ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第06章・42話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

仮想体験

 猛烈なスピードで真っ暗なトンネルを突き進む、バーチャルコースター。
トンネル一面を覆う無数の星々が、後ろへと流れて行く。

 遠くの星はゆっくりと、近くの星はとんでも無いスピードで傍らを駆け抜ける……視覚効果で、体感上のスピードを演出しているのだろう。

「ちょ、ちょっと、速過ぎませんコトォ!?」
「めっちゃ速いのですゥ!」
 クーリアとセノン……対照的な顔の2人の少女が、ボクの両腕をギュッと握りしめた。

「やけに長いトンネルだな。いい加減、地上に出て良い頃なのに」
 すると辺りがいきなり明るくなり、波しぶきが上がる。
後ろを振り返ると、巨大な海からコースターが、天に向かって進んでいた。

「火星に海なんて無いハズだが、AR(拡張現実)みたいなモノか。それにしても、スゴい演出だな」
 大海原から飛び出したコースターは、そのまま蒼い惑星を周回し始める。

「これって、地球だよな。火星のコースターなのに、地球から飛び出すのもどうなんだ?」
 見知らぬ制作者にクレームを入れていると、蒼い惑星の様子が変わる。

「な、なんだ。これって、戦争が起こったのか!?」
 地球の表面に、無数の明るい輝きが生まれては消えて行く。

「アテーナー・パルテノス・タワーで、ミネルヴァさんが話してた、第三次世界大戦ってヤツか……でも、どうしてこんな演出を?」
 コースターは、再び蒼い惑星へと突入する。

 大気圏を抜けると、核に焼かれ荒れ果てた国々が姿を現す。
太平洋に浮かぶ、見覚えのある島国も確認できた。

「これが……第三次世界のときの日本なのか。あちこちの都市が、核の炎に焼かれてしまっている」
 コースターは、大陸から列島へと降り注ぐミサイルの群れと併走する。
着弾し、人々が暮らす街を次々に消滅させるミサイル。

「ミネルヴァさんたちが、言っていた。日本のミサイル防衛網など、既に無力化しているって」
 ミサイルの性能が上がってマッハ6を越えるスピードを出せるようになると、旧来の防衛システムなど完全に形骸化するのだ。

「イヤ、もう形骸化していたと言うべきか」
 ボクたち日本人の多くは、そうとも知らずにミサイル防衛網に護られているモノだと思い込みながら、のうのうと暮らしていたのだ。

 コースターは日本の、東京のあった場所へと降りる。
そこは幾つもの核爆弾の爆心地となっていて、真っ黒な巨大な穴と、溶けた建物の残骸が転がっていた。

「最初に核の標的になったのは、東京なのか。政治や経済の中枢だから、東京が潰れれば日本はあらゆる面で機能不全に陥る。相手国とすれば、当然の戦略だな」

 コースターの左右に広がる、凄惨な光景。
人類が生み出した核の威力は、そこに暮らしていた人々の死体すら残らないホド、凄まじいモノだった。
それがARで無ければ、ボクたちも放射能で一瞬で死んでいるコトだろう。

 バーチャルコースターは、日本が誇った高速鉄道のトンネルへと入った。
再び辺りに星が流れ、場面が宇宙へと移り変わる。

「今度は宇宙が舞台……ってコトは!」
 深淵の宇宙空間に、突如として閃光が走った。
無数の艦艇が連なって艦隊を形成し、たった1隻の敵艦と対峙している。

「アレは、時の魔女の艦か。ボクたちが戦った、『深き海の魔女』とどこか似た形状をしているな」
 無数の艦艇による攻撃を、ほぼ無力化する漆黒の艦。
すると対峙していた艦隊の艦艇が、同士討ちを始める。

「この時代の艦も、やはり敵艦をハッキングする能力を備えていたんだな。これじゃあもう……」
 恐らく地球のものであろう艦隊は、崩壊し消滅する。
無数の残骸が漂う宇宙を、駆けるコースター。

「な、なんだ、アレは!?」
 真正面の宇宙空間に、突如として人の顔が浮かび上がる。
長い髪を四方に漂わせ、ボクを導くように手を広げていた。

「キ、キミは……黒乃なのか!?」
 ボクはコースターに乗ったまま、問いかける。
両脇の少女も、時間が停まってしまったかのように動かない。

『ええ、そうよ。わたしの名は、時澤 黒乃』
「く、黒乃って……まさかキミが、時の魔女なのか!?」

 漆黒の宇宙に揺れる、クワトロテール。
前髪に隠れて表情は判らなかったが、口元は微笑んでいる。


『言ったでしょう。わたしはどんなに時が流れても、アナタの傍にいる……と』

「黒……乃?」
 辺りが、真っ白な光に包まれた。

 気が付くと、ボクを乗せたバーチャルコースターは、元の乗り場へと戻って来ていた。

 前へ   目次   次へ