ケッコン
「……あ、ああ、あなたは一体、なんと言うコトをしてくれたのですかァ!!」
崩れ行く海底都市の片隅で、アイスグリーン色の肌の女性が、マゼンタ色の長い髪を振り乱しながら、巨漢の筋肉男を相手にまくしたてていた。
「なにって、オメーの腹にヴォルガ・ネルガをブッ刺して、風船みたいに膨らませ……」
「イヤァ、言うんじゃありませんッ!!」
真っ赤に染まった顔を、両手で覆い隠すガラ・ティア。
「まあ、こうして助かったんだし、良かったじゃねえか」
「良くありませんッ! こんな恥辱を抱えたまま生き永らえるのであれば、いっそのコト死んでしまっていた方が良かったですわ!」
コーラルピンク色の美しい瞳から涙が溢れ、クーレマンスを鬼の形相で睨んでポカポカ殴り続ける。
「そう言うなよ、ガラ・ティア。お袋は、本当に死んじまったんだ……」
オレンジ色の長髪に、褐色の肌をした男が言った。
「バルガ王子……申し訳ございません。操られていたとは言え、わたくしたち7海将軍(シーフォース)が、女王陛下の命を奪ってしまうなどと……」
申し訳無さそうに、うなだれるガラ・ティア。
「悪いのは、オメーらじゃねえ。サタナトスとか言う野郎だ。この街をこんなにして、お袋の命まで奪った代償、キッチリ払わせてやるぜ」
バルガ王子と、その配下である海皇パーティーの5人のメンバーも、既にクーレマンスや双子司祭たちと合流していた。
「でもさあ、蒼い髪の勇者がまだ、海ん中だ」
「アイツ、魔王のねーちゃんの股裂いたりして、スゴいコトになってるからなァ」
「近づくのも、危険だとおもうぞ」
ヤホッカ、ミオッカ、イナッカの獣人3人娘が、ジェネティキャリパーの魔力で暴走した舞人の身を心配する。
「しゃ~ねえ、オレさまが行って来てやっか」
「クーレマンスの旦那。アンタ、泳げるのか?」
「イ、イヤ、それを言われると……なあ」
「因幡 舞人……か。アイツには、オレが行く」
「バルガ王子。相手は凶暴化しているとのコト。危険ではありませんか!?」
「心配すんな、ティルス。今のオレには、黄金剣『クリュー・サオル』もあるんだからよ」
お付きの女性の心配を振り切って、鮠(ハヤ)のような身のこなしで海へと飛び込む、バルガ王子。
「相変わらず、魚みてーな王子サマだな。ところでよ、この街もそろそろヤバいんじゃねえのか?」
「もう数時間は、持つハズだよ。おし、このコも甦生終わりィ」
「わたしたちが召喚したウンディーネが、海底神殿で頑張ってくれてるハズですからね」
スプラ・トゥリーの甦生に成功した双子司祭が、大男に向って言った。
「それでオメーら、直ぐに戻って来たのかよ」
「わたし達が到着した頃には、3体の魔王は黄金像になってたしね」
「ですが四大精霊のウンディーネでも、海の女王の替わりはできません」
「それじゃあ、この海底都市が海底遺跡になっちまうのも、時間の問題ってワケか」
「いいや、わたし達が海底神殿の深海の宝珠に入って、泡のドームを支えるよ」
「クーレマンス、しっかりと護衛をして下さい」
「わ~ったよ。なんだよ、その上から目線は。だがまあ、とりあえずこれで一件落着だな」
「なにが、一件落着なモノですか!!」
クーレマンスの胸元に、膨れ面のガラ・ティアがあった。
「アナタには、責任を取っていただかねばなりません!」
「せ、責任……って、何の?」
「モチロン、このわたくしに対する責任に、決まっておりますわ!」
「オメーに対する責任って、だから謝ったじゃねえか」
「謝って済む問題では、有りません。アナタ、独身ですか……」
頬を紅くしながらクーレマンスをギロリと睨む、紅玉の女将軍。
「ど、独身だが……それがどうした?」
「どうしたじゃ、ありません。わたくしはアナタから、あのような恥辱を受けた身。他の男の元に嫁ぐ術を、絶たれたのですよ……」
「ええっと……それってつまり……?」
「もう、まだ解らないの。女にここまで言わせておいて!」
「最後は、男が責任を持って言うべきです。さあ!」
「グハァ、そ、それって、まさかァ!?」
茹でダコのように真っ赤になった頭を抱え、のたうち周る大男。
「ガ、ガガ、ガラ・ティア。オオ、オレさまと……ケ、ケケ、ケッコンしてくれ!!!」
双子司祭たちから脅迫されながらもクーレマンスは、その台詞を言うのに10分の時を擁した。
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