ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第06章・38話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

アクロポリス

「でも、よろしかったのですか、艦長?」
 前を歩く、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダが言った。

 今日の彼女は、純白のドレス風ワンピースにピンク色のリボンで結んだストッキング、頭にはエナン帽と呼ばれる変った形の帽子を被っている。

「何がだい、クーリア」
「何がって……艦長の要求ですよ。『ハルモニア女学院の生徒たちを、元の自由な生活に還すコト』で、本当に良かったのですか」

「良かったもなにも、ボクの目的は最初からそれだったからね」
 ボクたちが歩いているのは、火星のオリュンポス山の麓に造られた街、アクロポリスだ。

 エベレストの約3倍の標高を持つこの山は、軍事基地、政治中枢、ハブ宇宙港など、さまざまな役割りを与えられており、人類の居住空間と言うのも、その役割りの1つである。

「ケッ、欲の無い艦長サマだぜ。オレならもっと、えげつない要求をしてるトコだがな」
 破れたジーンズに、ロックバンドTシャツ姿のプリズナーが言った。
この時代でも、ロックバンドは存在しているらしい。

「止しなさい。貴方なら、宇宙を統べるなんて言い出すんでしょうケド、それはそれで煩わしいコトよ」
 プリズナーの相棒である、トゥランが言った。
アーキテクターである彼女も、今日はお洒落な服を着こんでいる。

「それにしても、アーキテクター用の服もあるなんて驚いたよ。しかも、カジュアルだったり、ゴスロリチックなものだったり」

「アーキテクターは、自我を持っているんですもの。服だって興味があるし、好みがあるわ」
「今じゃ、人間の人口よりもアーキテクターの数の方が、多いって情報すらあるからな。当然、需要が豊富なら、供給のラインナップも増えるってワケさ」

 アクロポリスの街は、火口を中心に12の区画に別れ、それぞれの区画には黄道12星座の名前が割り当てられている。
ボクたちが居るのは、やぎ座(カプリコーン)区画だった。

「ですが、こうして街を楽しく散策できるのも、宇宙斗艦長のお陰ですね」
「街を行き交う人たちの視線が、少々気になるところではありますが」
「そう言えばみなさん、こっちばかりジロジロ見てますね?」

 セミラミスでの交渉以来、クーリアの護衛となった、シルヴィア、カミラ、フレイアの3人が言った。
彼女たちもそれぞれに、カジュアルな装いの服を着こなしている。

「仕方ないさ、フレイア。なんと言ってもボクたちは、火星の6個艦隊を壊滅させてしまった張本人だ。表立って攻撃はして来ないとは思うケド、快く思っていないのも事実だろうしね」

 地球のロンドンを思わせる、ヴィクトリアン建築や、ゴシック建築、バロック建築の建物が並んだ街。
色々な肌や髪の色をした人が、色々な服や髪型でお洒落を愉しみながら歩いている。
他にも、色々なタイプのアーキテクターが行き交い、街は活況を呈していた。

「ここが火星だなんて、天井の星が輝くドームを見上げなけらば到底思えないな」
「今や火星は、地球をも上回るスピードで発展していますからね。この区画だけでも、10億の人やアーキテクターが暮しているんですよ」

「10億って言ったら、ボクの時代の中国並みの人口じゃないか。それがあと、11個もあるのか?」
「ええ、宇宙斗艦長。街はそれぞれ、フランスのパリ風だったり、中国の北京風だったりしますね。艦長とはいずれ、全ての街を周ってみたいモノです」

 ピンク色のクワトロテールを風に舞わせながら、振り返るクーリア。
再建される火星艦隊のシンボルとしての役割りを負わされた少女は、少し寂しそうに微笑む。

「見て下さい、艦長。待ち合わせのアルゲディ広場に、既に到着しているようです」
 ボクは、クーリアやセノンたちを女学院に還せば、それでコトが収まるのだと思っていた。
けれどもそれが、正しいのかと言う疑問が心に生じる。

「ホントだ」
「セノンが、大きく手を振ってるよ」
「あ……転んだ!」

 クーリアのお付きの3人の少女たちが、言った。
彼女たちの視線の先にある大きな広場には、セノンや真央たちが居た。

「大丈夫かい、セノン」
 ボクは、転んで尻もちを付いた少女に、手を差し出す。

「エヘヘ、おじいちゃん。アリガトなのですゥ」
 童顔の栗毛の少女は、屈託のない笑顔を見せてボクの手を取った。

 前へ   目次   次へ