千葉 蹴策
翌日、ボクは母校である、曖経大名興高校の校舎に居た。
教室の窓から、ボーっと陽気な春の空を眺める。
昨日、倉崎さんと美堂さんが激突した試合のコトが、頭から離れない。
倉崎さんの怪我、大丈夫かな。大したコトなきゃ良いんだケド……。
「コラ、御剣。聞こえているのか。次の問題、解いてみろ」
うわあ、ボクが呼ばれてたァ!?
慌てて黒板の前に立つものの、何の問題のコトかさっぱり解らない。
「まったく、聞いて無かっただろ。仕方の無いヤツだ。替わりに千葉、前に出て解いてみろ」
「押忍、先生!」
1人のクラスメイトが立ち上がって、ボクとすれ違い入れ替わる。
日焼けした屈強な腕で、スラスラと書かれる数式。
彼はクラスの委員長であり、招来は生徒会長になると目されている。
「流石だな、千葉。御剣も千葉の書いた数式を、写して置くように。いいな」
ボクがコクリと頷くと、先生はヤレヤレといっ表情を浮かべ、授業を続けた。
「災難だったな、御剣。放課後、ちょっといいか?」
黒板の前から戻って来た『千葉 蹴策』が、ボクの席の前を通り過ぎながら小声で呟く。
なんのコトだろうと思いながらも、ボクは首を縦に振った。
全ての授業が終わり放課後になると、ボクは屋上へと呼び出される。
「悪ィな、忙しいトコ呼び出しちまって。お前、プロサッカー選手なんだろ」
……え、なんで知ってんの!?
「なんで知ってんのって、顔だな。日曜のオーバーレイ狩里矢との試合、見たぜ。お前10番背負っていて、スッゲー活躍だったな」
あ、佐藤さんの会社、サーフィス・サーフィンズが作ってくれた動画を見たんだ。
千鳥さんの撮ったヤツ……昨日、金刺さんや黒浪さんが編集してくれたのかな?
「それに、ホームページまであるのな。デッドエンド・ボーイズだっけ。あの、倉崎 世叛が立ち上げたチームなんだろ。スゲーな」
雪峰さんが作った、ヤツだ。
「カー、オレも入りたかったぜ。でも、この学校のサッカー部に入っちまったしよォ。早まったァ!」
ツンツンした頭をワシワシしながら、悔しがる千葉 蹴策。
でも、自分の高校のサッカー部に入れなかったボクの方が、どうかしてるんだケドね。
「お前、ウチの先輩たちに囲まれながら、入部届けを叩き付けたんだってな。マジで根性あるよな」
根性が無いから、そうなったんんだよ!
「ウチの先輩って、荒っぽいからな。特に他の高校から、『曖経の四凶』とか呼ばれてる、岡田先輩たち4人は恐ろしいったらねェぜ」
そう言えば曖経大名興高校サッカー部って、まともに11人揃って試合を終えるコトが無いコトで、有名だったりするんだよな。
いつも誰か、退場してるって言う……。
「明日さ。ウチのサッカー部と、お前んとこのデッドエンド・ボーイズが急遽、練習試合をするコトになってだな。先輩に言われて、伝えに来たワケ」
……へ?
「四月ん時は、入部届けを叩きつけやがって、舐めたマネしてくれたよな。次の試合じゃ、タップリ可愛がってやるから、愉しみにして置くんだな。ケケケ……とか言って、笑ってたぜ」
ふぎゃああああーーーーーーー!!?
「しっかしお前、これだけ言われてんのに、眉一つ動かさないとは……マジスゲーわ」
無表情な、だけなんだよォォォ!
「とりあえず、伝えたかんな。オレも明日の試合、レギュラー決まったからヨロシク頼むぜ」
千葉 蹴策は、爽やかな笑顔を残し走り去って行った。
な、なんでこうなる!?
試合を決めたのって、雪峰さんかな。
それとも、セルディオス監督!?
どっちにしても明日の試合、ボクはタダじゃ済まないよォ~。
校舎の屋上から見える、春の穏やかな街並みが、灰色に映った。
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