ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・40話

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初恋

 古の軍神(マーズ)名を、持つ赤い惑星。
10憶人が暮らす街が12も存在する、オリュンポス山のアクロポリス街にて、セノンやクーリアたちと街を愉しみながら歩きまわった。

「ねえ、おじいちゃん。明日は、牡羊座(アリエス)区画に行ってみようよ」
「その街に、何か面白そうなモノでもあるのか、セノン?」
 カプリコーン区画にあるホテルの一室でボクは、アンティークなデザインのベットに身を投げ出す。

「おっきな遊園地があるんです。バーチャルコースターとか、大観覧車とか人気なんですよォ」
「へえ。ここは、コナン・ドイルが描いたシャーロック・ホームズが事件の捜査をしていそうな街だケド、アリエス区画はどんな街並みなんだ?」

「フランスのパリみたいな、感じらしいぜ」
「お洒落な服のお店が、たくさん……」
「グルメも評価高いし、芸術品なんかも街中にたくさん飾ってあるんだ」

 真央、ヴァルナ、ハウメアの息の合った会話。
それもあと数日で、聞くコトが出来なる。

「だけどみんな、男のボクと同じ部屋で良かったのか?」
「構いませんよ。おじいちゃんは、かなりのご高齢ですし」
「じ、自分じゃまだ、高校生の気分なんだが……」

「流石にセノン1人にゃ、させられんケドな」
「女のコが4人も居れば、問題ない……」
「じゃあ、シャワー浴びて来よっかな。覗かないでよ」

「覗かないよ、まったく……」
 ベッドに横たわり3人を見送ると、曇りガラスのドアの向こうからシャワーの音が聞こえて来た。

「まあプリズナーたちも、夜の街に繰り出して行ってしまったからな。1人部屋じゃなきゃ、こうなるのも仕方ないのか」
「クヴァヴァさまも、取り巻きのコたちと一緒の部屋ですしね」

 セノンはそう言うと、ボクの寝転がっているベットに座った。
脚の上に、栗色のクワトロテールの柔らかい髪が散らばる。

「エヘヘ……ちょっとだけ一緒に、寝ましょう」
「ん、なにを言ってッ!?」
 振り向くとセノンはすでに、ボクの隣に横たわっていた。

「覚えていますか?」
「な、なな、なにをだ?」
 栗毛の頭が、ボクの右脇にある。

「始めて会った時のコトですよ」
「ああ、フォボスの採掘プラントだったよな。そこでボクは、1000年ぶりに目覚めて……」

 火星の衛星で目覚めたボクが始めて会った未来の人間が、世音(せのん)・エレノーリア・エストゥードだった。
そしてボクは、時澤 黒乃の死を知るコトになる。

「おじいちゃんはまだ……黒乃って人のコトが、好きなんですか?」
 少女が、ボクに身を寄せながら言った。

「そうだね。ボクにとって、初恋ってヤツだったんだと思う」
「初恋……ですか」

「でも、完全に片思いだよ。ボクだけが一方的に、彼女を好きになっていたんだ」
「そうでしょうか……わたしは、違うと思います」
「どうして、そう思うんだ?」

「なんとなく、です」
「なんとなくって……」
 右の脇の方を見ると、セノンがボクを見上げていた。

「時澤 黒乃さんって、どんな女性だったんですか?」
 少女の茶色の瞳に、ボクが映る。

「セノンと同じ、クワトロテールの女のコだったよ」
「わたしと同じ……」

 栗毛の少女は、ハートの髪飾りを取り出した。
それは生前、時澤 黒乃のクワトロテールを結んでいた1つで、形見としてセノンが貰ってくれていた。

「彼女は学校のクラスメイトで、お互いにクラスから浮いた存在だった。人懐っこいセノンとは真逆な性格の、ミステリアスな雰囲気の女のコだったよ」

 今はフォボスのプラントの底で、岩に押しつぶされ眠っている彼女。
ベッドに横たわっていると、1000年もの永き時間を過ごした冷凍カプセルでの感覚を思い出す。

「時澤 黒乃は、ボクを未来に導いてくれた。でも、彼女自身は……」

「わたしじゃ、ダメですか?」
「え?」
「わたしじゃ黒乃さんの替わりは、出来ないでしょうか?」

「な、なにを言って!?」
 頬を赤らめる、栗毛の少女。
その茶色かった瞳は、紅く輝いていた。

「セ、セノ……ン?」
「おじい……ちゃん、わたしの初恋は……」
 紅い瞳は閉じられ、柔らかそうな唇がゆっくりと迫って来る。

 普段は子供っぽく、無邪気に笑っている少女。
今、目の前に居る彼女は、同一人物かと疑うくらいに大人びていた。

「セノン……」
「おじいちゃん……」
 2つの唇が、優しく触れ合う。

 ボクはこの時、生まれてから1000年以上経って、始めてキスを経験した。

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