深海の魔法
「クッソ。オヤジを使って、世界中の国を地震や津波で破壊するつもりだったのかよ!」
怒り心頭な、バルガ王子。
「ヨナの見立てではのォ。もしそうなれば、ヤホーネスの都すら多大な被害を受けるとのコトじゃ」
「なんだって。ホントなのか、ルーシェリア!?」
「まずは大地震で崩れていた城壁が倒壊し、そこに津波が押し寄せるのじゃ」
「生き残った人たちで普及を頑張ってるのに、もしそんなコトになったら……」
「ああ、ご主人サマよ。ヤホーネスの都は倒壊し、水没する。女王レーマリアを含む多くの命が、危険に晒されておるのじゃ」
「オヤジにそんなコト、させてたまるか。リヴァイアス海溝は、ここから大した距離じゃねえ。今すぐ行って、計画を阻んでやるぜ!」
「お待ちください。リヴァイアス海溝の水圧は、王子と言えど耐えきれるモノではありません!」
側近の少女ティルスが、王子を止める。
「確かにな。あの強大な水圧に耐えられンのは、海皇さまを置いて他には居ねえぜ」
「つーコトは、オレらじゃ近づくコトすらままならないってか!?」
海皇パーティーの漁師兄弟、ビュブロスとベリュトスが顔を見合わせた。
「このままオヤジが世界を破壊すんのを、指くわえて見てろってのかよ!」
「イヤ、方法はあります」
細身の身体にヒスイ色の着物を纏った、藍色の長い髪の男が王子の前に立つ。
「本当か、シドン」
「はい、バルガ王子。古(いにしえ)の時代には、この海底都市カル・タギアよりさらに深海に棲むモノたちが居たと、文献にありました。彼らは、『深海の魔法』と呼ばれる秘術を使っていたらしいのです」
「その深海の魔法ってのを使えば、リヴァイアス海溝の水圧にすら耐えられるのか?」
「そこまでは、解りません。ですが、可能性はございます」
「それで、深海の魔法ってのを使えるヤツは、何処にいる?」
「元々深海の民は、大勢で集まって暮らす種族では無かったので、この海洋のどこかには生きて残っているハズなのですが……」
「海の広さなんて、とんでもねえぞ。悠長に探してる時間なんて……」
「ふっふ~ん」
するとイカの少女が、いきなり王子の前に躍り出た。
「どうしたんだ、スプラ。小さな胸なんか張っちゃって」
「し、失礼な。小さくないよ。これから大きくなるんだい!」
恨めしそうに、舞人を睨む少女。
「何やら知っておるようじゃの、イカの小娘よ?」
「知ってるもなにも、ボクは深海の魔法を使えちゃうんだな」
「ホ、ホントなのか。スプラ?」
「ま、まあリヴァイアス海溝の水圧には耐えられない、初歩的なモノだケドね」
「ねえ、スプラ。その魔法、見せてくれない?」
「わたし達でも、深海の魔法の知識は無いんです」
リーセシルとリーフレアの双子姉妹が、言った。
「いいよ。これでボクも、深海に潜ってるからね」
スプラ・トゥリーが、緑触槍『アス・ワン』に魔力を込めると、自身の身体を紫色の光が覆う。
「なんじゃ、随分と簡単な魔法じゃのォ」
「そうだね。でも、水の魔法で水圧を完全に、逃がしてるんだよ」
「これであれば、強化した上で皆さんにエンチャントできます」
「マジか。そんじゃさっそく、オレさまにも……」
「アンタはカナヅチでしょ、クーレマンス!」
「それにアンタとガラ・ティアさんには、深海の宝珠の護衛をお願いしたいんです」
「そうい言やお前ら、深海の宝珠に入ってこの街の泡のドームを支えるんだったよな」
「お任せください。わたくし達夫妻が、必ずやお二人をお守りしますわ」
「アタシたちも、海ン中は苦手だし」
「ここに残ろっかな」
「護衛は多い方がイイし」
ヤホッカ、ミオッカ、イナッカの3人も、海底都市に残る選択をする。
「それじゃ、オヤジの元にはオレら海皇パーティーが行くぜ!」
「ボ、ボクも、行きます!」
「仕方ないのォ、妾も付き合ってやるとするか」
「ボクも行くよ。ダーリンには、ボクのサポートが必要だもん」
「うん、確かにスプラは深海の魔法が使えるからね」
「エンチャントが解除されてしまったら、再付与が必要ですし」
その後、双子司祭の強化版深海の魔法のエンチャントを受けた覇王パーティーと舞人たちは、リヴァイアス海溝へと向かった。
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