ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第02話

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2つのアイドルユニット

「問題は、ここからだな。あと3組は、誰だ?」
 ボクは朝食の準備も途中で放り出し、リビングのテレビの前に胡坐をかいていた。

「アロアとメロエは芸能一家に育ち、天空教室に入る前も何本かCMを受けていた。キアたち4姉妹も、インディーズとは言えコアなファンを獲得していたロックバンド。スポットライトを浴びる覚悟も、それなりに備わっているだろう」

 でもボクの知る限り、他にスポットライトを浴びた存在と言えば、ユミアくらいしか居ない。
彼女がユークリッドの……久慈樹社長のオファーを、受けるハズが無い。
つまり、誰であろうとアイドル未経験者なのだ。

「軽い気持ちで、アイドル活動を始めてしまっていないか心配だ……」

 テレビの向こうの手の届かないステージで、次のアイドルが紹介されようとしていた。

『そしてアイドル2組目は、プレーア・デスティニー。なんと盗撮などの被害に遭ったテニスサークルの7人の中学生と、それを助けた女子高生のユニット……』

「や、やはり彼女たちか。でも、タリアまで参加してるのは意外だな……」
 ステージには、星空色のローブのような衣装を纏った7人の少女たちと、ギリシャの剣闘士をアイドル風にアレンジした衣装のタリアが立っていた。

『サブリーダーの、禄部 明日照(アステ)です。きょ、今日は皆さま、お忙しいところお集まりいただき恐縮です!』
 パステルブルーの長い髪の少女が、フラッシュを浴びながらお辞儀をする。

『へ、へへ、戸次 芽瑠璃(メルリ)と、も、申します。ヨロシクですゥ!』
 カチコチに緊張したモスピンクの巻き髪ツインテールの少女が、頭を下げた。

『わたしは蔵澤 絵零兎。エレトって呼んでくれていいわ』
 対してまったく動じていない、白い髪を後ろで二つに束ねた少女。

『ボクは麻井 舞依弥。マイヤでいいよ。ヨロシクゥ』
 薄いオレンジ色のレイヤーボブの少女も、明るい笑顔で挨拶する。

『丹下 手結夏だよォ。タユカって呼んでね』
 甘えた声でウインクする、ウェーブのかかった桜色の長い髪の少女。

『家長 袈螺埜と申します。カラノとお呼びくださいませ』
 抹茶色のミディアムボブの少女が、両手の先を揃え丁寧に頭を下げる。

『アチシ、弓尾 杏屡希。アルキって呼んでくれ』
 ライトパープルのパイナップルヘアの少女が、鼻にかかった声で言った。

 自己紹介を終えた7人の少女に、フラッシュの光が浴びせられる。
星空色の衣装に散りばめられた宝石が、キラキラと輝いた。

「た、確かにみんな、小柄で可愛らしい女のコたちだが……アイドルってのはそんな簡単じゃ無いぞ」
 ボクの中に、親心みたないな感情が沸き上がる。

『え、えっと、美乃栖 多梨愛(タリア)だ。アタシはアイドル枠ってより、コイツらの保護者みたいなモンなんで……よろしく』
 1人だけ厳つい格好をした長身の女の子が、頭をポリポリ搔きながら小さく頭を下げた。

「とりあえずタリアが着いていてくれれば、安心は安心だな。だけどあんな事件に巻き込まれた彼女たちがアイドルって、何事も無ければいいケド……」
 この時の悪い予感は、後に的中するコトとなる。

『さて、続きましてはプレジデントカルテット。名前の通り、4名の少女によるグループだァ!』
 今度は一転して、フォーマルなスーツのようなアイドル衣装を着た4人が、ステージに立っていた。

「な、なんでキミたちが……!?」
 唖然とする、ボク。

『新兎 礼唖(ライア)と申します。招来は弁護士を目指しております。以後、お見知りおきを』
 宝石で飾ったピンク色の髪をした少女が、アイドルらしからぬ挨拶を述べる。

『八木沼 芽理依(メリー)と言います。わたしはユミアさんに触発され、教師となる道を目指すつもりです。よろしくお願いいたします』
 白い肌にアイボリー色のショートヘアの女の子も、形式ばった挨拶をした。

『天棲 照観屡(テミル)っス。招来は、不動産王を目指しているんで、皆さんの中にマンションもしくはアパートをお探しの方は、プニプニ不動産をヨロシクっス!』
 しっかりと実家の営業アピールを織り交ぜる、琥珀色の髪の三つ編みお下げの少女。

『我柔 絵梨唖(エリア)と申します。実家がプロテスタント系の教会で、牧師を目指して修行中の身ではありますが、宜しくお願いいたしますね』
 倉崎 世叛の眠る教会の、サックスブルーのストレートヘアの少女がにこやかに微笑む。

「弁護士、教師、不動産王、牧師……プレジデントとまでは行かないまでも、権威を象徴する職業であるコトは間違いないからな」
 ボクは彼女たち4人のグループ名に、妙に納得していた。

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一千年間引き篭もり男・第06章・41話

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バーチャルコースター

 翌日、カプリコーン区画のホテルを出たボクたちは、アリエス区画へと移動し街を散策する。

「この区画は、ホントに地球のパリみたいな風景なんだな」
 街は、アールヌーボーのアパートメント風の建物や、ゴシック建築の巨大な寺院などが立ち並び、華やかな衣装に身を包んだ人々が通りを行き交っていた。

「見て下さい、おじいちゃん。アレが、パルク・デ・ルベリエの目玉、バーチャルコースターに大観覧車なのです!」
 隣でアイスクリームをたくさん抱えた少女が、賑やかなテーマパークを指さす。

 昨日、ボクとセノンはキスをした。
けれども今の彼女は、普段通り無邪気に笑っている。

「マスコットキャラの、ベリーくんですよ。手を振ってますゥ!」
「1000年後の時代にも、マスコットキャラは生き残っているんだな」
 ロココ様式の門をくぐると、コミカルな金色の羊がボクたちを出迎えた。

「まずは、バーチャルコースターだな。さっそく、乗ってみようぜ」
「マッハ6のスピードが、疑似体験できるらしい……」
「愉しみだね。早く行こ!」

 真央、ヴァルナ、ハウメアが、駆け出した。
3人とも今日は、パルジェンヌ風のお洒落な格好をしている。

「ああ! 待ってください、マケマケ」
「相変わらず真央は、マケマケなんだな」

「とうぜんです。それよりおじいちゃんも、行こ!」
 栗毛のクワトロテールを揺らしながら、駆け出す少女。

「そうだな。未来のジェットコースターがどんなモノか、チャレンジしてみるか」
 引き籠りで、ジェットコースターなど数回しか乗ったコトが無かったボクだが、少女たちの熱気の乗せられ熱くなっていた。

「ボクの時代のテーマパークのジェットコースターときたら、数時間待ちが当たり前だったケド、今はすんなり乗れるんだな」
 コースターは同時に5レーンもあり、電車の環状線のように慌ただしく次々に発着している。

「アレ、クヴァヴァさま達も来てますね」
「ホントだ。11人の取り巻きのコたちも、一緒だな」

 乗り場には、セノンや真央たちよりも高級そうな衣装を纏った、少女たちが居た。
その中でも真っ白なドレス姿のクーリアは、一際美しく輝いて見える。

「き、奇遇ですわね、宇宙斗艦長……」
 恥じらいながら目を背ける、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。

「奇遇ねえ。アタシら、別々の部屋だったのに同じ遊園地の同じ場所で巡り合うだなんて」
「アクロポロリスの12の街は、それぞれ10億の人口がいるのに……」
「その中のアリエス区画で、たまたま出会うなんてスゴい偶然だよねェ」

「な、なにが言いたいのですか、貴女たち!」
「クーリア様が、偶然を装ったとでも!?」
「ハッキングして行き先を突き止めただなんて、そんなコトは断じて……ムグゥ!?」

 真央たちオペレーター3人娘に指摘され、苦しい言い訳をするシルヴィア、カミラ、フレイア。

「み、皆さま、コースターが来てますわよ。細かいコトは気にせず、楽しみましょう」
 クーリアが、強引過ぎる話題転換を計る。

 到着したコースターは3人掛けで、先頭には真央、ヴァルナ、ハウメアが乗り、次の席にボクとセノン、クーリアが乗った。
背後には、シルヴィア、カミラ、フレイアが乗り、ナゼか鋭い眼光を光らせている。

 つまりボクは、左右をクーリアとセノンに挟まれて、前後をそれぞれの陣営の少女たちに囲まれながら、コースターに乗る羽目になった。

「あ、いよいよ発車しますよ!」
「す、少し緊張しますわ……」
 『ジリリリ』と音が鳴り、『ポォン』と滑らかに滑り出すコースター。

「おわ、以外に速ッ!?」
 周りの景色が吹き飛ぶ程に、一気に加速する。

「きゃああ、楽しいのですゥ!!」
「ど、どこがですの。ちょっと、速過ぎませんコトォ!?」
 2人の少女の腕に締め付けられ、コースターは更にスピードを上げて行った。

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP016

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直接対決

「オラ、死ねや!!!」
 地面に倒れた千葉 沙鳴の頭上に振り下ろされる、砂で汚れた木製バット。

「きゃああぁぁーーーッ!!?」
 ツインテール少女の悲鳴が、河川敷に木霊した。

「さ、沙鳴ァ!?」
「いやあぁぁ!!」
 バドミントン部の少女たちも、友人である少女の頭部がザクロのように弾け飛ぶ光景から目を背ける。

「オイ、なんのマネだ……」
 岡田 亥蔵が、言った。
その鋭い眼光が、ボクを睨んでいる。

「ア、アレ……沙鳴が生きてる!?」
「良かったァ!」
「で、でもどうして?」

 河川敷の土手にうずくまる千葉 沙鳴が、無事なのを確認し安堵するバドミントン部の少女たち。
ツインテール少女の前には、バットとサッカーボールが転がっていた。

「あの1年……サッカーボールで、岡田さんのバットを弾き飛ばしやがった!」
「ま、まあ、ある意味、感謝だケドよ……」
 曖経大名興高校サッカー部の先輩たちも、全員がボクに視線を向けていた。

注)この時も御剣 一馬は、クールな表情のまま眉一つ動かしてはいない。

「随分とナメたマネ、してくれてんな」
 岡田さんは、地面に転がったバットをつま先ですくい上げる。

 いや、だってそうしないとあのコ、死んじゃってたし。
そんなコトになったら、岡田先輩もサッカー部もマズいでしょ!?

「お、岡田さん!?」
「一体、何を!?」
 宙を舞ったバットに、視線を集める先輩たち。

「ドラァッ!!」
 岡田さんは、とんでもないスピードの振り脚で、サッカーボールをインパクトした。

「……!!?」
 ボールは、凄まじいシュートとなって宙を舞うバットを真っ二つに粉砕し、土手の上にいたボク目掛けて飛んで来る。

 ど、どうしよ!?
避ける……でも、ボール取りに行くの面倒だし……。
ボクは、ヘディングを選択した。

「あ、あの1年、ヘディングで岡田さんの弾丸シュートを、トラップしやがったぞ!?」
「あの勢いのシュートの威力を、ヘディングでゼロにしたってのかよ!?」
 先輩たちが、土手の下でなにやら驚いている。

「さ、沙鳴の彼氏、スゴすぎ……」
「カッコいいし、クールだしィ、わたしまでホレちゃうかも!」
 バドミントン部のコたちも、ナゼかボクを見てキャアキャア言ってる。

「面白れェ1年だぜ。ま、続きは明日の試合に、取って置いてやるよ」
 岡田さんはそう告げると、土手の下の練習場から立ち去った。

「ま、待ってくださいよ、岡田さん」
「練習は、イイんスか?」
「イイよ。ンなモン。オメーらテキトーに、走り込んどけ」

 先輩たちもゾロゾロと、岡田さんの後を追って河川敷を出て行く。

 とりあえず、なんとかなった……のかな?
でも明日の試合が、メチャクチャ心配だ。

 それより沙鳴ってコ、ケガとかして無いだろうか?
ボクは、河べりの土手を滑り降り、ツインテール少女の元へと向かった。

「沙鳴、だいじょうぶ?」
「そこら中、擦りキズだれけじゃない!?」
 見ると少女は、ヒジやヒザから血を流し、制服も泥や砂で汚れている。

「ア……アタシ、恐くて……それで……」
 少女の顔に、竹刀で飛び掛かって行った時の元気はなく、涙を流しガクガク振るえていた。
脚をギュッと閉じ、汚れたスカートを必死に抑えている。

「さ、沙鳴。アンタ……」
「恐かったんだね。仕方ないよ」
「アンタはわたし達のために、戦ってくれたんだから」

 バドミントン部のキャプテンらしき少女が、着ていたジャージを脱いで千葉 沙鳴の下半身を隠すようにかける。

「アタシ……なにも出来なくて……アタシ……」
 ツインテール少女は、みんなに囲まれながら嗚咽して泣いた。

「でも、困ったね」
「この脚じゃ、立って歩くのなんてムリだわ」

 そう言えば彼女の右脚、岡田先輩のバットを喰らったんだ。
うわあ、真っ赤に腫れあがってる。

「どうします、キャプテン?」
「そうだねェ。沙鳴の家は実はこの近くだから、わたしがなんとかオブって運ぶか……あ!?」

 ボクは千葉 沙鳴を、両腕で抱え持ち上げていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・27話

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深海の魔法

「クッソ。オヤジを使って、世界中の国を地震や津波で破壊するつもりだったのかよ!」
 怒り心頭な、バルガ王子。

「ヨナの見立てではのォ。もしそうなれば、ヤホーネスの都すら多大な被害を受けるとのコトじゃ」
「なんだって。ホントなのか、ルーシェリア!?」
「まずは大地震で崩れていた城壁が倒壊し、そこに津波が押し寄せるのじゃ」

「生き残った人たちで普及を頑張ってるのに、もしそんなコトになったら……」
「ああ、ご主人サマよ。ヤホーネスの都は倒壊し、水没する。女王レーマリアを含む多くの命が、危険に晒されておるのじゃ」

「オヤジにそんなコト、させてたまるか。リヴァイアス海溝は、ここから大した距離じゃねえ。今すぐ行って、計画を阻んでやるぜ!」

「お待ちください。リヴァイアス海溝の水圧は、王子と言えど耐えきれるモノではありません!」
 側近の少女ティルスが、王子を止める。

「確かにな。あの強大な水圧に耐えられンのは、海皇さまを置いて他には居ねえぜ」
「つーコトは、オレらじゃ近づくコトすらままならないってか!?」
 海皇パーティーの漁師兄弟、ビュブロスとベリュトスが顔を見合わせた。

「このままオヤジが世界を破壊すんのを、指くわえて見てろってのかよ!」
「イヤ、方法はあります」
 細身の身体にヒスイ色の着物を纏った、藍色の長い髪の男が王子の前に立つ。

「本当か、シドン」
「はい、バルガ王子。古(いにしえ)の時代には、この海底都市カル・タギアよりさらに深海に棲むモノたちが居たと、文献にありました。彼らは、『深海の魔法』と呼ばれる秘術を使っていたらしいのです」

「その深海の魔法ってのを使えば、リヴァイアス海溝の水圧にすら耐えられるのか?」
「そこまでは、解りません。ですが、可能性はございます」

「それで、深海の魔法ってのを使えるヤツは、何処にいる?」
「元々深海の民は、大勢で集まって暮らす種族では無かったので、この海洋のどこかには生きて残っているハズなのですが……」

「海の広さなんて、とんでもねえぞ。悠長に探してる時間なんて……」
「ふっふ~ん」
 するとイカの少女が、いきなり王子の前に躍り出た。

「どうしたんだ、スプラ。小さな胸なんか張っちゃって」
「し、失礼な。小さくないよ。これから大きくなるんだい!」
 恨めしそうに、舞人を睨む少女。

「何やら知っておるようじゃの、イカの小娘よ?」
「知ってるもなにも、ボクは深海の魔法を使えちゃうんだな」

「ホ、ホントなのか。スプラ?」
「ま、まあリヴァイアス海溝の水圧には耐えられない、初歩的なモノだケドね」

「ねえ、スプラ。その魔法、見せてくれない?」
「わたし達でも、深海の魔法の知識は無いんです」
 リーセシルとリーフレアの双子姉妹が、言った。

「いいよ。これでボクも、深海に潜ってるからね」
 スプラ・トゥリーが、緑触槍『アス・ワン』に魔力を込めると、自身の身体を紫色の光が覆う。

「なんじゃ、随分と簡単な魔法じゃのォ」
「そうだね。でも、水の魔法で水圧を完全に、逃がしてるんだよ」
「これであれば、強化した上で皆さんにエンチャントできます」

「マジか。そんじゃさっそく、オレさまにも……」
「アンタはカナヅチでしょ、クーレマンス!」
「それにアンタとガラ・ティアさんには、深海の宝珠の護衛をお願いしたいんです」

「そうい言やお前ら、深海の宝珠に入ってこの街の泡のドームを支えるんだったよな」
「お任せください。わたくし達夫妻が、必ずやお二人をお守りしますわ」

「アタシたちも、海ン中は苦手だし」
「ここに残ろっかな」
「護衛は多い方がイイし」

 ヤホッカ、ミオッカ、イナッカの3人も、海底都市に残る選択をする。

「それじゃ、オヤジの元にはオレら海皇パーティーが行くぜ!」
「ボ、ボクも、行きます!」
「仕方ないのォ、妾も付き合ってやるとするか」

「ボクも行くよ。ダーリンには、ボクのサポートが必要だもん」
「うん、確かにスプラは深海の魔法が使えるからね」
「エンチャントが解除されてしまったら、再付与が必要ですし」

 その後、双子司祭の強化版深海の魔法のエンチャントを受けた覇王パーティーと舞人たちは、リヴァイアス海溝へと向かった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第01話

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アイドル誕生

 倉崎 世叛の眠る教会に行ってから、数日が過ぎ去る。
世間は、瀬堂 癒魅亜とマーク・メルテザッカーの恋愛の話題で、持ち切りとなっていた。

「どの新聞も、どの番組も、どのゴシップ雑誌も、同じ話題ばかり書いて飽きないモノだな」
 そこに何故だかボクも加わって、三角関係だとか囃(はや)し立てられている。

「ボクにとって瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)は、雇用主でもあり生徒でもある。だけど、それ以上でも無ければ、それ以下でも無いんだ」
 そんな台詞を、もう何度した口にしたコトだろうか?

 彼女は、優しい女のコだ。
キアとシアが重傷を負ったときには、病院にまで駆けつけてくれたし、タリアの件でも積極的に関わってくれていた。

「ユミアも他の生徒たちも、これ以上傷付くようなコトにならなけれない良いんだが……」
 天空教室の生徒たちは、既に十分な傷を負っていた。

 元は、安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)と、安曇野 画魯芽(あずみの えろめ)の双子姉妹ら芸能一家が暮らしていた家で、ボクはユークリッドへと出勤する準備をする。

「この物件も、いずれはアロアとメロエの元に戻って欲しいモノだな」
 ボクはワイシャツを着ながら、パンをトースターに放り込みコーヒーを煎れた。
やっている作業は、前の立ち退いたアパートの頃と変わらない。

「またテミルに、相応しい家を探して貰わないとだな」
 生徒の1人でもあるプニプニ不動産の看板娘、天棲 照観屡(あます てみる)によって紹介された家も、ボクにとっては豪華過ぎた。

『ここで、速報です。ユークリッドから、新たなアイドルユニットが結成されるとの発表がされました』
 薄型テレビの中の情報番組のアナウンサーが、横から渡された原稿を冷静に読み上げる。

『では、記者会見の現場にカメラを移します』
 すると画面がスタジオから、記者会見の現場へと切り替わった。

「アイドルユニットって……前に久慈樹社長から、提案されていたヤツじゃ無いだろうな」
 嫌な予感しかしない。
少なくとも芸能一家に育った双子姉妹は、乗り気だったからだ。

『今日は、大切なプロモーションにお集まりいただき、感謝します』
 フラッシュが光り輝く中、大のマスコミ嫌いな久慈樹社長が言った。

『本日、ユークリッドは新たに、4組のアイドルユニットの結成と、1つのロックバンドのプロモートをするコトをここにお伝えします』

 すると記者会見場にスモークが吹きあがり、ドライアイスのミストが記者席にまで流れ込む。
記者会見場の右横の徐大カーテンが開くと、豪奢なステージが出現した。

『まずは1組目、安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)と、安曇野 画魯芽(あずみの えろめ)の双子姉妹によるデュオ、ウェヌス・アキダリアだ!!』
 会場の照明が暗くなり、スポットライトが駆け巡る。

 ステージに、ギリシャ神話の女神の纏っていそうな露出の多い衣装を着た、ゴージャスな身体の双子姉妹が姿を現した。

「オイオイ、こんな衣装を高校生年齢の少女に着せて、いいのか!?」
 最もそれは、2人が率先して選んだ可能性の方が高いのだが。

『わたくしアロアと妹のメロエは、一流の女優を目指しておりますが、ウェヌス・アキダリアは美とファッションをメインにしたアイドルユニットとする所存ですわ』
『どうか皆さま。温かい目で、見守ってくださいませ』

 物怖じしない2人が優雅に頭を下げると、2つの巨大な胸の谷間が出現する。
彼女たちの計算された演出に、呆気なくカメラのフラッシュが飛びついた。
アイドルスマイルを浮かべたアロアとメロエは、ステージを降りて記者会見場の久慈樹社長の隣に座る。

『続いて、我がユークリッドと契約したロックバンド、『チョッキン・ナー』の登場だ!』
 ステージからミストがあふれ出し、今度は一層ハデにスモークが舞い上がった。
舞台に、真っ赤なショートヘアの女のコに率いられた、4人のロックバンドが登場した。

『今日はウチらの為に、よ~さん集まってくれておおきに!』
 可児津 姫杏(かにつ きあ)が、新たにデザインされたカニ爪ギターを掻き鳴らす。

『ね、姉さん。別にわたしたちの為だけに、集まったんじゃ無いでしょ!』
『そこはええやん。シアは真面目やなあ』

『せやで。シア姉はマジメ過ぎちゃうか』
『こ~ゆんは、その場のノリが大事なんやで』
 ミアとリアの双子の妹に突っ込まれ、顔を赤らめるシア。

『シア姉、顔が真っ赤やで』
『ホンマや、茹でダコみたいや』
 ケタケタと笑い転げる、小学生年齢の2人。

『おのれら、後で覚えときいや!!』
『ひええェ、シア姉がブチ切れたァ!』
『ホンマ、カンニンやでェ!?』

 会場に、笑いの渦が巻き起こった。

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一千年間引き篭もり男・第06章・40話

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初恋

 古の軍神(マーズ)名を、持つ赤い惑星。
10憶人が暮らす街が12も存在する、オリュンポス山のアクロポリス街にて、セノンやクーリアたちと街を愉しみながら歩きまわった。

「ねえ、おじいちゃん。明日は、牡羊座(アリエス)区画に行ってみようよ」
「その街に、何か面白そうなモノでもあるのか、セノン?」
 カプリコーン区画にあるホテルの一室でボクは、アンティークなデザインのベットに身を投げ出す。

「おっきな遊園地があるんです。バーチャルコースターとか、大観覧車とか人気なんですよォ」
「へえ。ここは、コナン・ドイルが描いたシャーロック・ホームズが事件の捜査をしていそうな街だケド、アリエス区画はどんな街並みなんだ?」

「フランスのパリみたいな、感じらしいぜ」
「お洒落な服のお店が、たくさん……」
「グルメも評価高いし、芸術品なんかも街中にたくさん飾ってあるんだ」

 真央、ヴァルナ、ハウメアの息の合った会話。
それもあと数日で、聞くコトが出来なる。

「だけどみんな、男のボクと同じ部屋で良かったのか?」
「構いませんよ。おじいちゃんは、かなりのご高齢ですし」
「じ、自分じゃまだ、高校生の気分なんだが……」

「流石にセノン1人にゃ、させられんケドな」
「女のコが4人も居れば、問題ない……」
「じゃあ、シャワー浴びて来よっかな。覗かないでよ」

「覗かないよ、まったく……」
 ベッドに横たわり3人を見送ると、曇りガラスのドアの向こうからシャワーの音が聞こえて来た。

「まあプリズナーたちも、夜の街に繰り出して行ってしまったからな。1人部屋じゃなきゃ、こうなるのも仕方ないのか」
「クヴァヴァさまも、取り巻きのコたちと一緒の部屋ですしね」

 セノンはそう言うと、ボクの寝転がっているベットに座った。
脚の上に、栗色のクワトロテールの柔らかい髪が散らばる。

「エヘヘ……ちょっとだけ一緒に、寝ましょう」
「ん、なにを言ってッ!?」
 振り向くとセノンはすでに、ボクの隣に横たわっていた。

「覚えていますか?」
「な、なな、なにをだ?」
 栗毛の頭が、ボクの右脇にある。

「始めて会った時のコトですよ」
「ああ、フォボスの採掘プラントだったよな。そこでボクは、1000年ぶりに目覚めて……」

 火星の衛星で目覚めたボクが始めて会った未来の人間が、世音(せのん)・エレノーリア・エストゥードだった。
そしてボクは、時澤 黒乃の死を知るコトになる。

「おじいちゃんはまだ……黒乃って人のコトが、好きなんですか?」
 少女が、ボクに身を寄せながら言った。

「そうだね。ボクにとって、初恋ってヤツだったんだと思う」
「初恋……ですか」

「でも、完全に片思いだよ。ボクだけが一方的に、彼女を好きになっていたんだ」
「そうでしょうか……わたしは、違うと思います」
「どうして、そう思うんだ?」

「なんとなく、です」
「なんとなくって……」
 右の脇の方を見ると、セノンがボクを見上げていた。

「時澤 黒乃さんって、どんな女性だったんですか?」
 少女の茶色の瞳に、ボクが映る。

「セノンと同じ、クワトロテールの女のコだったよ」
「わたしと同じ……」

 栗毛の少女は、ハートの髪飾りを取り出した。
それは生前、時澤 黒乃のクワトロテールを結んでいた1つで、形見としてセノンが貰ってくれていた。

「彼女は学校のクラスメイトで、お互いにクラスから浮いた存在だった。人懐っこいセノンとは真逆な性格の、ミステリアスな雰囲気の女のコだったよ」

 今はフォボスのプラントの底で、岩に押しつぶされ眠っている彼女。
ベッドに横たわっていると、1000年もの永き時間を過ごした冷凍カプセルでの感覚を思い出す。

「時澤 黒乃は、ボクを未来に導いてくれた。でも、彼女自身は……」

「わたしじゃ、ダメですか?」
「え?」
「わたしじゃ黒乃さんの替わりは、出来ないでしょうか?」

「な、なにを言って!?」
 頬を赤らめる、栗毛の少女。
その茶色かった瞳は、紅く輝いていた。

「セ、セノ……ン?」
「おじい……ちゃん、わたしの初恋は……」
 紅い瞳は閉じられ、柔らかそうな唇がゆっくりと迫って来る。

 普段は子供っぽく、無邪気に笑っている少女。
今、目の前に居る彼女は、同一人物かと疑うくらいに大人びていた。

「セノン……」
「おじいちゃん……」
 2つの唇が、優しく触れ合う。

 ボクはこの時、生まれてから1000年以上経って、始めてキスを経験した。

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP015

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狂気のバット

 一瞬にして、2人の男を地面に這いつくばらせた竹刀の少女。
その背中には、バドミントン部の少女たちが怯えていた。

「ちょっと、沙鳴。だ、大丈夫?」
「まだアイツら、たくさん居るよ」
「あんなに大勢に襲い掛かられたら、いくら沙鳴でも……」

「ダイジョブ、ダイジョブ。あんなのがいくら束になったって、この千葉 沙鳴には勝てやしないわ」
 少女は竹刀を中段に構え、サッカー部の先輩たちをけん制する。

「クッソ、よくもやりやがったな!」
「だがこの人数相手に、竹刀1本でどこまで出来るかな?」
「真っ平らな胸の小娘(ガキ)が、痛い目見せてやんぜ!」

「だァ~れが真っ平よ、失礼ね。これでもほんのチョットだけ、大きくなってんだから!」

 ……そうなんだ。
土手の上に取り残されたボクは、ツインテール女のコとサッカー部の先輩たちとの死闘を見守った。

「ハア、ハア。く、口ほどにも無いわね」
 息を切らせつつも、千葉 沙鳴は先輩たちの撃退に成功する。

「チ、チキショウ。やたらと強ェな、この小娘」
「間合いに入った途端、突きが飛んで来るぜ」
「みんなで一斉に飛び掛かって、羽交い絞めにしてボコるか?」

「待ちな、見っともないマネしようとしてんじゃねェよ」
 すると、大勢が倒れていた先輩たちの後ろから、銀色の髪をした長身の男が現れた。

「お、岡田さん!?」
「でもこの小娘、生意気なんですわ」
「1度痛い目見せて、やろうかと」

「寄ってたかって、小娘1人に勝ったところでなんの自慢になンだ?」
 男は、ヘビのような眼光で他の先輩たちを威圧する。
睨まれた先輩たちは、固まって何も言い返せない。

「オレが相手してやっぜ。この岡田 亥蔵(おかだ いぞう)がな」
 そう言うと銀髪の男は、グランドに放置されていた木のバットを拾いあげた。

 岡田 亥蔵……。
確かウチのクラスの委員長が、岡田先輩たちのコトを『曖経の四凶』とか呼んでいたよな?

「素人の考えね。そんな重たいバットで、竹刀のスピードに勝てると思ったのかしら?」
 息も整ったツインテールの少女が、再び竹刀を中段に構える。

「ほう……じゃあ試させてもらうか、テメーの身体でな」
 岡田先輩は、容赦なくバットを振り下ろした。

「キャアッ……ちょっ!!?」
 咄嗟に飛びのく、千葉 沙鳴。
バットは、彼女が居た地面にめり込んでいた。

「なに考えてんのよ。殺す気?」
「当然だろう。剣士ってなァ、命のやり取りを愉しむモンじゃねェのかい?」
 鋭い眼光が、少女剣士に向けられる。

「さあ、どうした。掛って来いよ」
「……ウ、ウソでしょ。イヤァッ!?」
 バットが再び、彼女の居た地面にめり込んだ。

「マ、マズいよ、この人。沙鳴が殺されちゃう!」
「わたし、先生呼んで来る!」
「今からじゃ、間に合わないって!」

 バドミントン部の少女たちも、常軌を逸した岡田先輩の行動に混乱している。

「さっきまでの威勢はどうした。逃げてばかりじゃ、話になんねぇぜ」
「ヒ、ヒイィッ!?」
 恐怖で竹刀を投げ出し、岡田先輩のバットから逃げ惑う千葉 沙鳴。

「ギャッ!?」
 バットが、少女剣士の右の足先を捕らえた。
もんどりう打って、土手の地面に転がる。

「ああ……脚が!!」
 ツインテール少女はつま先を抱え、激痛に顔を歪ませていた。

「さて……トドメと行こうじゃないか」
 バットを肩で弾ませながら、動けなくなった少女剣士にゆっくりと近づく岡田先輩。

「お、岡田さん。その辺にしといた方が……」
「これ以上やっちまったら、ホントに警察沙汰になっちまいやすぜ」
 腰を低くしながら、なだめて止めようとする他の先輩たち。

「お、お願いします。グランドは明け渡しますから!」
「さ、沙鳴を助けてやって下さい!」
 バドミントン部の少女たちも、必死の想いで懇願する。

「あ……ああ……イヤァ」
 恐怖と激痛とで、ヘビに睨まれたカエルのように1歩も動けない千葉 沙鳴。

「終わりだ……その可愛い頭が、ザクロみてェに吹っ飛ぶぜ」
「お兄ちゃん、助けてェ!!!」
 狂気のバットが、少女剣士目掛けて振り下ろされた。

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