ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・43話

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魔女と量子論

「なあ、クーリア……」
「なんでしょう、宇宙斗艦長」
 バーチャルコースターを降りたボクは、隣に座っていた女のコに問いかけた。

「クーリアはバーチャルコースターで、一体どんな映像を見たんだ?」
「どんな……とは、スピード感のあるファンタジーとSF的な映像だったと思いますが?」
 ボクの見た内容もSFではあったが、内容が食い違っている気がする。

「もう少し、具体的な内容はどうなんだ、セノン?」
「えっとですねえ、最初にお魚さんが泳ぐ海の中を進んで、海から出て雲の上を飛びましたよね?」
「ええ。雲の王国を巡った後、宇宙に飛び出して行きましたわ」

「宇宙で、おっきな戦艦や戦闘機が戦ってましたね。スゴい迫力だったですゥ」
「それから敵の要塞に入って、破壊してエンディングを迎えたのですが……ナゼ、そのようなコトを?」

「ボクが見たのは、2人が見た内容とは違うんだ」
 そう言うと、2人は驚いて口を手で覆っていた。

「例えば人によって、見えるモノが違うと言うコトは無いのか。搭乗者の深層心理にアクセスして、それに応じた映像を流すとか?」

「このコースターは、そんな仕様では無いと思いますが」
「そうだよ、おじいちゃん。気絶して、夢でも見ていたんじゃないんですか?」

「失礼だな。気なんか失って無いよ」
「それで艦長は、どんな映像をご覧になったのでしょう?」
 ドリル状のピンク色のクワトロテールを揺らし、ボクの顔を覗き込むクーリア。

「ボクが見たのは、第三次世界大戦の映像……それから、時の魔女との激戦だよ」
 ボクは、クーリアや大勢の少女たちと共に、コースターの乗り場を出ながら答える。

「オイオイ、なんだかメチャクチャハードな内容だな」
 後ろで会話の内容を聞いていた、真央が言った。

「だね。でも、おかしい……」
「ウン。わたしが見た映像も、セノンやクーリアの言った内容と同じだったしね」
 ヴァルナとハウメアも、盟友の話に追従する。

「それじゃあ、ボクだけが異なった内容の映像を見ていた……そんなコトが、あるのか?」
「誰かがコースターに、ハッキングを仕掛けて細工でもしたのでしょうか?」

「わ、わわ、わたしはまだ、何もしてません。クーリアさま、信じて下さい!」
 護衛役を務める3人の少女の1人であるフレイアが、アワアワと慌て始めた。

「別にフレイア。わたくしは、貴女が何かしただなんて思っておりません!」
「そ、そうでしたか。失礼致しましたァ!」
 顔を真っ赤に染めながら、シルヴィアとカミラの間に消える少女。

「ハッキングの可能性……もしかしたら、時の魔女が絡んでいるのかも知れない」
 ボクは振り返って、バーチャルコースターの乗り場を見る。

「ですが時の魔女は、どこの誰とも解らず、存在しているかすら解らないとの見解が、ディー・コンセンテスからも示されております」
「だけどクーリア。ミネルヴァさんたちはあんなにも、時の魔女を警戒していたじゃないか」

「宇宙斗艦長の、考え過ぎじゃねえか。時の魔女なんて、漆黒の海の魔女をけしかけて来て以来、鳴りを潜めてるだろ」
「そう言えばそうですよ、マケマケ。う~ん……」

「なんだよ、セノン。珍しく考え込んじまって」
「珍しくは失礼ですゥ。でも、漆黒の海の魔女をけしかけて来たのは、事実なんですよね」
「そりゃまあ……推測ではあるケドな」

「艦の形状や性能からして、まず間違いは無いだろう。バーチャルコースターで見た映像でも、漆黒の海の魔女と同系統の艦が、地球の艦隊を一蹴していたよ」

「そう……だよな。警戒は、怠るべきじゃねえってか」
 真央も、ボクやセノンの意見に納得した。

「クロノ・カイロスにしても、時の魔女から与えられたモノだ。どうしてボクを艦長にしたのかも、謎のままだしな」

「何処に居るのかも解らない。その素顔や目的も解らない。けれども、存在しているコトは推察できる。これではまるで、量子論のようではありませんか?」

 存在するコトが解れば位置が特定できなくなり、位置が特定されれば存在するかどうかが解らなくなる……ナノマイクロの微細な量子の世界は、ボクたちが眼で見ている世界とは異なった理(ことわり)が支配する。

「的を射た答えだね、クーリア。時の魔女はもしかすると、量子力学的な存在かも知れないな……」
 パルク・デ・ルベリエから、ドームに覆われた宇宙を見上げるボク。

「時の魔女……やはり、キミなのか?」
 けれども星々は、何も言わずただ煌めいていた。

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