サタナトスの真意
「ち、違うんだ。これは……スプラが勝手に、巻き付いて来て……」
ナゼだか、必死に言い訳しなければならない衝動に駆られる、舞人。
「ほう。自らの浮気の責任を、相手になすり付けるとは、ご主人サマもけっこうな外道よな」
「な、なんでそうなるんだよ……ってかボクは、ルーシェリアと付き合ってるワケじゃないだろ!」
理に適った発言をしているハズが、更に窮地に追い込まれる。
「ダーリンってさあ。死んじゃったパレアナってコと、幼馴染みって言ってたよねェ。つまりこのコは、別の彼女なワケだ?」
「だ、だだ、だから違うんだって、スプラ。ルーシェリアは、彼女なんかじゃない……グハッ!?」
「ダーリンの、浮気者ォ!!」
イカの少女の触手が、舞人を締め上げる。
「ボクの身体を引き裂いて操まで奪ったクセに、一体何人の彼女が居るんだい!?」
「1人も居ないよォ。ルーシェリアも他のコたちも、元は魔王や邪神だったんだ」
「それってつまり、ルーシェリア以外にもたくさん女が居るってコトだよね?」
「のォ、ご主人サマよ。こやつの操まで奪ったとは、どう言うコトじゃ?」
「し、知らないんだ。ボクが意識を失ってる間に、色々あったみたいだケド」
「よもやそこまで道を踏み外しておったとは、妾は見損なったぞ!!」
「ホ、ホントにボクは、なにも知らないんだって……うわあッ!!?」
数分後、ボロ雑巾のようになった舞人の姿が、そこにあった。
「なんじゃ、ご主人サマよ。そのような理由があったなら、先に言ってくれれば良かったモノを」
「そうだよ、ダーリン。ボクだって事情さえ解っていたら、触手で締め上げたりしなかったのに」
「何度も言ったのに、聞く耳持たなかったじゃないか!」
あっけらかんとしたルーシェリアとスプラに、怒りをぶつける舞人。
「しかしご主人サマよ。ジェネティキャリパーの力は使うなと、あれ程念を押しておいたでな無いか」
「魔王2人を相手に、そうも言ってられなかったんだ」
「お陰でボクは……ああ、ダーリンには絶対、責任取って貰うからね!!」
「だからスプラ、ボクがなにをしたって言うんだよ?」
「そんなの、教えられるワケ無いでしょ。ダーリンのバカァッ!!」
「ブバッババババババヴァ!!?」
無数の触手によるビンタに、頬が腫れあがる舞人。
「なあ。アンタ、ルーシェリアとか言ったな。ここに来た目的はなんだ?」
すると見かねたバルが王子が、話題を替えた。
「ウム。実は、女王からの伝言を頼まれての。空を飛べる妾が、伝令を買って出てやったのじゃ」
「レーマリア姉ちゃん……じゃなかった」
「女王サマからの伝言か!」
「もしかして、アタシたちを心配してたとか?」
「まあ心配はしておったが、伝言は女王と言うよりヨナからに寄るものじゃ」
「ヨナさまから?」
「一体、どう言った内容なのでしょうか?」
ルーシェリアの視線が、ヤホッカたち獣人娘たちから、リーセシルたち双子司祭へと移る。
「そう言えばヨナは、お主らの師匠だったらしいの」
「ヨナ・シュロフィール・ジョは、王宮魔道所にいた頃の先生だったんだ」
「わたしなどは特に、色々と魔法や精霊について学ばせていただきました」
「伝言と言うのは、他でも無い。この海底の国……カル・タギアの王の居場所についてじゃよ」
「親父の居場所が、判ったのか!?」
「そっか。ヨナさまは、王宮魔導書の所長であると共に、一流の占い師だから」
「ヨナさまの占いで、ダグ・ア・ウォン王の居場所が判明したのですね」
「それで、その居場所ってのはどこなんだ?」
バルガ王子は、自分の父親の居場所を聞こうと逸(はや)った。
「リヴァイアス海溝じゃよ」
漆黒の髪の少女は、紅の瞳の瞼(まぶた)を静かに伏せる。
「なッ……リヴァイアス海溝だって!?」
「それって、この世界の海の中で一番深いって言う、海溝だよね?」
「ええ、姉さま。この国の海の民ですら、その圧倒的過ぎる水圧には耐えられないのだとか」
「それに、ヨナはこうも言っておったぞ。サタナトスの狙いが、判明した……と」
「アイツの狙いが、判明しただと!?」
間接的にではあるものの、母親を死に追いやられたバルガ王子が眼を見開いた。
「今までに起こった、数々の巨大地震。その多くが、リヴァイアス海溝が発生源なのじゃ」
「え、それってどう言うコト?」
イカの女のコに巻き付かれながら、疑問を浮かべる舞人。
「つまり……サタナトスは、リヴァイアス海溝で王を大魔王に変化させ……」
「世界中に大地震や、大津波を引き起こすつもりなのですね!?」
舞人の疑問は、双子司祭によって解決される。
けれどもその答えは、余りに絶望的だった。
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