曖経大名興高校のグランド
「しっかし倉崎さん、車椅子に乗らなきゃ行けないって、そんなに酷いケガなのかよ?」
「も、もしや、靭帯をやってしまわれたでありますか!?」
紅華さんと杜都さんが、皆を代表するかのようにケガの状態を聞く。
「イヤ、幸いなコトに靭帯は無事だったよ。だが、骨にヒビが入ってな。残念ではあるが、しばらくはチームに合流できないだろう」
ギブスと包帯で、しっかりと固定された右脚を摩る倉崎さん。
「そうだよな、今年の新人王は絶対に倉崎さんだと思ってたのに……悔しいぜ!」
「まさか、オレらがフットサル大会で対戦した死神が、プロ入りして倉崎さんにケガを負わすとはな」
「あの大会、恐らくクラウド東京のスカウトか、チーム関係者でも来ていたのだろう」
「正解ね、雪峰。ワタシが何人か、呼んで置いたよ」
「か、監督がですか!?」
「そう言やセルディオス監督は、最初から死神に注目してたよな?」
「まあね。才能ある若い選手、できるだけ高いステージの試合、立たせたいね。美堂は家庭に色々トラブルあって、辛い人生を歩んできたのよ」
「お陰でオレらは、完全なる噛ませ犬にされちまったケドな」
「そうだな、紅華。あの試合、オレたちは死神に後半だけで、10点も献上してしまった」
「自分の力の無さを、痛感したであります!」
「黒狼たるオレさまも、なにも出来なかったし……」
「お前、オオカミやのうて、ただの駄犬やんけ」
「なんだとォ、1回戦で負けたクセにィ!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。それより今からバスに乗って、相手の学校のホームグランドに向かいます。準備してくださ~い」
学校の制服姿の千鳥さんが、保育士みたいに黒浪さんと金刺さんをなだめなる。
「海馬、最高の見せ場よ。頼むね」
セルディオス監督が、バスの運転手に向って言った。
「なんでそうなるんスか、まったく……オラ、みんな乗れよ。乗り遅れたヤツは、置いてくかんな」
海馬コーチの大きな声で、一斉にマイクロバスへと駆け込むデッドエンド・ボーイズ。
バスは、春の風の中を軽快に走り出した。
桜もピンク色の花びらは既に落ち、深緑の若葉が芽吹き始めている。
「今日の練習試合の相手は、曖経大名興高校サッカー部だ。ちなみに一馬の母校でもある」
最前列に座った雪峰キャプテンが、チームメイトに向って言った。
「それは少々、おかしくありませんか。彼は自分の学校から、歩いて練習場まで来ているのでしょう?」
「わざわざバスで移動する距離では、無いでありますな」
柴芭さんと杜都さんが、ボクを見ながら意義を唱える。
「曖経大名興高校は、名古屋市内の真っただ中にあってな。敷地内にグランドは無く、かなり離れた場所に大きなグランドを持っているんだ」
「へェ、そうなのか。曖経大名興高校って言や、スポーツの名門校だから当然か」
「ねえトミン。確か野球が強い学校だよね」
「プロの野球選手も、何人か居るんじゃ無かった?」
「お前ら、ケッコー詳しいな。アメリカに行って活躍してる、大物も居るくらいだ」
最後列のど真ん中に陣取って、左右に女子高生たちをはべらす紅華さん。
「ピンク頭の野郎、どんだけハーレムしてやがんだ。こっちの隣は、イソギンチャクだってのによォ。ああ、オレさまも、千鳥さんの横に座りたかったぜ」
黒浪さんの視線の先に座る千鳥さんの隣には、大量のカメラ機材が積まれてあった。
「野球の球場も、併設してあるらしい。寮なども、完備されてるそうだ」
「なんだかウチ、ただの学校に完全に負けてますよね、倉崎さん」
「そ、それを言うな、紅華。これからだ、これから……」
バスは名古屋市街を後にし、隣の市へと入る。
周りは次第に田園風景となり、遠くに山々も見える。
「やっと着いたぜ。まさか、30分もバスに揺られるとはよ」
「こない田舎なら、土地代も安いんちゃうか?」
敷地内の坂を降った先の駐車場で、ボクたちはバスを降りた。
「ゲゲッ、またガラの悪そうなヤツらが、ゾロゾロと歩いて来やがったぜ」
グランド隣の木陰で、ユニホームに着替える紅華さんが驚いてる。
でもアレ、うちの学校の先輩なんだよね。
岡田先輩を先頭に、曖経大名興高校サッカー部が、気怠そうにこちらに向って歩いて来ていた。
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