気があろうが無かろうが、海の民には大して関係ねェ。突っ込むぞ」
「王子、お待ちください。罠(トラップ)です!」
 ティルスが巻貝のクナイを投げると、目玉の化け物が悲鳴を上げながら地面に落ちた。

「ゲゲ、コイツら、透明になっとたんか。ちゅうコトは、こっから先も魔物がウヨウヨおるでェ!」
「構わんさ、アラドス。出迎えとあらば、斬り伏せて進むまでだぜ!」
 黄金の長剣を抜き、次々に現れる魔物の群れを撃破するバルガ王子。

「王子、スゲェぜ!」
「アレが、王子の新たな剣なのかよ!?」
 漁師兄弟も、自慢の銛で王子の左右を固める。

「海の宮殿だけあって、タコやイカの魔物もぎょうさんおるわ。料理人としちゃあ、さばきがいあるで!」
 アラドスも、両手の包丁で魔物を切り裂いた。

 海王パーティーは、神殿の奥深くへと突入して行った。

 前へ   目次   次へ 

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第03話

f:id:eitihinomoto:20200806163558p:plain

異空間のアイドル

「残るはあと1組か。まだ呼ばれてないのは、ユミア、レノン、アリス、カトル、ルクス、クララだが……」
 不安な気持ちを増幅させながら、テレビ外面を見つめるボク。

『では、皆さん。最後の1人を発表致しましょう』
 記者会見場の久慈樹社長が、不敵に笑った。

「1人……ソロアイドルってやつか?」

『実は彼女は現在、天空教室のメンバーではありません』
「な、なんだって!?」
 意表を突かれたボク。

『もっと言ってしまうと、彼女はこの3次元世界の住人では無いんですよ』
 ステージに再び、スモークが吹き上がった。

 照明が落ち、記者席にはドライアイスのスモークが流れ出る。
会場を飛び交ういくつものスポットライトが重なり、1人の少女のシルエットが浮かび上がった。

『彼女の名は、オピュク』
 シルエットにデジタルノイズが走り、やがて煌びやかなステージ衣装を纏った少女が実体化する。

 セルリアンブルーの長い髪を体に巻き付け、網目模様の黒いドレスは隙間が虹色のグラデーションで変色しながら輝いていた。
瞳はオレンジで瞳孔が縦に細長く、妖艶な笑みを浮かべている。

『オオ、凄い演出だ!』
『彼女は、デジタルアイドルなんですね?』
 真っ暗な記者席から、次々に質問が飛んだ。

『流石に皆さん、お察しが良い。ですがオピュクは、ただのデジタルアイドルとは違う。ポリゴンや3Dテクスチャ―などとは異なり、人間に存在するあらゆる臓器を再現しているのですよ』
 暗闇になっている会場に、久慈樹社長の声が響く。

『少し解かり辛かったのですが、今のデジタルアイドルと一体なにが違うんですか!?』
『既存のテクスチャ―マッピングを、使用していないと言うコトなのでしょうか?』
『彼女に臓器があったとして、それが何になるんです?』

『技術的に言えば、全く異なるモノを使用している。既存の技術は、3Dデータの骨組みに人の皮膚や衣装の薄紙を貼り付けたモノに過ぎない。言わば張り子だ』
「張り子……なんのコトだ。言っている意味が解からないな……」

『言われてみれば、ポリゴンの中身って空洞ですからね』
『彼女は、異なると言うんですか?』
『そうです』

 ステージのオピュクが、ウインクをしたかと思うと音楽に合わせて踊り出す。
彼女のダンスは滑らかで、デジタルのぎこちなさなど微塵も感じられなかった。

『彼女の頭の中には脳があり、脳によって思考し行動する。身体には肺があって呼吸をし、口から食べた食べ物は、胃や腸で消化され排泄もされる。声優が声を当てるのではなく、自らの発声器官で声を出しているんですよ』

『ちょっと待って下さいよ。そうは言っても彼女は、デジタルデータなんでしょ。食べ物なんて、どうやって食べるんです?』
『呼吸と言われましたが、デジタル空間に空気があるとでも?』


『我々の開発チームの1つである、プロジェクト・オピュクが、空気や何種類かの食べ物を、デジタル空間内に創り上げました』
『空気はともかく、食べ物でしたらゲームなんかでもありましたよね?』

『ヤレヤレ、まだ理解されていないようですな。既存のゲームのモノは、回復量を設定したアイテム情報に過ぎない』
『では、一体なにが根本的に違うと言うのですか?』

『我々はまず、デジタル空間を構成する原子を創ったのですよ。地球の環境に合わせ、窒素や酸素、二酸化炭素で出来た空気を造り、水素と酸素で水を生み出しました』

 オピュクの周りの空間が広がり、次第に豊かな自然や流れる川が映し出される。

『残念ながらまだ、燃焼という現象は再現出来ておりませんが、炭素を含む元素から、タンパク質や脂肪、炭水化物を生成し、食べ物を創り上げました。そして彼女もまた、同じように物質レベルから創り上げたのです』

 テレビに映し出された異空間の少女が、ニコリと微笑む。

「オピュク……彼女も、天空教室に加わるのか?」
 ボクは、久慈樹社長の壮大な実験の恐ろしさに、背筋が寒くなった。

 前へ   目次   次へ 

一千年間引き篭もり男・第06章・42話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

仮想体験

 猛烈なスピードで真っ暗なトンネルを突き進む、バーチャルコースター。
トンネル一面を覆う無数の星々が、後ろへと流れて行く。

 遠くの星はゆっくりと、近くの星はとんでも無いスピードで傍らを駆け抜ける……視覚効果で、体感上のスピードを演出しているのだろう。

「ちょ、ちょっと、速過ぎませんコトォ!?」
「めっちゃ速いのですゥ!」
 クーリアとセノン……対照的な顔の2人の少女が、ボクの両腕をギュッと握りしめた。

「やけに長いトンネルだな。いい加減、地上に出て良い頃なのに」
 すると辺りがいきなり明るくなり、波しぶきが上がる。
後ろを振り返ると、巨大な海からコースターが、天に向かって進んでいた。

「火星に海なんて無いハズだが、AR(拡張現実)みたいなモノか。それにしても、スゴい演出だな」
 大海原から飛び出したコースターは、そのまま蒼い惑星を周回し始める。

「これって、地球だよな。火星のコースターなのに、地球から飛び出すのもどうなんだ?」
 見知らぬ制作者にクレームを入れていると、蒼い惑星の様子が変わる。

「な、なんだ。これって、戦争が起こったのか!?」
 地球の表面に、無数の明るい輝きが生まれては消えて行く。

「アテーナー・パルテノス・タワーで、ミネルヴァさんが話してた、第三次世界大戦ってヤツか……でも、どうしてこんな演出を?」
 コースターは、再び蒼い惑星へと突入する。

 大気圏を抜けると、核に焼かれ荒れ果てた国々が姿を現す。
太平洋に浮かぶ、見覚えのある島国も確認できた。

「これが……第三次世界のときの日本なのか。あちこちの都市が、核の炎に焼かれてしまっている」
 コースターは、大陸から列島へと降り注ぐミサイルの群れと併走する。
着弾し、人々が暮らす街を次々に消滅させるミサイル。

「ミネルヴァさんたちが、言っていた。日本のミサイル防衛網など、既に無力化しているって」
 ミサイルの性能が上がってマッハ6を越えるスピードを出せるようになると、旧来の防衛システムなど完全に形骸化するのだ。

「イヤ、もう形骸化していたと言うべきか」
 ボクたち日本人の多くは、そうとも知らずにミサイル防衛網に護られているモノだと思い込みながら、のうのうと暮らしていたのだ。

 コースターは日本の、東京のあった場所へと降りる。
そこは幾つもの核爆弾の爆心地となっていて、真っ黒な巨大な穴と、溶けた建物の残骸が転がっていた。

「最初に核の標的になったのは、東京なのか。政治や経済の中枢だから、東京が潰れれば日本はあらゆる面で機能不全に陥る。相手国とすれば、当然の戦略だな」

 コースターの左右に広がる、凄惨な光景。
人類が生み出した核の威力は、そこに暮らしていた人々の死体すら残らないホド、凄まじいモノだった。
それがARで無ければ、ボクたちも放射能で一瞬で死んでいるコトだろう。

 バーチャルコースターは、日本が誇った高速鉄道のトンネルへと入った。
再び辺りに星が流れ、場面が宇宙へと移り変わる。

「今度は宇宙が舞台……ってコトは!」
 深淵の宇宙空間に、突如として閃光が走った。
無数の艦艇が連なって艦隊を形成し、たった1隻の敵艦と対峙している。

「アレは、時の魔女の艦か。ボクたちが戦った、『深き海の魔女』とどこか似た形状をしているな」
 無数の艦艇による攻撃を、ほぼ無力化する漆黒の艦。
すると対峙していた艦隊の艦艇が、同士討ちを始める。

「この時代の艦も、やはり敵艦をハッキングする能力を備えていたんだな。これじゃあもう……」
 恐らく地球のものであろう艦隊は、崩壊し消滅する。
無数の残骸が漂う宇宙を、駆けるコースター。

「な、なんだ、アレは!?」
 真正面の宇宙空間に、突如として人の顔が浮かび上がる。
長い髪を四方に漂わせ、ボクを導くように手を広げていた。

「キ、キミは……黒乃なのか!?」
 ボクはコースターに乗ったまま、問いかける。
両脇の少女も、時間が停まってしまったかのように動かない。

『ええ、そうよ。わたしの名は、時澤 黒乃』
「く、黒乃って……まさかキミが、時の魔女なのか!?」

 漆黒の宇宙に揺れる、クワトロテール。
前髪に隠れて表情は判らなかったが、口元は微笑んでいる。


『言ったでしょう。わたしはどんなに時が流れても、アナタの傍にいる……と』

「黒……乃?」
 辺りが、真っ白な光に包まれた。

 気が付くと、ボクを乗せたバーチャルコースターは、元の乗り場へと戻って来ていた。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第六章・EP017

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

幻武館

 河べりの、簡素な練習場近くの土手。
ボクがなんとなく抱えてしまった女の子は、腕の中で小さく震えていた。

「1年、2年は今日は家に帰って。こんなコトがあった後じゃ、流石に練習どころじゃないでしょう」
「は、はい。解りました」
「せ、先パイがたも、お気をつけて……」

 バドミントン部のキャプテンらしき子に言われ、少女たちの何人かがお辞儀をして立ち去って行く。

「わたしは、海帆 春香。悪いんだケド、彼氏さん。沙鳴をそのまま、家まで運んでくれるかな」
 彼女の問いかけに、ボクはコクリと頷く。
ホントは、『彼氏』じゃないって否定しなきゃだケド、喋れないのだから仕方ない。

「3年のアンタらも、付き合ってくれる?」
「わかったよ、キャプテン。沙鳴は、わたしたちの為に頑張ってくれたしね」
「沙鳴の竹刀とカバン、アタシが持つよ。綾は、彼氏さんのボール持って」

 手際よく仕事を分担する、バドミントン部3年の少女たち。
ボクは、海帆さんに先導されて、千葉さんを抱え堤防の土手を登る。
正直、腕に抱えた少女は小柄で軽かったものの、腕がしびれるくらいにしんどかった。

「沙鳴の家って去年、ウチらが夏の合宿やったトコだよね」
「そうよ。学校の近くだからと言う理由で、沙鳴のお父さんが好意で貸して下さったの。お陰で、夏の大会も良い結果が残せたわ」

「懐かしいな。あの道場かぁ」
「みんなで泊って、いっぱい練習させて貰ったモンね」
 どうやら彼女たちには、共通の想い出があるらしい。

「あの辺かな。こっからもう見える距離だから、彼氏さん、頑張って」
 海帆さんの言うには、今いる堤防のテッペンから見えるようだ。
ボクは千葉さんを落とさないよう慎重に、堤防の階段を一段ずつ降りて行く。

「ホラ。ここよ、沙鳴の家。おっきな道場なんだよ」
 堤防下の街の路地を少しばかり抜けると、住宅街や小さな町工場が並ぶ一角に、土塀に囲まれた瓦葺(ぶ)きの道場があった。

 『幻武館』……確かに、立派な道場だ。
このコは、この道場の娘さんなんだな。

「沙鳴、上がらせてもらうわよ」
 海帆キャプテンの問いに、腕の中の少女はコクリと頷く。
彼女はずっと、ボクから顔を背けたままだ。

「じゃあ彼氏さん、沙鳴をお風呂場まで運んでくれるかしら」
 なんでお風呂場……と思ったものの、少し考えれば解かるコトだよね。
ボクは言われるまま門をくぐり抜け、千葉さんをお風呂場のタイルの上に降ろした。

「あ、あとはわたしらがやっとくからさ」
「彼氏さんはキャプテンと、居間でお茶でも呑んで行って」
 付いて来た3年生であろう4人の少女は、ボクとキャプテンを残しお風呂場の扉を閉める。

「じゃあ彼氏さん、こっちよ」
 ボクは、海帆さんの背中にくっついて、廊下を歩いた。
道場のある大きな建物と、いくつかの建物が小さな渡り廊下で結ばれている。

「わたしと沙鳴は、幼馴染みなの。沙鳴のお父さんに挨拶してくるから、ちょっと待ってて」
 畳が敷かれた居間にボクを残し、海帆さんは障子の向こうへと消えて行った。
黒光りする木の机には、彼女の煎れたお茶が置かれてある。

 うわあ。知らない家に1人で居ると、緊張するなあ。
家の人とか、入って来ませんように!
ボクは心の中でそう願ったものの、直ぐに玄関の方から声が聞こえた。

「ただいま……ってアレ。沙鳴のヤツ、ずいぶんと友達、連れ込んでんなあ」
 声は若い男の声で、なんとなく聞き覚えがある気がする。

「……たく、今日はナゼだかあっさり練習が終わって、早目に帰れたってのに……」
 居間の障子が、いきなり開いた。

「おわッ!? 居間に人が……って、み、御剣ィ!?」
 その向こうで、日焼けした身体にボクと同じ制服を纏った、ツンツン頭の男が驚いている。

「な、なんでお前が、居るんだァ!?」
 ボクも彼と同じ台詞を、言いたかった。

 何故なら、そこに立っていたのが、クラス委員長の千葉 蹴策だったからだ。

 前へ   目次   次へ 

ある意味勇者の魔王征伐~第11章・28話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

伝説の都アト・ラティア

 海底都市カルタ・ギアの周りの海より、さらに深度が下がった深海。
視界は黒とダークブルーに染まり、泳ぐ魚の群れやサンゴや海藻も減って、閑散とした光景が広がる。

「アレが、リヴァイアス海溝だな。デケエ裂け目が、海の奈落みてェに口を開けてやがる」
 発光する不気味な目が幾つも連なった、深海ザメに乗ったバルガ王子が言った。

「しっかし、予想以上にデカい海溝ですぜ、王子!」
「こんなに大きな裂け目じゃ、海皇さまがどこに居るか探すのも大変だ。なあ、兄貴!?」
 鋭い流線形の身体のサメに跨った、ビュブロスとベリュトスの漁師兄弟が答える。

「とにかく、闇雲に探すしかアラへんのかよ。ホンマ面倒やなァ」
 巨大な脂肪の詰まった体のサメに跨った、料理人見習いのアラドスがため息を吐く。

「いいや。実は双子司祭殿から、巨大な魔力が検知できる宝珠を預かっているのだ。この下に、とてつもなく巨大な反応がある」
 大きな眼を持った異形のサメに跨った、海洋生物学者のシドンが説明した。

「それが、海皇ダグ・ア・ウォンさまなのですね」
 鋭利なのこぎりのついたサメに乗ったお付きの少女、ティルスが王子を見る。

「待っていろ、オヤジ。魔王なんかになる前に、オレが救い出してやる!」
 バルガ王子率いる海皇パーティーは、6匹のサメと共にリヴァイアス海溝を下へと潜って行った。

「ねえ、スプラ。王子たち、先に潜って行っちゃったよ」
 銀色に輝く長い身体にピンク色の美しいヒレを持った魚に跨った舞人が、前の少女に問いかける。

「仕方ないでしょ。向こうはサメで、こっちはゆったりと泳ぐリュウグウノツカイ……しかも、3人乗りなんだからァ!」
 先頭のスプラ・トゥリーが、最後尾に乗った少女を恨めしそうに睨んだ。

「なんじゃ。妾に文句でもあるのか、軟体生物(イカ)の小娘よ」
「ああ、大ありだね。大体キミ、強いの? 付いて来たって、足手まといになるだけじゃない?」
「2人とも、止めろよ。今は、ケンカなんかしてる場合じゃないだろ」

「ねえ、ダーリン。ボクと後ろのコウモリ女、どっちが可愛い?」
「それなら妾に決まっておろう。のォ、ご主人サマよ?」
 舞人を前後に挟んでの少女たちのケンカは、激しさを増す。

「だから今は、水中呼吸の丸石の効果が切れる前に……」
「ねえ、どっち?」
「さっさと答えるのじゃ!」

「ど、どっちも、可愛いよ」
「なにソレ。ゼンゼン答えになってないよ!」
「まさしく、浮気者の答えじゃ!」

「ええ!? なんて答えれば良いんだよォ!?」
「ボクが可愛いって、言ってくれればイイだけじゃないか(べーだ!)」
「妾が一番可愛いと、素直に言うだけであろうに(フン、小娘が!)」

「スプラも、ルーシェリアも、暴れるなって。うわあ!?」
 3人が乗ったリュウグウノツカイを、急に激しい海流が襲う。

「深海の海溝ともなると、潮流が複雑だね。ダーリン、しっかり捕まってて!」
「ああ。頼んだぞ、スプラ」
 舞人は、前に座る少女の腰に手を回し、護るように抱え込んだ。

「コラ、ご主人サマ。そんな小娘の腰に、手を回すでない……のわッ!?」
 リヴァイアス海溝へと進路を向けた、リュウグウノツカイが急激に加速し、降り落とされそうになるルーシェリア。

「小娘が、ワザとやったであろう!?」
「あ~あ、ざんね~ん。せっかく、2人きりになれるトコだったのに」
 舌をペロッと出し、おどけるスプラ。

「ね、ねえ。見てよ、2人とも。周りの海溝の壁!」
「な、なんだよ、これ……」
「壁が、金色に光ってるのじゃ!?」

 その頃、3人より遥か先を行く海皇パーティーの6人も、同じ光景を目の当たりにする。

「シドン。こりゃあ、どう言うこった。どうして海溝の壁が、光ってやがる!?」
「それに文字だか模様らしきモノも、刻まれておりますね」
 バルガ王子とティルスが、若き海洋生物学者に視線を向けた。

「なるホド……どうやらこの海溝はかつて、海の古代文明が栄えていた場所と思われます」
「なんだって。そりゃホントか!?」

「ええ、間違いないでしょう。カル・タギアの図書館にも、かつて深海で栄えた古代文明の記述がありました。伝説か神話の類とばかり思ってましたが、まさか実在していたとは……」
 シドンの言葉通り、海溝の更に下の方に輝く光が見える。

「都市の名は、『アト・ラティア』。伝説が真実なら、海皇様の宝剣『トラシュ・クリューザー』や、7海将軍(シーホース)の持つ槍も、この失われた海底都市で造られたモノなのですよ」

 6人の目の前に、黄金でできた神殿や塔が立ち並ぶ神秘的な街並みが、姿を現した。

 前へ   目次   次へ