暗黒の力の代償
「ヤバい……ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!?」
ジェネティキャリパーの暗黒の力を使って、2体の魔王を倒した舞人。
「ど、どうしたんだ、ボクは。壊したい、殺したい、引き裂いてやりたい……こんな感情……!!?」
その代償として彼は、とてつも無い破壊衝動に襲われていた。
「ギャアアアアァァ、やめてェーーーー!!」
女のコの悲鳴が、海に消えようとしている海底都市に響く。
「な、なんなのだ!?」
「今のって、魔王のイカみたいなねーちゃんの声だよな?」
「もしかして、蒼い髪の勇者がやったのか?」
舞人の指示で、建物の中に隠れていた、ヤホッカ、ミオッカ、イナッカの獣人3人娘。
互いに顔を見合わせ、警戒しながら舞人の臭いを辿る。
「と、とんでも無い血の匂いが、混じってるぞ!?」
「アイツ、禁断のヤバい力を使うって言ってたケド、だいじょうぶかな?」
「あ、あそこに居た!」
海水で水没しかかっている海龍亭の厨房で、蒼き髪の英雄を発見する3人。
けれども舞人は背を向け、キッチンシンクの向こうでバリバリと音を立てながら、何かをしている。
「あ、蒼い髪の勇者ァ……」
「な、なにしてんだ?」
「……うわあああァ!?」
3人が目撃したのは、股から真っ二つに咲かれた魔王スプラ・トゥリーの凄惨な肢体と、彼女の臓物を喰らう舞人の姿だった。
「ヒイィ!?」
「お前、どうしちゃったんだ!?」
「魔王相手だからって、いくらなんでもやり過ぎだぞ!」
舞人はやっと気付き、3人の方に血走った目を向ける。
その肌は黒く変色し、血まみれの口元からは牙が伸びていた。
「ヤバい力って、そこまでだったのか!?」
「いくらなんでも、ヤバ過ぎだよ!」
「そろそろ正気に、戻れって」
「離れて……今のボクに……近づいちゃダメだ……」
破壊衝動を抑え込もうと、必死に抗う舞人。
「か、顔色が悪いぞ」
「もう戦いは、終わったんだよな?」
「いい加減、元に戻れって……」
「うるさい! さっさと離れろと、言ってんだろうがッ!!」
普段なら発しない乱暴な言葉で吼えると、腹まで引き裂かれたスプラの肢体を、3人の獣人娘目掛けて投げつけた。
「うわあッ!!?」
「ガハッ!」
「ぐぬォ!?」
舞人は、できる限り力を絞ったつもりだったが、魔王の弾丸を喰らった獣人娘は派手に吹き飛ぶ。
建物の壁を破って、外の海水の中へと放り出された3人は、魔王スプラを抱えながら海面を目指した。
「ブハッ、ゼエ、ゼエ……溺れるかと思った!」
「で、でもアイツ、あのままでだいじょうぶなのか?」
「でも、アタシらにできるコトなんて……ん?」
必死の思いで海面へと出た3人は、まだ水没を免れていた市場へと続く道路に、巨漢とピンク色の髪の少女たちを発見する。
「おう、お前たち。無事だったのか」
「まあな、船酔いのオッチャン。そっちの戦いも、終わったのか?」
「船酔いのオッチャン言うな。オレは、クーレマンス……まあいい、さっき終わったトコだ」
3人が自ら上がって近づくと、クーレマンスの前に2人の妖精族の少女が居て、倒れた魔王に魔法をかけている。
「うわぁ、こっちも酷いコトになってんな」
「腹が破裂して、内臓が飛び出ちゃってる」
「白目剥いてるケド、コイツ生きてんのか?」
「もう死んじゃってたケド、今甦生させてるトコだよ」
「まったく……いくら魔王と言えど、相手は女性なのですよ。こんなデリカシーの欠片も無い倒し方をするなんて、信じられません!」
「そ、そんなに怒るなよ、リーフレア。かなりの強敵で、仕方無かったんだよォ」
「まあ結果的に、魔王にされた悪い部分がおおかた取り除かれちゃってるから、甦生してもサタナトスの手下には戻らないと思うケドね」
「マジか、リーセシル。そりゃあ、良かった。不幸中の幸いってヤツだな」
「良くありません。彼女……ガラ・ティアさんは、美を尊ぶ女性なんです。例え甦生できても、心に大きな傷を残すかも知れないんですよ!」
「わ、悪かったよ。反省してます。スミマセンでしたァ!!」
双子司祭の妹の剣幕に、大きな身体を小さく丸めるクーレマンス。
「フウ、なんとか甦生が間に合ったね。これで、魔王にされる前の姿になったよ」
「まだ多少の魔王の体組織は残ってますが、むしろ魔力が増すくらいの影響でしょう」
双子司祭の治癒と甦生の魔法によって、美しい身体を取り戻すガラ・ティア。
「腹が破裂して死んでたのに、甦生させちゃうなんてやっぱスゲエな」
「それじゃ、もう1人頼めるか?」
「こっちも、股を裂かれて大変なんだ」
3人の獣人娘は、双子司祭の前に魔王スプラ・トゥリーの身体を放り投げた。
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