ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第03章・18話

艦長の役割り

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「この艦に強制連行されてから、ロボットアニメの世界に迷い込んだみたいな気でいたケド、これは本格的にロマンだな?」

 格納庫のハンガーには、相当数の宇宙艇が備わっていたし、よく見ると種類も豊富だった。
「そういえば、お前たちのマニプュレート・プレイシィンガーは見当たらないなあ?」
 それは、六十人の娘たちが脳波コントロールで操る、『オモチャ』だった。

「アレは、もっと先の方だよ」「このコたちは、全部無人機ね」
「これが無人機……自ら意志を持って、勝手に戦うのか?」

『正確には、相互リンクによって一つの軍となって、戦闘を行うのです。イワシなど、魚の群れの行動パターンに近い感覚ですね』
 ボクの質問に答えるベル。

「電子戦ってヤツか? 二十一世紀でも、初歩的なのはあったケドな。でも、戦力があるってコトは、この艦は戦艦か空母でもあるのか?」
『二十一世紀の概念で言えば、戦艦クラスの火力を備えた空母……でしょうか?』

「そうなると、ベル。この艦は、何と戦っているんだ?」
 ボクは、一番重要な質問をやっとこの時、初めてした。

『敵……ですか。それは我々を、敵と認識する者たちになるでしょう』
 ベルダンディからは、抽象的な答えしか返ってこなかった。

「まさかとは思うが、誰を敵にするかも、艦長であるボクが決めろとか言うんじゃないだろうな?」
『それが艦長の役割だと、認識します』
「オイオイ。それは、後だしジャンケンじゃないのか?」

『残念ですが、群雲 宇宙斗さまは、すでに艦長の職務に就くコトを了承されました』
「確かにそうだケド……ボクが艦長になる以前に、敵を作っているじゃないか?」
 ボクたちは、格納庫の通路を進みながら会話を継続する。

「千年も前に、身寄りは死んでしまっているボクはともかく、キミたちはハルモニア女学院の生徒を何人も拉致した。とくにクーヴァルヴァリアなんて、カルデシア財団のご令嬢なんだろ?」
 ボクはプリズナーたちのコトなど、すでにバレていると思いつつも、話題にするのを避けた。

『確かにカルデシア財団は、元は巨大な財閥であり、かなりの影響力を有しております。財団自体が有している戦闘力は微々たるものですが、巨大な軍事企業を動かせる財力を持ってます』
 ベルは、まったく他人事のように言ってのける。

「そのご令嬢を拉致ったのは、キミたちだろう? 連れ去るなら、ボクだけの方が合理的だったんじゃないか?」
 ボクは、セノンや真央たちの安否も気になった。

『この艦の存在は、宇宙斗さまの手にこの艦が渡るまでは、極秘にして置きたかったのです。それが、時の魔女様のご命令でした』
 ベルは尚も、説明を続ける。

『木星圏に入ったのも、この宙域には人類の手が、火星圏ほど届いてはいないからなのです』
「千年も経っているのに、そんなモノなのか?」
『もちろん、四大衛星には水素やヘリウムなどの採掘基地は存在します。ですが……』

 歩みを進めたボクたちの頭上が透明なパネルへと変わり、巨大なガス惑星が姿を現す。
「木星の巨大重力、放射能、気温……人類が常駐するには厳しい環境なんだな」

『無人機の遠隔操作と、AIによって意思を持ったアーキテクターたちによって建設された基地も、巨大重力による衛生自体の歪みや、大量に降り注ぐ放射能の影響で、機能不全に陥ったプラントも少なくありません』

「スペースオペラや、ロボットアニメほど簡単に、木星という巨大惑星は支配できないのか?」
『いいえ。あえて環境の悪い場所に住むまでも無く、人類にはまだハビタブルゾーンに居住できる環境が、いくらでも空いていますからね』

 太陽系に置けるハビタブルゾーンとは、水が液体でいられるエリアを指す。
摂氏100度を超えれば水は蒸発して気体となり、0度を下回れば氷となってしまう。

「なる程な。原因はむしろそこか。二十一世紀であっても、海底何千メートルの場所に到達できたとしても、そんな場所に住む人間は皆無だったからな」

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第17話

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正義の剣

 ボクは、弱気になっていた。

「さて……どうしたものか」
 ボクの生徒たちは、ボクをアポイントメンターとしてしか認めてないのだ。
彼女たちは、完璧なユークリッド動画での授業を望み、ボクの稚拙な授業など必要としていない。

「ボクは……ボクの授業をする。これはボクのエゴに他ならない。さて、こんなボクをキミたちはどう思う?」
 ボクは、生徒たちに問いかけた。


「甚(はなは)だ、迷惑に他なりません」
 予想していた通り、最初にボクに正義の剣先を向けたのは、新兎 礼唖だった。

「確かに昔の先生は、自分の授業がいくら出来が悪くとも、それをエゴイスティックに進めるコトができました。他に選択肢と言えば、塾くらいのものだったハズ。ですが、世界は変わったのです」

「だがな、ライア。先生の役割って、本当に見る動画の指示だけだと思うか?」
「いいえ、思いません。むしろ、その役割すら必要ありません。今は、教育委員会に気を使って、残されてるに過ぎませんから」

「いずれAIに、取って変わられる……か?」
「いいえ、今すぐにでも変えれると言っているのですよ」
 ライアの意見は、常に正しかった。

「なあ、さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いやがって!」
 声を荒げたのは、王洲 玲遠だった。
「ウチの親父は、お前が言うしがない教師さ。教民法であっさり無職になりやがったがよ」

「それは、お気の毒に。ですが、無能が淘汰されるのが、資本主義社会です」
 ライアは、冷たい視線をレノンに向ける。

「ああ、淘汰されたよ。元々、性格に難アリの欠点も多い親父だったからな。でも、教師をやってた頃はまだ、ウザイくらいに自信に溢れていた。それが、教師をクビになった途端、家族に暴力を振るいまくる、ビクついた親父に変貌したんだ!」

「それが、なにか? 教師に限らず、どの会社であろうと無能な社員は、リストラの対象になるハズです。教師も、教民法によって公務員ではなくなり、リストラが可能となったに過ぎません」

「簡単に言うけどさ。ウチの親父がリストラされて、ウチの家族全員が悲惨な目に遭ったんだ。なんで、そんな簡単なコトも解らないんだ。お前も、世間の大人どももよ!」
 声を荒げる、レノン。

「リストラされれば、さっさと次の職を見つけるべきでしょう? むしろ、教民法以前の、国家公務員として守られていた頃の方が、異常なのです。新米教師や老害教師の劣った授業によって、未来を閉ざされる生徒がいたのは、どうお考えですか、先生?」

 ライアは質問に対する答えを、ボクに求めた。
「そうだな……正義ってのは、それぞれにある。例えば教民法一つで、日本の常識は百八十度変わってしまったんだ、ライア」

「ですから現行の法律上では、教師は公務員ではなくなり、リストラの対象になり得るのです」
「それは、法律だけで判断しているに過ぎない。実際に、レノンやレノンの家族のように、教師をリストラされて苦しんでる人間は大勢いる。それが、正義か?」

「日本は法治国家なのですよ? 法が正義でなくて、何が正義だと言うのです!」
「法は、人々が互いのいざこざを、治めるためにあるに過ぎない。それ自体が正義だというコトは、無いんだ。もし法に対し、何の疑問も持たなくなったら、それは独善に他ならない」

「法が……独善ですって!?」
 新兎 礼唖の顔が、怒りに満ちて行く。
宝石に彩られた、美しいピンク色の髪とは不釣り合いの表情だった。

「法律も、規則も、ドローンや核なんかの技術も、それ自体に善悪は無いとボクは思ってる。善にも悪にもしてしまうのは、人間なんだ」
 ボクの生徒たちは、ボクの意見を黙って聞いてた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第6章・5話

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皇女と後見人

 出立の前に、レーマリア皇女は、王であり曽祖父でもある老人に対し、王都を立つ報告をした。

「……フラーニア共和国の方々、それに……カーデリア。どうか、我が不肖の曾孫娘を護ってやって……下され。それから、お前には……これを……」
 王は病によってり震える手で、一振りの刀をレーマリアに手渡す。

 それは、ヤホーネスの王権の象徴であり、絶対的な権力の象徴でもある『刀』だった。
「ワシはもう……永くは持たんじゃろうて。プリムラーナ将軍……どうか、これの後見人となっては……下さらぬか?」

「御意、わたくしの祖国と自由の名にかけて……」
 女将軍は、静かに頷いた。
王は安心したのか疲労で眠ってしまい、一同は王の間を出る。

「それでは、出立致しましょう。砂漠で傷付いた魔王を乗せる牛車も、用意させました」
 神澤・フォルス・レーマリア皇女が、後見人となったプリムラーナに視線を送る。
プリムラーナが城の窓から城下を眺めると、城門の前で巨大な牛車が控えていた。

「皇女様には、危険なイティ・ゴーダ砂漠を迂回するルートを進んでいただきます。魔王の回収は、我が部下二人に当たらせましょう」
「ですが……フラーニアの方々に、これ以上ご迷惑をおかけするワケには……」

「わたしは、貴女様の後見人を仰せつかったばかり。危険にさらすような真似はできません」
「わ、わかりましたわ。宜しくお願いいたします」
 レーマリアは、麗しき女将軍・プリムラーナに、深々を頭を下げる。

「わたしと、カーデリア殿、アーメリアとジャーンティで、皇女殿下の乗った馬車を護衛する。ジーンベルとルールイズは、魔王の回収を任せる!」

 皇女レーマリアの乗った馬車は、プリムラーナ自身とカーデリア、それにアーメリアとジャーンティの護衛の下、ニャ・ヤーゴへと向かう。

「それにしても、砂漠で魔王の回収とは……」「牛さん、足遅いのです~!」
 別働の魔王回収部隊として、プリムラーナと共に来た『ジャーニア・ジーンべル』と、『ルールイズ・フェブリシアス』が、牛車隊を率いることとなった。

 その頃、ニャ・ヤーゴでは久しぶりに『因幡 舞人武器屋』が店を出していた。

「さあさ、みなさま寄ってくモ~ン♪」「色んな武器が、なんと通常の二割引だモン!」
「今ならなんと、こちらの石鹸もつけちゃうモ~ン!」「出血大サービスだモ~ン♪」
 店は『元・富の魔王』である、レモン色のショートヘアの四人によって客が呼び込まれる。

「こっちは、大きな剣だモン!」「ナマクラだケド、今なら砥石をつけるモン♪」
「現在、ポイント二倍キャンペーンだモン!」「買わないと、後悔するモン!」
 サーモンピンク色の、ミディアムヘアの少女たちも、頑張って商品を売りさばいている。

「な……なんか、スゲーな、お前たち。いわく付きの商品が飛ぶように売れてるぞ!?」
 舞人は、見た目が十歳くらいにしか見えない少女たちの、販売能力に驚く。

「当たり前だモン!」「商売の基本は、お客様に満足してもらうコトだモン」
「欠陥品はまだ、直す手段といっしょに売れるモン」
「でも、呪われた装備は闇の者にしか売れないのが、厳しいトコだモン?」

 八つに別れた富の魔王のうち、レモン色のショートヘアの、アイーナ、アキーナ、アミーナ、アリーナが言った。

「でも、殆どは借り入れして買った、真っ当な商品だモン」
「お金を借りて、ちゃんとした商品を仕入れて売ってるモン」
 サーモンピンクのミディアムヘアの、マイーナとマキーナが言った。

 舞人の隣で、漆黒の髪の少女が心配そうな表情を浮かべる。
「お前たち……借金などして、本当に大丈夫なのかえ?」

「ご主人サマ……借金じゃなくて、借り入れって言って欲し~モン!」
「それに、もう元は取ってるから、あとはジャンジャン稼ぐだけだモン♪ これが帳簿だモン」
 マミーナとマリーナが、帳簿を差し出す。

 帳簿を見せられても、チンプンカンプンな舞人とルーシェリアは、武器屋の屋台を八つ子たちに任せて、宣伝用のビラを撒く作業に移った。

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第十話

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連携と信頼

 千乃 玉忌は、体育館に戻っていた。

「まったく……どこへ行っていたのだ? 会議は著しく劣勢だぞ! 今のままでは、来客の大半が部の存続を認めてしまうでは無いか!」
 醍醐寺 草庵は、突然後ろに現れた女に苛立ちをぶつける。

「別に……認めてしまって良いのではありませんか?」
 千乃 玉忌は、平然と言い放った。

「なにィッ!?」
 男は女の言葉に耳を疑い、振り返ったが、直ぐに次の舞台が始まってしまう。

「さあ、次は『チャイナ服少女・復権友の会』だあ!!」
「本日のお茶請けのお饅頭も、メインで作ってくれたのは、メイド流剣道部と彼女たちなんです!」
 橋元 蒔雄と、醍醐寺 沙耶歌の広げた手の先に、チャイナ服姿の五人の少女が現れる。

「ニイ・ハオ♪ 今日は、チャイナ服の魅力を伝えるために、とびっきりの料理を用意したアルよ! 中華料理は衣食同源、食べればお腹も満腹、お肌もすっべすべアル~♪」
 一条 明美は仲間の四人の少女と共に、功夫のポーズを交えながら料理を始めた。

「フォァチャ~~♪ 残念ながら、火力の高い業務用コンロの使用許可は降りなかったので、蒸し料理で行くアル!」
 積まれた蒸篭から中華まんを取り出し、会場に配るチャイナ服の少女たち。 

 けれども滞りなく進行する舞台を、不安そうに見つめる者達がいた。
「まったく、絹絵も渡辺先パイも、どこ行っちゃったの?」
「いくら順番が最後って言っても、もうすぐ出番なのに!!」

 浅間 楓卯歌と、浅間 穂埜歌の双子姉妹だ。
「早く二人得を、呼び戻さないと……」
「でも、茶道部は今、新人のわたし達二人の他には誰もいない……ん?」

 何かに気付き、顔を見合わせる双子姉妹。
「アーーーーーーーーッ!!」
「もう一人、ダメなのが居たーーーーッ!?」

 二人の少女は、茶道部にはもう一人、橋元生徒会長が所属していることを思い出す。
舞台袖から橋元を呼び出す、楓卯歌と穂埜歌。

「……なにィ!? シルキーが居なくなって、それを探しに出た渡辺まで戻って来て無いって?」
「そうなの橋元!」「どうしよう、橋元!」
「……つか、なんで渡辺は『渡辺先パイ』で、生徒会長のオレは呼び捨てなんだ?」

「今はそれどころじゃ無い!!」「どうすればいい!?」
「あ……ああ、とりあえず時間を引き伸ばすから、お前らはその辺を探して来てくれ!」
「もしかしたら、学校の外に出てるかも知れないわ。外に出るなら、車には気を付けてね」

 醍醐寺 沙耶歌も悪い予感でもしたのか、心配そうな表情を浮かべる。
「わ、わかった、姉さま! 行こ、ホノ!」「うん、フウ!」
浅間 楓卯歌と穂埜歌の二人は、体育館の外へと駆け出して行った。

「何やら、問題が発生したのではありませんか?」
 それを見たメイド服姿の少女が、生徒会の会長と副会長に問いかける。

「涼香さん、実は絹絵ちゃんと渡辺くんが、居なくなって……」
「それで今、生意気な双子に探しに出てもらったんだ」
「そ、そうでしたか」表情を曇らせる、御子神 涼香。

「渡辺様は、今回の大茶会の主役と言っていいお方です。茶道部のバックアップは、わたくし達、『メイド流剣道部』にお任せください」
「助かるぜ。それじゃ舞台のアイツらにも、引き延ばせって伝えないとな」

 橋元は、料理アシスタントを装って、一条 明美のうしろに回り、耳打ちする。
「時間の引き延ばし、引き受けたアル♪ 今回のとっておきだったけど未完成で断念した、フカヒレ風お好み焼き……行くアルよ。フォアタァ~ッ!!」

 オワコン棟の、極者部のメンバーは、互いに連携して弱点を補い合うまでになっていた。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第16話

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消え行く職業

 ボクは教壇に立ち、教科書を開き授業を開始する。

「ねえ、先生。はやくどの動画を見るか、指示してよ」
 レノンが言った。

「今日は、何の教科の授業をするのですか?」
 ライアもボクに、質問する。

 教壇の前に並べられた机には、タブレット端末が置かれ、ボクの生徒の少女たちの耳には、イヤフォンがはめられていた。

「そうなるよな。キミたちにとて、学校ってのは動画を見て授業を受ける場所。先生ってのは、どの動画を見るか指示するだけの存在なんだから」

「何を当たり前のコトを、言っているのです」 
「まさか昔の時代みたいに、先生が授業するってのかよ?」

「そのつもりだ、ライア、レノン。ボクの授業は、ボクが授業を行う。動画はできる限り、使わない方向で行こうと思うんだ」
 すると小さな教室に、ざわめきが広がった。

「先生は、動画よりも完璧な授業が、できると仰るのですか?」
「流石にユークリッドの動画ほど、完璧には行かないだろうな、ライア」

「だったら、動画を見て授業を行った方が、効率的です」
 ピンク色の髪を宝石で飾った少女は、ピシャリと言った。

「効率って言うんなら確かにそうかもな。でも、たまには人生、寄り道をするのも大切だと思うんだ。学校ってのは、なにも勉強だけするところじゃないぞ」

「教民法に反対していた、古い時代の教師が言っていた台詞ですね」
 新兎 礼唖(あらと らいあ)は、正義の論理を振りかざす。

「学校は友達を作る場、先生はその為に必要……ですが授業中に先生と交流して、何の意味があるのです。自分の教科すら、ちゃんと教えるスキルも無いゴミに?」
「それは、先生によりけりだろう。ライア」

「その台詞が許されるのは、わたしたちが先生を選べる場合に限ってです。教えるスキルの低い先生に当たった場合、強制的に一年間スキルの低い先生の元で、授業をする羽目になるのですよ?」

「確かに、ライアの言う通りだぜ。一人の先生が教えるのが下手なせいで、クラスの生徒全員が苦労するんだぜ? それはねーわ」
 ライオンのような、金髪少女が言った。

「まあ、現役の生徒目線じゃ、そうなのかもな。だけど先生って存在が、必要な場合もあるだろう?」
 ボクは、ユークリッドによる動画教育を受けてきた生徒たちに、聞いてみた。


「え、自意識過剰じゃね?」「いらない……かな?」
 否定的な意見を述べる、レノンとアリス。

「大体、放課になったらさっさと職員室に引き籠る教師に、なんの価値があるというのです?」
 ライアの言葉は論理的で、正確に過去の教育の弱点を突いていた。

「ライアやキミたちの世代だと、小学校くらいまでは昔の教育だった?」
「そうです。それが小学校までで終了して、心の底から良かったと思ってます」
 すると、他の生徒が声を上げる。

「確かに昔なら、先生は必要であったと思います。ですが今はネット環境や、動画を再生する環境が整ってます。インフラが整った時代に、大した能力も無い先生に、あえて授業をさせる必要は無いと思います」

 八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)が、言った。
彼女は、白い肌にアイボリー色のショートヘアをしている。

「国語や英語ら5教科を中心に、小学校から大学4年までの授業を、ユークリッドの優秀な講師が、解りやすく教えてくれる動画があるんです。どうして無能な先生の授業を、受ける必要があるのですか?」

 彼女の言葉に、時代の変遷を感じずには居られなかった。
かつて、車の登場で馬車の御者たちが職を失ったように、自動改札の登場で駅の改札から捥ぎりの駅員が消えたように……。

「教師なんて職業も……消え行く職業なのかも知れないな……」

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・17話

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世界を分ける権利

『宇宙斗艦長……時の魔女様が、この船に与えた名前はマルチバースシップです』
 カプセルの中の誰が投影した、フォログラムであるベルダンディが言った。

「マルチバース……多次元宇宙論ってコトだろ? それが名前って、ずいぶんと合理的っていうか、なんというか……」
 ボクはそう思いつつも、『時澤 黒乃』であれば、そう付けそうな気もした。

『あくまで舟の概念として、お付けになったのだと思われます』
「戦艦とか空母みたいな、カテゴリー的感覚か? それじゃボクが、艦名を付けても問題無さそうだ」
 ……かと言って、直ぐに良いアイデアが浮かぶものでも無い。

「そ、そうだな。もう少し、この艦について教えてくれないか?」
『はい。何なりと、ご質問下さい』
 ベルは、柔らかい声で答えた。

「それじゃあ、このマルチバースシップのスペックは?」
『全長は、二千二百メートル、全幅八百九十メートル、艦底から艦橋最上部までの高さが四百三十メートルになります』

「大きさは、艦の中に街があるくらいだから解かるケド、いまいちピンと来ないな」
『では、艦の中を案内いたしましょうか?』
「え? 案内、してくれるの?」『はい、ご要望とあらば』

 ベルのその台詞を聞いて、彼女たちが本当にボクを艦長として、迎えようとしているのかも知れないと思った。
『では、参りましょう。貴女たちも、付いてきますか?』

「うん!」「行く行くゥ!」「パパ、案内してあげるね?」
 ボクは、六十人もの娘たちを周りに纏わり付かせがら、エレベーターへと向かった。

「ところでこの船は、マルチバースシップってコトだけど、ま、まさか他の宇宙に行けちゃうとか?」
『理論上は可能なハズですが、残念ながらそれを行うには膨大なエネルギーが必要となります』
「でも、異世界は存在するのか?」

『宇宙斗様は、平行世界をどう思われますか?』
「唐突な質問だな? そうだなあ、分岐によって分かれる世界じゃなきゃ、あると思ってるよ?」
『……と、仰いますと?』エレベーターに乗る、フォログラムのベルが問い返す。

「よくある、『ある人間が生きてる世界と、死んでる世界』……みたいなヤツさ」
 それは、二十一世紀の漫画やアニメではありふれていた。

「他は何もかも同じでも、ヒロインの女の子が生きてる世界と、死んでる世界……みたいな分かれ方は、しないと思うんだ」
『なぜ、そう思われるのですか?』

「だって、どうして人間にだけ、世界を分ける権利があるんだ? 例えば、ゴキブリ一匹が生きている世界と、死んでいる世界でも平行世界は成り立つハズだろ?」
 エレベーターは、とっくに止まっていた。

「もっと言えば、ミジンコ一匹が、生きてる世界と死んでる世界……生物に限らず、広大な宇宙の中の、たった一個の水素の電子の起動が、わずか一秒だけずれたか、ずれないかでも、平行宇宙は生まれてしまう」

『つまり、一つの粗粒子の違いで平行世界が生まれるのであれば、宇宙にある全ての粒子の動き×宇宙にある全ての素粒子の動きで、平行世界が発生してしまう……と』


「さらに時間軸や、粒子の細かい角度も計算に入れると、とんでもない量の平行世界が発生してしまうからね。それは無いと思うんだ」

『なる程、論理的で解りやすい解釈です』
「はあ?」「パパがなに言ってるのか、ぜんぜん解んないよ!?」
 ボクの言葉一つでも、小さなパラレルワールドが発生した様だ。

「そんなコトより」「こっちこっちィ」
「うわ、引っ張るな!?」娘たちは、ボクの手を引いて駆け出す。

「こ、ここは、兵器の格納庫!!?」
 辺りには、巨大な兵器やら、宇宙艇やら、人型兵器やらがデッキに並んでいた。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第15話

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天空教室

 瀬堂 癒魅亜は、マンションの自室の玄関に向かって歩き出す。

「一応言っておくケド、自分の生活力を考えて行動した方がいいと思うぞ、ユミア」
 ボクは、一人じゃロクにタクシーや電車にさえ乗れない女子高生に、忠告してみた。

「余計なお世話です、先生。一人で部屋を借りるコトくらい……」
「できるのか? 敷金や礼金ってどうするんだ? 保証人は誰が?」
「う、うるさい! そんなの、お金さえあれば……」

「まあ、敷金や礼金無しなアパートもあるからな。保証人もキミの場合、いらないかも知れない。さすがに、銀行のATMの使い方が解らないなんてコトは……」
 そう言った途端、瀬堂 癒魅亜は、玄関から戻ってきた。

「おいおい、マジかよ? お前どんだけ、お姫様なんだ!?」
 レノンがドン引きしている。
「うっさい! そ、そんなの、一度やれば覚えるわよ……偉そうに!」

「『うるさい』……というのは、否定ではなく肯定だというのはご存じかしら?」
 ピンク色の髪を宝石で飾った少女が、指摘する。
「『その通りだケド、そのコトには触れるな』……というのが、うるさいの意味」

 彼女は名を、新斗 礼啞(あらと らいあ)と言った。
「つまり、うるさいとは無意識の肯定なのです。おわかりいただけたかしら?」

「エーエー。丁寧な高説、十分に理解させていただきましたわ」
 必要以上に丁寧な言葉で返す、ユミア。

「やれやれ、随分と個性的なコたちが集まったな」
 憧れの熱血教師の苦労も、少しは理解できた気がした。

「それで先生は、この問題をどう解決するのですか?」
 新斗 礼啞が、問いかけてきた。

「そうだなあ、ライア。まずは授業をしてみよう。お互いにどんな性格かも解らないんじゃ、問題の解決はできそうにないからね」
 ボクは、ユミアをチラリと見た。

「社長が教室として用意したのは、スタジオの反対側のドアよ。元々は機材置き場だったんだケド、それは業者を手配して搬送して置いたわ」

「ユミア、お前……家を離れないでできるコトは、そこまでやれるんだな」
 思わず、関心してしまうボク。

「うるさ……まあ、いいわ。それより、あなたの教室よ。見てみたら?」
「そうだな。ボクの教室ってのは、どんなだ?」
 ドアノブにかける手が、僅かに緊張していた。

「これがボクの……教室!?」
 そこは超高層タワーマンションの最上階であり、巨大な窓の眼下には、セレブなマンションが規律正しく並んでいる。

「超高層マンションのてっぺんの教室……差し詰め、『天空教室』だな」
 ボクの口が、窓の向こうの景色を見ながら、勝手に呟く。

「なんだよ、先生。そのダセー、ネーミングセンスは!?」
「う……うるさいなあ、レノン……あ、これも肯定か?」
「そうなりますね、先生」「ウフフ、先生おもしろ~い」

 ボクの生徒は、あっさりボクを、先生と呼んでくれた。

「それにしてもスゲェぜ。セレブにもほどがあんだろ!?」「こ、こんな教室、見たコトないよ!」
 窓の反対側には、白板やデジタルディスプレイが置かれ、床は白と黒の大理石のパネルが交互に並べられていた。

「教壇も、机も、見たコト無いくらいお洒落っていうか、デザインが半端無いっていうか?」
「ど、どうかしら? 気に入って貰えたかしら?」
 ユミアは何故か、それを気にしている様子だった。

「こ、この教団や机や椅子を選んだのって……キミなのか?」
「ええ。ネットの通販で、デザイナーズブランドのモノを、注文しておいたのよ」
 ソッポを向き、顔を赤らめるユミア。

「ありがとう、ユミア。キミはボクや、顔も知らないクラスメイトのために選んでくれていたんだね」
「か、勘違いしないでよ。別に、そんなんじゃ……」

「照れるなよ、ユミア。今日からアタシら、クラスメイトだからな」
「クラス……メイト。そ、そうね……」
 レノンの言葉に、微かにほほ笑む瀬堂 癒魅亜。

「それじゃあ、さっそく授業を始めよう!」
 ボクは、久慈樹 瑞葉社長から突き付けられた難題も、彼女たちが居ればなんとかなると思った。

 

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