ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第03話

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異空間のアイドル

「残るはあと1組か。まだ呼ばれてないのは、ユミア、レノン、アリス、カトル、ルクス、クララだが……」
 不安な気持ちを増幅させながら、テレビ外面を見つめるボク。

『では、皆さん。最後の1人を発表致しましょう』
 記者会見場の久慈樹社長が、不敵に笑った。

「1人……ソロアイドルってやつか?」

『実は彼女は現在、天空教室のメンバーではありません』
「な、なんだって!?」
 意表を突かれたボク。

『もっと言ってしまうと、彼女はこの3次元世界の住人では無いんですよ』
 ステージに再び、スモークが吹き上がった。

 照明が落ち、記者席にはドライアイスのスモークが流れ出る。
会場を飛び交ういくつものスポットライトが重なり、1人の少女のシルエットが浮かび上がった。

『彼女の名は、オピュク』
 シルエットにデジタルノイズが走り、やがて煌びやかなステージ衣装を纏った少女が実体化する。

 セルリアンブルーの長い髪を体に巻き付け、網目模様の黒いドレスは隙間が虹色のグラデーションで変色しながら輝いていた。
瞳はオレンジで瞳孔が縦に細長く、妖艶な笑みを浮かべている。

『オオ、凄い演出だ!』
『彼女は、デジタルアイドルなんですね?』
 真っ暗な記者席から、次々に質問が飛んだ。

『流石に皆さん、お察しが良い。ですがオピュクは、ただのデジタルアイドルとは違う。ポリゴンや3Dテクスチャ―などとは異なり、人間に存在するあらゆる臓器を再現しているのですよ』
 暗闇になっている会場に、久慈樹社長の声が響く。

『少し解かり辛かったのですが、今のデジタルアイドルと一体なにが違うんですか!?』
『既存のテクスチャ―マッピングを、使用していないと言うコトなのでしょうか?』
『彼女に臓器があったとして、それが何になるんです?』

『技術的に言えば、全く異なるモノを使用している。既存の技術は、3Dデータの骨組みに人の皮膚や衣装の薄紙を貼り付けたモノに過ぎない。言わば張り子だ』
「張り子……なんのコトだ。言っている意味が解からないな……」

『言われてみれば、ポリゴンの中身って空洞ですからね』
『彼女は、異なると言うんですか?』
『そうです』

 ステージのオピュクが、ウインクをしたかと思うと音楽に合わせて踊り出す。
彼女のダンスは滑らかで、デジタルのぎこちなさなど微塵も感じられなかった。

『彼女の頭の中には脳があり、脳によって思考し行動する。身体には肺があって呼吸をし、口から食べた食べ物は、胃や腸で消化され排泄もされる。声優が声を当てるのではなく、自らの発声器官で声を出しているんですよ』

『ちょっと待って下さいよ。そうは言っても彼女は、デジタルデータなんでしょ。食べ物なんて、どうやって食べるんです?』
『呼吸と言われましたが、デジタル空間に空気があるとでも?』


『我々の開発チームの1つである、プロジェクト・オピュクが、空気や何種類かの食べ物を、デジタル空間内に創り上げました』
『空気はともかく、食べ物でしたらゲームなんかでもありましたよね?』

『ヤレヤレ、まだ理解されていないようですな。既存のゲームのモノは、回復量を設定したアイテム情報に過ぎない』
『では、一体なにが根本的に違うと言うのですか?』

『我々はまず、デジタル空間を構成する原子を創ったのですよ。地球の環境に合わせ、窒素や酸素、二酸化炭素で出来た空気を造り、水素と酸素で水を生み出しました』

 オピュクの周りの空間が広がり、次第に豊かな自然や流れる川が映し出される。

『残念ながらまだ、燃焼という現象は再現出来ておりませんが、炭素を含む元素から、タンパク質や脂肪、炭水化物を生成し、食べ物を創り上げました。そして彼女もまた、同じように物質レベルから創り上げたのです』

 テレビに映し出された異空間の少女が、ニコリと微笑む。

「オピュク……彼女も、天空教室に加わるのか?」
 ボクは、久慈樹社長の壮大な実験の恐ろしさに、背筋が寒くなった。

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