ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第11話

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教民法の熱い時代

 鳴丘 胡陽は、自分の教え子を札付きの不良と表現した。

「同級生の二人が、教育……義務教育を受けていたのは、中学の二年までだったわ」
 倉崎 世判と久慈樹 瑞葉は、歳だけならボクや友人と同い年である。

「当時は、教育民営化法案が成立して、その施行を巡って教職員と政府が対立していた時期でね。多くの教師や学校関係者は、自分たちの職が危うくなるのもあって、教民法の施行に反対していたのよ。過激なデモや、ストライキをやった先生もいたわねえ」

「公務員がストライキって……そんなコトをしたら、逆効果……!?」
 ボクの反論は、直ぐに覆される。

「何をしたところで、止めようが無かったのよ。マスコミの扇動もあって、世の中は教育民営化法案の施行、一色だったわ」
 鳴丘 胡陽は、恐らくもう中身が入っていないであろう、コーヒーカップを眺めた。

「反対意見になんて、誰も聞く耳を持たない……学校の屋上から、飛び降り自殺した先生もいたケド、どのマスコミも取り合わなかったわ」
 鳴丘 胡陽の語ったのは、大人の側から見た『教民法』の当時の姿だった。

「教民法が止められないと分かった途端、当時の先生たちの多くは自らの保身に走ったわ。元々、教民法が発動してしまえば、自分たちは公務員では無くなり、職業の安定は保証されなくなるものね」
「でも当時の教職員は、公務員であるコトにアグラをかいて、自らを成長させず……」

「それも当時……よく聞いたフレーズね」
 鳴丘 胡陽はスラリと伸びた脚を組み替えながら、独り言のように言った。

「何をしても、負の象徴として塗り固めようとするマスコミ連中。それに憤慨し、常軌を逸した先生たちの行動は、マスコミの格好の餌食になったのも事実だわ……でもね」
 鳴丘 胡陽は、寂しそうな表情をボクに見せた。

「誰かをクビにするってコトは、本人とその家族も含めた生活をも破壊するのよ」
 この時、彼女が言った言葉の意味を、ボクは理解しなかった。

「ボクは、倉崎 世判と年齢だけなら同い年です。教民法が施行された前後のボクは、まだ中学生の子供だった。教民法の意味すら解らずに、学校が崩壊していく様を見ていた気がします」
 ボクのテーブルには、まだ手の付けてないカフェオレが残っていた。

「そう……でも、わたしの二人の教え子は違った。教民法によって、逆に未来を変えてしまったのよ」
 それは、自慢のようにも聞こえたし、そうでないようにも聞こえた。

「わたしはこれで、失礼するわ……長く引き留めてしまって、ゴメンなさいね……」
 鳴丘 胡陽はテーブルを立つと、デザインされた街の雑踏の中へと消える。
テーブルには、口紅のついたカップだけが残されていた。

「やっぱ、大人の女性だな……」
 ボクは、自分がまだまだ未熟だと理解する。
「でも、ボク自身を成長させないといけないのは、紛れも無い事実だ」

 ボクは、冷めてしまったカフェオレを一気に飲み干すと、瀬堂 癒魅亜のマンションへと向かった。
エントランスで最上階のルーム番号を入力すると、直ぐにドアロックが外される。

「さて……ボクは彼女にとって、どんな教師になればいい?」
 エレベーターの透明な強化ガラスに映った自分に、自答する。
けれども、強化ガラスの向こうのボクは、ひたすら無口で表情も冴えない。

「ええい、こんなんじゃダメだ!!」
 ボクは、おもいきり頬を叩いて勇気を絞りだす。

 エレベーターはデザイン区画の中でも、ひと際高いタワーマンションの、屋上へとボクを運んだ。

 

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