アイドル誕生
倉崎 世叛の眠る教会に行ってから、数日が過ぎ去る。
世間は、瀬堂 癒魅亜とマーク・メルテザッカーの恋愛の話題で、持ち切りとなっていた。
「どの新聞も、どの番組も、どのゴシップ雑誌も、同じ話題ばかり書いて飽きないモノだな」
そこに何故だかボクも加わって、三角関係だとか囃(はや)し立てられている。
「ボクにとって瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)は、雇用主でもあり生徒でもある。だけど、それ以上でも無ければ、それ以下でも無いんだ」
そんな台詞を、もう何度した口にしたコトだろうか?
彼女は、優しい女のコだ。
キアとシアが重傷を負ったときには、病院にまで駆けつけてくれたし、タリアの件でも積極的に関わってくれていた。
「ユミアも他の生徒たちも、これ以上傷付くようなコトにならなけれない良いんだが……」
天空教室の生徒たちは、既に十分な傷を負っていた。
元は、安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)と、安曇野 画魯芽(あずみの えろめ)の双子姉妹ら芸能一家が暮らしていた家で、ボクはユークリッドへと出勤する準備をする。
「この物件も、いずれはアロアとメロエの元に戻って欲しいモノだな」
ボクはワイシャツを着ながら、パンをトースターに放り込みコーヒーを煎れた。
やっている作業は、前の立ち退いたアパートの頃と変わらない。
「またテミルに、相応しい家を探して貰わないとだな」
生徒の1人でもあるプニプニ不動産の看板娘、天棲 照観屡(あます てみる)によって紹介された家も、ボクにとっては豪華過ぎた。
『ここで、速報です。ユークリッドから、新たなアイドルユニットが結成されるとの発表がされました』
薄型テレビの中の情報番組のアナウンサーが、横から渡された原稿を冷静に読み上げる。
『では、記者会見の現場にカメラを移します』
すると画面がスタジオから、記者会見の現場へと切り替わった。
「アイドルユニットって……前に久慈樹社長から、提案されていたヤツじゃ無いだろうな」
嫌な予感しかしない。
少なくとも芸能一家に育った双子姉妹は、乗り気だったからだ。
『今日は、大切なプロモーションにお集まりいただき、感謝します』
フラッシュが光り輝く中、大のマスコミ嫌いな久慈樹社長が言った。
『本日、ユークリッドは新たに、4組のアイドルユニットの結成と、1つのロックバンドのプロモートをするコトをここにお伝えします』
すると記者会見場にスモークが吹きあがり、ドライアイスのミストが記者席にまで流れ込む。
記者会見場の右横の徐大カーテンが開くと、豪奢なステージが出現した。
『まずは1組目、安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)と、安曇野 画魯芽(あずみの えろめ)の双子姉妹によるデュオ、ウェヌス・アキダリアだ!!』
会場の照明が暗くなり、スポットライトが駆け巡る。
ステージに、ギリシャ神話の女神の纏っていそうな露出の多い衣装を着た、ゴージャスな身体の双子姉妹が姿を現した。
「オイオイ、こんな衣装を高校生年齢の少女に着せて、いいのか!?」
最もそれは、2人が率先して選んだ可能性の方が高いのだが。
『わたくしアロアと妹のメロエは、一流の女優を目指しておりますが、ウェヌス・アキダリアは美とファッションをメインにしたアイドルユニットとする所存ですわ』
『どうか皆さま。温かい目で、見守ってくださいませ』
物怖じしない2人が優雅に頭を下げると、2つの巨大な胸の谷間が出現する。
彼女たちの計算された演出に、呆気なくカメラのフラッシュが飛びついた。
アイドルスマイルを浮かべたアロアとメロエは、ステージを降りて記者会見場の久慈樹社長の隣に座る。
『続いて、我がユークリッドと契約したロックバンド、『チョッキン・ナー』の登場だ!』
ステージからミストがあふれ出し、今度は一層ハデにスモークが舞い上がった。
舞台に、真っ赤なショートヘアの女のコに率いられた、4人のロックバンドが登場した。
『今日はウチらの為に、よ~さん集まってくれておおきに!』
可児津 姫杏(かにつ きあ)が、新たにデザインされたカニ爪ギターを掻き鳴らす。
『ね、姉さん。別にわたしたちの為だけに、集まったんじゃ無いでしょ!』
『そこはええやん。シアは真面目やなあ』
『せやで。シア姉はマジメ過ぎちゃうか』
『こ~ゆんは、その場のノリが大事なんやで』
ミアとリアの双子の妹に突っ込まれ、顔を赤らめるシア。
『シア姉、顔が真っ赤やで』
『ホンマや、茹でダコみたいや』
ケタケタと笑い転げる、小学生年齢の2人。
『おのれら、後で覚えときいや!!』
『ひええェ、シア姉がブチ切れたァ!』
『ホンマ、カンニンやでェ!?』
会場に、笑いの渦が巻き起こった。
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