車椅子
はああ……昨日はセルディオス監督に、こっ酷く怒られちゃったな。
次の日、ボクは昨日の出来事を思い出し、ため息を付いていた。
クラス委員長の千葉さんの妹……千葉 沙鳴ちゃんだっけ。
あんなコトがあったケド、今日は学校に来てるのかな?
教室の窓から道路を挟んだ向こうに見える、中等部の校舎。
眺めたところで、彼女が登校しているかなんて解らない。
沙鳴ちゃん、あまり落ち込んでないとイイんだケド。
そんなコトを考えながら、なんとかお昼までやり過ごした。
「お、やっぱここに居た。昨日は、悪かったな」
屋上でパンを食べていると、千葉さんがやって来て、ボクの頬っぺたにジュースをくっつけた。
「まあ、飲めや」
うわ、冷たい!?
でも、ボクの大好きな、オレンジジュースだ。
「今日はアイツ、来てねェんだわ」
や、やっぱり……。
「元気だけが取り柄のバカだと思ってたケド、それなりに女になってやがったよ」
奈央もだケド、女のコって大人ぽくなるのが早い気がする。
「妹が殺されかけたんだ。兄貴としては、黙っちゃいられねえ」
……え?
「試合の前に、岡田先輩に抗議するつもりだ。それでどうなるかは、解らん。試合に出られなくなるかも知れないし、それ以上のコトになるかも知れん」
立ち上がり、背中を向けるクラス委員長。
「だが、お前には伝えて置きたかったんだ」
そう告げると、元来た階段のある建屋へと入って行った。
「千葉さん、あんなコト言ってたケド、大丈夫なのかな……」
周りには誰もいない、帰り道。
「岡田先輩って、なにするか解らないし、沙鳴ちゃんを本気で殺そうとしてたモンな。何事もなく終わってくれればイイけど……」
ボクは1人、河べりの土手を歩いて、練習場に向かった。
「御剣、今日は時間通りに来たみたいだケド、昨日のコトあるね。今日の試合、使わないよ!」
何事もなくと言うのは、ムシが良過ぎた。
「まあまあ、セルディオスさん。一馬も他のみんなも、本分は学生なんですから」
すると、車椅子に乗った倉崎さんが現れて、監督をなだめる。
「……!?」
く、倉崎さん、やっぱりケガが……。
「ン? ああ、コレか。死に神のヤツに、こっ酷く吹き飛ばされちまったからな」
一昨日の試合で、美堂さんと戦った時のコンタクトプレイ。
車椅子に乗らなきゃいけないくらいの、大ケガなんだ。
「倉崎、無理するんじゃ無いよ。チームドクターに、安静にするよう言われてるね」
「大丈夫ですよ。今日の試合、オレが出場できるワケじゃありませんし」
「だったら尚更、家で寝てるね」
「いい加減、デッドエンド・ボーイズも、軌道に乗せなきゃ行けませんからね。落ち込んでられないのも、不幸中の幸いです。ケガで車椅子でも、チームオーナーとしての仕事くらいはこなせますから」
「そうですね、オーナー。正直、地域リーグへの申請も、通るかどうか微妙なところです」
練習場に現れた、雪峰さんが言った。
ユニホーム姿を見慣れてるケド、今は自分の高校の制服を着ている。
「雪峰、一体なにが問題なんだ?」
「やはりですね。いくら地域リーグとは言え、高校1年生が主体のチームですと、申請が中々受託されませんし、ホームスタジアム問題も未解決のままです」
「メタボなオッサンが、1人いるじゃない」
「ええ、海馬コーチが居てくれるから、まだ話が通し易いんですよ」
「海馬も、たまには役立つのね」
「後は、ホームスタジアム問題か」
「一応、何件か良さそうなスタジアムを、ピックアップしてみました」
「わ、悪いな、任せきりで。どれどれ?」
雪峰さんのタブレットを覗き込む、倉崎さん。
「このスタジアム、良さげじゃないか?」
「清須スタジアムですね。規模は、8000人収容。一応、夜間照明も設置されてます」
「とりあえず、ここに話を振ってみてくれないか?」
「了解です、倉崎さん」
「それなら佐藤さんの会社にも、協力を仰いだ方が話が纏まると思うよ」
練習場に現れた、柴芭さんが言った。
「ウム、そうだな。金刺、頼めるか?」
「おうよ、キャプテン。任せとき」
「偉そうに。電話するだけじゃんか!」
「解らんかァ。コネは大事やで。社会、生きてくんにはな」
「まだ高校生のクセに!」
練習場に来て早々、険悪なムードになる金刺さんと黒浪さん。
「あとは、サポーターだな」
「積極的に、増やして行かないと行けませんからね」
「ま、そっちはオレに任せな。少なくとも、7人は確保だぜ」
紅華さんが、いつもの7人の女子高生を引き連れ現れる。
みんな、チームの役に立ってるな。
ボクも、頑張らないと……次の試合から!
間近に迫った母校との練習試合、監督の不興を買ったボクは試合に出られなかった。
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