ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

萌え茶道部の文貴くん。第六章・第九話

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交通事故

 渡辺が絹絵を探し回っていた頃、絹絵は血まみれで地面に臥していた。

「ククククク……小狸如きに、正体を見せる羽目になるとはのォ? 誉めてつかわすぞェ」
 玉忌は、巨大な狐の姿で眼下の絹絵を見降す。

「……む、無念ッス。ごめん……なさい……ご主人サマ。絹絵は、約束を……」
 絹絵は既に、虫の息だった。

 巨大な姿を現した狐は、全身を青白い炎に包み、七本の尾は天に渦を巻くように伸びる。
「さて、どうしたものかえ? このまま妾が炎で焼き殺してくれようか……それとも……?」

「絹絵ちゃん、どこに行ったんだ!? 返事をしてくれぇー!」
 現実世界で、絹絵を探し走り回る少年。

 狐の耳にも、現実の眼鏡の少年の声が飛び込んできた。
「クク……先ほどの小僧かえ? お前のコトを、捜し周っておるようじゃのォ?」

「……ごっ、ご主人サマ! ご主人サマに……なにを!? ゴホッ、ゴホ!!」
 口から血を吐き、立ち上がることさえままならない絹絵。

「お前は放っておいても、直に死ぬ。じゃが妾は……慈悲深い故のぉ?」
 狐は細く吊り上がった目を、更に吊り上げた。
「最期に、あの小僧が死ぬさまを、お前に見せてやろうと言うのじゃ……」

「なっ!? ……やめる……ッス!?」
 絹絵は、必死に体を動かそうとしたが、言うことを利かない。

「クク……まあそこで大人しく見ておれ。事故に見せかける必要があるで……のォ」
 千乃 玉忌は、その巨大な白い身体をクルリと曲げ、天を駆け始める。

「絹絵ちゃん! どこだ絹絵ちゃ~ん!?」
 絹絵を探す渡辺は、学校の敷地の外にまで捜索範囲を広げていた。
横断歩道を渡ろうとする渡辺の前に、一台のトラックが迫って来る。

「ご……ご主人……サマ!? 逃げ……て……!!」
 運転手はブレーキを踏み、トラックは渡辺の前で停止する筈だった。

「クククク……その重そうな荷を、妾が押してやろうぞ!」
 真っ白な狐は、トラックの荷台に体当りをする。
 バランスを失ったトラックは、横断歩道の横の電柱を薙ぎ倒した。

「ウワアアアあぁぁぁあぁあーーーーーーッ!!?」
 電柱は、渡辺の頭上に向って一直線に倒れ、辺り一帯に轟音が轟く。

 トラックはそのまま、街路樹に突っこんでやっと停止した。
しばらくすると、倒れた電柱の下から大量の血が滲む。

「ご主人サマアアァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
 絹絵の悲痛な叫びも、狐の耳には心地よく響き渡った。

「さて……妾もそろそろ、あの男の元に行ってやらねばのォ?」
 幽世の世界の狐は、絶望する絹絵をあざ笑いながら、その姿を変える。
「あの男、自らが最も無能であることに気付きもせん……利用価値の有る人間じゃ」

 狐は、醍醐寺 草庵の経営コンサルトである、千乃 玉忌の姿に戻る。
「既に彼奴の会社……醍醐寺の株式は、四十八パーセントが妾のモノ……彼奴を憎む重役どもがから、合法的に買ったモノじゃ……」

 千乃 玉忌は、現実世界へ戻ると、瀕死の絹絵を置いて草庵の元へと戻って行った。

「……ご、ごめん……なしゃ……い!!? アチシは結局……ご主人サマを……死なせて……」
 絹絵は薄れ行く意識のなかでも、大粒の涙を流し続けた。

 気を失った彼女は、やがて光に包まれる。
光が消えると、一匹の狸と、割れた『淡い翡翠色の茶碗』が草むらに現れる。

 瀕死の狸は、一人の医者によってその場から連れ去られ、茶碗の欠片だけがその場に残された。
(茶碗の欠片は、やがて二人を探しに出た双子姉妹によって、発見されるコトとなる)

 電柱の倒壊した現場には、人だかりが出来ていて、焦燥し切った表情のトラックの運転手がスマートフォンを使って、警察や消防に連絡を取っている。

 だが、この時点では事故の情報は学校には伝わらず、皮肉にも大茶会は順調に進んでいた。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第14話

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執行猶予

「わたしが……彼女たちと共に暮せと言うのですか?」
 瀬堂 癒魅亜は苛立ちにまみれた瞳を、久慈樹 瑞葉へと向ける。

「そうさ。まあもっとも、キミにはアイツが遺した金やら財産やらがたくさんあるからね。そいつを使って、適当なマンションでも借りるコトは出来るハズだが」
 久慈樹 瑞葉は、瀬堂 癒魅亜がそうしないと確信しているかのような口ぶりだった。

「兄は確かに薄れゆく意識の中で、あなたにユークリッドをたくしました」
 彼女は、あの日ボクに見せたように、エンジェル・トリックブラシで栗色の髪を梳かす。
「それなのにあなたは、兄の遺産やわたしに遺してくれた財産まで使って、事業を拡大したのよ!」

「キミに確認は取っただろう? それにボクは、キミの後見人でもあるんだぜ」
 久慈樹 瑞葉は、意にも介さない態度で言った。

「このままじゃ、ユークリッドが消えてなくなるって、脅して置いてよくも言えるわねえ! そうやってあなたは、ユークリッドを私物化して……」
 動画の中のアイドル教師となった彼女は、尚も食い下がる。

「実際に、そういう状況だったのさ。何せ、ユークリッドに恨みを持つヤツらも、多かったからねえ。コイツらの、親共のようにさ」
 ユークリッドの社長は、ボクの生徒となった少女たちを卑下する視線を向けた。

「それは、当然の感情です。あなたはそれを、金と権力で押さえつけてるようですが……」
 ボクは、反論すら許されていない、自分の生徒たちの前に立つ。

「キミは、面白いねえ。でも、彼女もそうするかも知れないよ……?」
 久慈樹 瑞葉は、ボクの右肩に左手を乗せながら言った。

「そうなったら、ボクが全力で止めます!」
 目の前の、翡翠色のツインテールの少女がボクを見つめている。

「ま、いいさ……でもキミは、癒魅亜とそこの娘たちの教師。契約条件は、全員が一定レベルの学力を得るコト。もし一人でも脱落したら、キミはクビだ」
 ユークリッドの若き社長は、ボクの方から手をどける。

「瀬堂 癒魅亜……キミも、ユークリッドに講師として契約しているんだ」
 彼はドアノブに、手を掛けながら呟くように言った。
「三か月……これ以上、授業動画の遅延は許さない」

 それだけ言うと、ドアはバタンと閉じられた。
すると瀬堂 癒魅亜の部屋に、重苦しい沈黙が流れる。

「あ、あの……わたし……行くところがなくて……」
 モコモコ髪の少女は、金盛 阿梨栖(かなもり ありす)と言った。

「どうしたモノかな」ボクも少し悩んだ後に、質問をする。
「ユミア……キミの財産は、社長に差し押さえられているのかい?」
 まずは、情報収集の段階だった。

「実質、そうね。わたしの財産管理は、彼がやっているのよ」
「キミが月に使えるお金は、どれくらい?」
「せいぜい、洋服や化粧品を買うくらいで……今は、月に十万程度かしら?」

「ユークリッドで、稼いでいる割りには、質素なのかもな?」
「お兄さまが生きてた頃に撮影した動画が、まだお金を生んでくれてるだけよ。今は、そこまで稼げてないわ。ネットやSNSでも、いい加減噂になってるのよ……新しい動画を出してないって」

 それは、社長である久慈樹 瑞葉が、彼女にプレッシャーをかける理由にも思えた。
「実際……お兄さまが生きてた頃の笑顔満載の動画に比べて、今の授業動画は自分でも酷いと思うわ」
苦悩する心の内を吐露する、瀬堂 癒魅亜。

「キミは……彼女たちと暮すのは、嫌かな?」
「そ、そうね。まだお互い、何も知らない人たちを部屋に入れるのは、ちょっと……それにいくら広いって言っても……」

「オイオ~イ、お姫様よォ。テメーにそんな決定権は、無いっつーの」
 王洲 玲遠(おおしま れのん)が、ソファーにアグラをかきながら言い放った。
「テメーの先生はよぉ、アタシら全員の先生なんだぜ。一人でも脱落したら、ゲームオーバー!」

「つまり、この部屋で暮せないんなら、出て行くってのか?」
「そーゆーコト。一度くらい、こんなセレブな部屋に、住んでみたかったんよ」
「あ、あの……わたしも、隅っこの方で、じっとしてますから」

「レノンも、アリスも、こう言ってるケド……」
「それなら、わたしが出て行くしか、無さそうですね……」
 瀬堂 癒魅亜は、哀しそうな瞳を見せた。

 

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第八話

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幽世の戦い

 恐竜なりきる部が、体育館のステージに上がっていた、丁度その頃~

 絹絵は街の上空で、千乃 玉忌と戦っていた。
 上空と言っても、絹絵は飛行出来るわけでは無く、跳躍によって空中戦をこなしている。
「こっちだけ飛べないんじゃ、ちょっと不利ッスねえ…!」

「狸の小娘ごときが、何が少しなモノかのォ! 九尾には及ばぬが、七尾を持つ仙狐の妾に勝てるとでも思っておるのかえ?」
 千乃 玉忌は、禍々しい紫色のオーラを身に纏いながら、空に浮かんでいた。

 二人の様子は、道行く人間や、殆どの大人には認識されない。
 一部の『霊感の強い者』か、『純粋な子供』で無ければ見れない幽世の次元で戦っているのだ。

「お前には、勝つッス! ご主人サマと約束したッスから!!」
 絹絵はジャンプして玉忌に攻撃を仕掛けたが、玉忌は周りを囲んで飛んでいた狐火を一斉照射させて絹絵を撃墜する。

「……自分の能力を見誤り、過信するから死を早めるのじゃ。仙狸になり損ねたのォ?」
 千乃 玉忌は、立ち昇る土煙を見下ろして言った。

「なに、言ってるッスか? まだまだこれからッスよ!」
 土煙の中から現れた絹絵は、戦国武者の甲冑を身に纏っていた。

「なんじゃ、その姿は? 稚児のチャンバラ遊びかえ」
 失笑する玉忌。
兜には狸の可愛らしい耳、腹の甲冑はポコッと出て、お尻にはシッポがぶら下がっている。

「『人間に化ける』のは、お前たち狐には及ばないッスけどね。『物質変化』はアチシたち狸には、得意中の得意なんスよ!!」
 絹絵は、太鼓型の巨大ハンマーを『ポン!』と出すと、玉忌に向って跳躍した。

「今度は、こっちから行くッスよ!!」
 再び狐火で撃ち墜とそうとしたが、絹絵はハンマーで狐火を砕いて突進する。

「とりゃああああぁァぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
 絹絵がハンマーを降り降ろすと、玉忌は驚異的な勢いで地面に叩きつけられた。
 またしても巨大な土煙が立ち昇る。

「……ふう、やれやれッス! なんとか勝つことが出来たッス……」
 絹絵は額の汗を拭い、体育館に戻ろうとした。

「こ、この妖気はッス!!?」
 絹絵は、背後で恐ろしいまでの妖気が立ち昇るのを感じる。

「クククククククク……! 狸風情が、なかなかどうして……愉しませてくれるでは無いかえ?」
 土煙の向こうに、巨大な影が浮かんだ。

「……やっと化け狐が……正体を現したッスね!?」戦慄を覚える絹絵。
 それは七つの尾を持つ狐の姿となった、玉忌の姿だった。

 その頃には、恐竜なりきる部のステージは終わり、体育館の壇上には、お尻に『安全第一』と、『+』マークが書かれた黄色いブルマ姿の、五人の少女が上がっていた。

「アスファルトの歴史は非常に古く、人類最古の文明と言われるメソポタミア文明の頃には、既に防水剤、接着剤としての用途で、天然アスファルトが使われてたんだぜ」
 部長の工藤 梢が、現場監督のような仕草で説明をする。

「へー? アスファルトって、そんなに古くからあるんだぁ?」「知らなかったぁ。」
 会場からの反応も上々だ。
「日本においても、縄文時代から使われた形跡があって、秋田や青森の遺跡からも出土して……」

 渡辺は茶会後半の抹茶を点て終えた後、やはり絹絵のことが気になって仕方なかった。
(いくら何でも遅すぎる。絹絵ちゃん……もし、絹絵ちゃんの身に何かあったら……)
渡辺は、双子に相談した。

「ここをしばらくの間、任せられるかな? オレ、絹絵ちゃんを探してくるよ」
「え? 絹絵は用事じゃなかったんですか?」「まさか迷子とか……?」
「とにかく頼むよ! 茶道部の舞台が始まるまでには、必ず戻るから!」

 こっそり体育館を出た渡辺は、渡り廊下に向ったが、そこには既に絹絵の姿は無かった。
「誰も居ない……既に移動した後か? ……どこだ、絹絵ちゃん!?」

 渡辺はその後も、絹絵を探しに走り回った。

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・16話

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質問

 ボクはこの艦の中の、最高権力者になったようだ。

「ところでノルニール、この艦の名前は決まっているのか?」
 艦長の椅子のあるロフトの一階上に置かれた、カプセルに向かって聞いてみた。

『時の魔女様によって、名前は与えられておりますが、艦長にお決めいただく事になっております。わたしも、この姿のままでは不便なようです。姿を現すといたしましょう』
 すると、カプセルの覗き穴から光が吹き出し、空間に像を浮かび上がらせる。

『この姿は、ベルとでもお呼びください』
 そう言って優しく微笑んだのは、ベージュ色の長い髪の女性の姿だった。

「ベル……ノルンの一人、ベルダンディのコトか?」「はい、お気付きでしたか」
 ボクは、上から降りて来る彼女の手を取ろうとするが、彼女は身体ごとボクをすり抜けた。
「キミは……フォログラムなのか?」

『今、艦長が見ておられるのはそうです。わたしの本体は、まだカプセルの中ですから』
 フォログラムの、ベルが答える。

「それじゃあキミは、まだカプセルの中に……」
 ボクは、再びカプセルの覗き穴を覗きこむと、中にはベルダンディが眠っていた。
「く、黒乃は!? 彼女は、どこに!?」

『それはもう艦長がわたしを、時澤 黒乃と認識しなくなったから、そう見えるのでしょう』
「そうか……キミは、人が見たいように見える存在だったね。ボクがキミを、黒乃とは別人と思ってしまったために、キミは黒乃ではなくなったんだ」

『艦長……わたし共も、艦長に質問をさせてもらって良いでしょうか? 質問内容は、艦長があらゆる物や事象について、どう考えているか……です』
 ベルはボクの前に立って、優しい瞳で言った。

「艦長になるにあたっての、資質調査ってヤツか? ああ、構わないよ」
 ボクは、面接でも受けるつもりで了承する。

『どんな結果であろうと、宇宙斗様は既にこの艦の艦長です』
 ベルはそう前置きをすると、ボクに向かって質問を投げかけた。
『まず、最初の質問です。宇宙斗艦長は、宇宙をどう認識されておりますか?』

「宇宙!? いきなり、壮大な話だな」
 面接では、よほど先鋭的な会社でも無い限り、質問されそうもない問いかけだった。
「そうだなあ。ボクも、自分の名前になってるだけあって、宇宙には興味があったんだ」

 宇宙船の艦橋から見える、広大な星空を見つめながら答える。
「ボクの生きた二十一世紀じゃ、まだ色んなコトが未知だった。それでも星座や天体に対する興味は尽きなかったよ」

『では次の質問……時間については、どうお考えですか?』
「また、哲学的な質問だなあ? 時間……時間ねえ。時間かあ?」
 そんなに優秀でも無い頭を捻って、色々と考える。

「時間ってのは、物質が変化する様を、人類が時間と呼んでいるだけじゃないかな?」
『では、光については、どうお考えなのでしょう?』
「ひ、光!? え~っと、この宇宙空間で、一番早く動くモノ?」

『宇宙の膨張スピードは、光速を遥かに超えてます。これに付いては、どうお考えでしょうか?』
「相対性理論は、空間には適用されない。最高速度が光速なのは、あくまで空間の中を移動する物質やエネルギーの話だろ?」


『では、光と時間の因果関係については?』
「相対性理論のアレか。物質は、光速に近づくほど、時間の進みが遅くなるってヤツ」
『もう一度、宇宙に関する質問です。宇宙が創られる以前に、時間は存在しましたか?』

「とうぜん、時間は存在した」『どうしてそう考えるのです?』
「ボクの時代では、宇宙が誕生したのは138億年前とされている。だったら、どうして138億年前のその時だったんだ? それ以前でも、以後でもなく……」

 ボクは、ベルから質問されなくても、答えを続けていた。
「宇宙は、揺らぎから生まれたとされるケド……揺らぎがあって、ある時ビックバンが発生したというのは、時間の流れに他ならない」

 艦長の椅子に座って、続きを語る。
「それに宇宙ってのは、どうやって生まれたかを考える前に、どこに広がったのかを考えなくてはならない。本当に何もない無だったのか、無限の空間が既にあったのか……」

 するとベルが、ボクの前に来て言った。
『あのお方が、宇宙斗様を未来にお連れになったのも、解かる気がします』

 最後のその言葉だけ、機械的には感じなかった。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第13話

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生徒たち

「コイツが、アタシらの先生かよ? ずいぶん、頼りなさげじゃね?」
 小麦色の肌に、ライオンのたてがみのような金髪の少女が言った。

「先生、これがうちのクラスの名簿……だそうです」
 瀬堂 癒魅亜から渡されたデジタル資料には、彼女たちの顔写真や名前、身長や体重、血液型、趣味や性格までもが載っていた。

「ずいぶんと、悪趣味な名簿じゃないか? 今どき、ここまで個人情報を書くなんて」
「久慈樹社長の性格なんですよ。彼女たち本人の同意も、取ってあるハズです」
「ホントか? えっと……」

「王洲 玲遠(おおしま れのん)だよ。名簿を見りゃあ、一発でわかるだろ」
 たてがみ金髪の少女は、悔しそうに言った。

「この名簿は消去する。こんなのは、プライバシーの侵害に他ならない」
 ボクは、スマホに入った名簿のデータを、全て消去する。
「おいおい、先生。いいのかよ?」王洲さんが言った。

「こんな名簿に頼らなくったって、キミたちの名前や性格くらい覚えられるさ、レノン」
「ほぉ? ずいぶんと頼もしいコト言うじゃないか、先生」
「だけど、一つ聞いておきたい。キミはボクの生徒になることに、同意したのか?」

 立派なたてがみの少女は、一瞬たじろぐ。
「そういう契約なんだよ。そうじゃなきゃ、こんな……」
「やはり……同意、させられたんだな、レノン?」

「仕方ねェんだよ。ウチは親が失業中で、こうでもしなきゃ、まともな人生歩めそうに無いからな」
 すると、ピンク色の髪を宝石で飾った少女が、口を開いた。
「ここに集められたコたちは、多かれ少なかれ似た環境ですわ」

「やれやれ……ずいぶんな仕打ちじゃないか、久慈樹 瑞葉」
 すると、ボクの声を待ってましたとばかりに、本人が現れた。

「そうかな? ボクはこれでも、慈善事業のつもりなんだがね」
 サラサラとした髪をかき上げながら、玄関へと続く扉から入ってきた彼は、瀬堂 癒魅亜の背中へと回り込む。

「人の境遇を人質に、無理やり従わせるのが慈善事業ですって!?」
 ユークリッドのアイドル教師は、首元に回された腕を払いのける。

「本人たちにしてみれば、有り難い申し出なんじゃないか? 教民法や、ボクらユークリッドの出現によって、職を失った教育者たちの娘である、彼女たちにしてみれば……さ」
 久慈樹 瑞葉は、涼しげな眼差しを、ボクの生徒たちに向ける。

「社長さんの、言う通りです。わたしは、ここで生徒になります。お金も貰えて、幸せです……だから、先生の生徒にしてください!!」
 白いモコモコ髪の少女が、体中の勇気を振り絞るように言った。

「アナタって、人は……!!?」
 瀬堂 癒魅亜の瞳は、怒りに満ちていた。

「ボクは、キミの笑顔が見たいんだ。怒った顔じゃなくね」
 久慈樹 瑞葉は、スタジオ部屋とは反対側のドアを開けた。
「これが瀬堂 癒魅亜の、寝室さ。天蓋付きのベット……素敵だろう?」

 ボクの生徒となる予定の、少女たちに問いかける。
「キミたちが、教民法やユークリッドによって、人生が破滅へと向かっていた頃、彼女は優雅に天蓋付きのベットで眠っていたのさ?」

 少女たちの突き刺すような視線が、一人の少女へと向けられる。
「お前が、のうのうと温かいベットで眠ってた頃、あたしは……!?」
「普通の教師だったお父さんが、どうしてあんな酷い目に……!!」

 憎悪が言葉となって飛び出し、可愛らしい顔を醜く歪める。
「ヒッ!!?」瀬堂 癒魅亜の瞳は、僅かに悲鳴をあげた。

「それって、社長も同じですよね? この超高層マンションも、社長の所有物だと聞きました」
「ああ、そうさ。だから、この部屋の権限もボクにある」
 久慈樹 瑞葉は、見透かしていたかのように爽やかにほほ笑む。

「今日から、キミたちの部屋はここだ。もう一年以上も授業動画を撮影できていないキミには、彼女たちと同居をしてもらうよ?」

 ユークリッドの 現社長は、冷徹な命令を下した。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第12話

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先生

 幸か不幸か、ボクは瀬堂 癒魅亜と会う前に、彼女の過去についての情報を得てしまった。

「まさかユークリッドの元が、彼女がイジメられて学校に行けなくて、そんな妹を見かねた兄・倉崎 世判が立ち上げたサイトだったなんてな」
 鳴丘 胡陽の言葉を信じるなら、そうなるのだ。

 今や世界すら視野に入れ、教育を展開しようとしている『ユー・クリエイター・ドットコム』も、元はそんなちっぽけなサイトから始まったのだと、驚かされると共に別の難題をボクに突き付けた。
「それまでの学校教育で……彼女はイジメに会い、学校へ行くコトすらできなかった」


 それまでの学校教育の象徴的存在でもある、『熱血教師』に憧れるボクにとって、それは不都合な真実だった。
「さて……彼女に、どんな顔で会うのが最適解だ?」

 ボクの指が、最上階の瀬堂 癒魅亜の部屋のインターフォン野前で立ち止まっていると、いきなりドアが開く。
「もう! いつまで部屋の前で、立ってんのよ。早く入りなさいよ」

 ウェーブのかかった栗色の髪の少女は、ボクを部屋へと引き入れた。
「書類は持ってきたんでしょうね? まったく、子供じゃないんだから」

 今日の瀬堂 癒魅亜は、何時になく機嫌が悪かった。
「ああ、持って来ているよ。それで、授業の形式について……」

「それがね。社長からクレームがあったのよ」
 瀬堂 癒魅亜は表情を歪めた。
現在、不機嫌なのは、それが原因らしい。

「クレーム? それって、キミがやりたがってるコトを、妨害するような?」
「そうよ! 久慈樹 瑞葉は、家庭教師なんて認めないって言ってきたわ!」
「やっぱ、男と女がふたりっきりはマズいと?」

「そ、そうよ? よく解ったわねえ」
 瀬堂 癒魅亜は、真顔で答える。

 流石にボク自身も、それは自覚していた。
無論、家庭教師という職業は、教民法が施行される以前の十数年前なら普通に存在していたし、男性の家庭教師が、親が留守の女子生徒の家に行くコトもあっただろう。

「キミの場合、影響力がハンパ無いからね。社長が心配するのも解るよ」
「どうかしら? わたしに言わせれば、自分が得たユークリッドって巨大企業の看板に、泥を塗られたく無いだけだわ」

 確かにそれもあると思った。
「でも、久慈樹 瑞葉はキミのお兄さんの、親友だったんだろ? きっと、キミのコトを心配して……]

「アイツが、どんなヤツかも知らないで、適当なコト言わないで!」
 瀬堂 癒魅亜の機嫌は、更に悪くなった。

「それでボクとの契約は、白紙に戻されたってワケか? 少しくらいの違約金は、発生するのか……」
「誰が白紙になったなんて、言いました?」
 彼女に、ユークリッドの数学講師らしい口調で、問いただされる。

「え、そうなの? てっきり、今回の契約は、無くなるモノだとばかり……!?」
 ボクは、自分の早とちりだと気付いて、顔が熱くなる。

「アイツが問題にしたのは、男女二人っきりってトコだけよ。簡単に言えば、アナタの仕事が大変になったってコト」
 そう言うと、瀬堂 癒魅亜はソファーを立って、隣のスタジオ部屋の扉を開けた。

「ボクの仕事が……大変に!?」「ええ、そうよ」
 すると扉の向こうから、ぞろぞろと何人もの少女たちが現れる。
「こ、この子たちは、一体!?」

 現れた少女たちを見てみると、金髪で日に焼けた肌のライオンみたいな子から、白いモコモコ髪のおっとりした子、ピンク色の髪を宝石で飾った子など、様々なタイプの女の子がいた。

「今日から、アナタの教え子になる子たちよ。わたしもひっくるめてね」
「ボ、ボクの教え子だってェ!?」
 思わぬカタチで、夢が現実へと変化する。

「当然、契約内容が替わるのだから、あなたにも断る権利があるわ。どうします、『先生』?」
 瀬堂 癒魅亜は、ボクを先生と呼んだ。

「もちろん……受けるよ!」
 ボクは、長年の夢であった『先生』としての第一歩を、こうして踏み出した。

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・15話

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ノルニール・スカラ

「ボクが艦長を引き受ければ、質問に答えてくれるんだな?」

『はい……ただし、わたしが知り得る情報に限ります』
 カプセルの中の誰かは、煙に巻くように答えた。

「まず、ボクを艦長にする理由はなんだ? 自慢じゃないがボクは、千年前はただの引き籠りだったんだ。宇宙船の艦長なんて重役、できるワケがない!」
 ボクはまず、正論をぶつけてみた。

『ご心配にはお及びません。わたしを始めとしたスタッフが、しっかりと艦長をサポートいたします』
「キミのほかにも、スタッフがいるのか……」

 カプセルの中の誰かは、答えなかった。
「ロフトに偉そうに据えられている、背もたれの高い椅子は、艦長の椅子みたいだな?」
『はい、艦長に就任いただければ、座る権限がございます』

「ロフトの一段下にある三つの椅子は、主要なスタッフのモノかな? 最下層にたくさん並んだ椅子は、アニメじゃ管制制御のオペレーターの女の子たちが、わいわいやっている感じだけど……」

『おおむね、間違った解釈ではありませんね』
「でも、管制スタッフの椅子の数は、六十脚は無いように見えるが?」
『はい、ウィッチ・レイダーの彼女たちは、戦闘スタッフですから』

「この艦橋の空いた椅子に座るべきスタッフは、コイツらじゃなく別にいるのか?」
『それも、艦長権限となります。誰をスタッフとして加え、誰を排除するかは宇宙斗様が艦長になれば自由に行うことができるのです』

「スタッフまで、艦長の権限で決められるのか? 民主的じゃないな」
『はい。軍隊の多くは、その内部統帥機構をトップダウンにしております』
 言われてみれば、そうだ。

「確かに、軍事組織ってのは独裁だよな。たとえ民主国家の軍隊であっても……」
『なにも軍隊に限ったことではありません。資本主義で生まれた株式会社の多くも、内部機構は独裁でしょう? 社長や会長を、従業員の投票で決める会社であれば別ですが」

 ボクは、なる程と思った。
「民主主義のなかの会社の殆どは、内部組織はいわば独裁なんだな……」
二十一世紀の感覚で、軽く言ってしまう。

『いかがでしょうか? 群雲 宇宙斗様……艦長を、お引き受けになりますか?』
 そう問われて、ボクは黒乃との思い出を振り返る。

(黒乃……キミはボクを、未来へと導いてくれた。でもキミは、未来へ来ることは叶わず、キミの肉体はフォボスの奥底で失われてしまった……)
 艦橋の全面に見える、巨大な惑星を見ながら思った。

(ボクは、あの時誓った……キミの見たかった未来を見る。知りたかった知識を知るって!)
 ボクの心は、既に決まっていた。

「ああ、ボクは艦長になるよ。例えそれが、独裁者になるコトであろうと……ね」

『承認いたしました。これより、群雲 宇宙斗様を我が艦の艦長とします』
 たったそれだけの宣言で、ボクは巨大宇宙船の艦長となってしまった。

「それじゃあまず、キミの名前から決めていいか?」
『艦長に逆らう権限は、わたしにはありません』

「いきなり独裁者みたいだな。じゃあ、キミは『ノルニール・スカラ』でどうだろうか?」
『ノルニル……北欧神話における、運命の女神の名の複数形ですね。スカラはスカラベ……エジプト神話の太陽のシンボルでしょうか?』

「そこまで言い当てられると……もう少し、考えた方がいいのかな?」
『いえ。よくわたしを、言い現わした名前だと思います』
 文脈通りにとれば、気に入ってくれたみたいだ。

「さて……ノルニール。この舟の目的を教えてくれ」
『舟の目的は、艦長によって決定されます。我々は、宇宙斗艦長の指示に従うのみです』
「どんな指示にも従う……と?」

『はい。宇宙斗様が死ねと命令されるのであれば、我々は全員そう致します』
 ノルニールの声は、一切の躊躇なく言ったが、娘たちは振るえていた。

「パ、パパ……!?」「そんな命令、しないよね!?」「ね? ね!?」
 ボクの足元に、うっとおしく纏わりついてくる、図々しい娘たち。
ボクは、最初の命令を決める。

「まず、最初の命令だ。お前たちは、何があってもボクより先に死ぬな。今後ボクが出す、どんな命令よりも優先される」
 本当かは解らないが、彼女たちはボクの娘らしい。

「パパ!!」「わああい!」「やっぱ、あたしたちのパパだあ!!」
 彼女たちの肌の温もりを、ボクは既に知ってしまった。
「パパ、大好き!」「これから、頑張っちゃうモンね!」

「ボクは……どんな独裁者になって行くのか……見守っていてくれ、黒乃」
 宇宙の星空に浮かぶ木星は、何も答えずボクを見つめていた。

 

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