ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第17話

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崩壊する学校

「なあ、今度キミの家に招待してくれよ」
 サラサラとした髪の男が、唐突に話を切り出した。

「構わんが、招待するのはお前だけだぞ」
 ボブヘアの男は、そっけなく返す。

 倉崎 世叛と久慈樹 瑞葉、2人が盟約を結んでから3日目のコトだった。
ホットドックを食べながらパソコン作業をする倉崎を、久慈樹は興味深げに眺める。

「当然だよ。ペットをキミの家に上げるなんて、不躾(ぶしつけ)なマネはしないさ」
 久慈樹の周りには4人の女生徒がいて、甲斐甲斐しくサンドイッチやおかずを口に運んだり、汚れた指先を口で舐めたりしていた。

「お前もお前だが、ソイツらもソイツらだな」
 女生徒たちはクラスの委員長に、テニス部と新体操部の期待の新人、ネットアイドルと、始業式の日に表立って久慈樹に反発していた女ばかり揃っている。

「彼女たちは優秀だよ。少しばかり、寂しいがり屋なだけさ」
「どの口が言う」

「イヤイヤ、ホントさ。ボクは女性を尊敬しているからね」
 取り巻きの女生徒たちは食事の世話を終えると、久慈樹の肩や膝に寄り添う。
うっとりとした顔をしながら、寝てしまう者までいた。

「どうだい、可愛いモノだろう。これが彼女たちの、本来の美しささ」
 女生徒たちの髪を優しく撫でながら、ほほ笑む久慈樹。

「キミこそ、女という生き物についてどう思うんだい?」
「そう……だな」
 倉崎は、屋上のフェンスの上にノートパソコンを広げ、作業をするついでに答えた。

「女は感情的で、物事を論理的に見るコトが出来ない。あまり好かんな」
「論理かい。論理なんてモノに価値があると思っているのは、地球上に数いる生物の中でも、人間の男くらいじゃないかな」

「フッ、確かにただ生きていく為であれば、論理など必要ないのかも知れない。お前の言うように、他の生物は論理など無くとも生き永らえ、子孫を残しているからな」

「だが、世の中を変えるには、それが必要なんだろう?」
「ああ。既存のルールを破壊し、オレのルールに世界を従わせるにはな」

「ククク……キミはボク以上に、エゴイストだねえ」
 久慈樹の口元が歪む。

「あ……ああ……」
「ぐるぢ……い……」
 両肩に寄り添っていた2人の女生徒の、喉を押えた。

「世界のルールを変え、世界を従わせるだなんて……やはりキミは、最高だよ」
 久慈樹は女生徒たちを放り捨て、塔屋へと消えて行った。

「雨か」
 ノートパソコンのモニタに、雨粒が当たる。
「オレもそろそろ、切り上げるか……」

 屋上には4人の女子生徒と、2つの小さな水溜りが残された。
水溜まりは、やがて降り出した雨によって排水溝へと流される。

 鳴丘 胡陽は、窓の外の鈍色の空を眺めながら、廊下を歩いていた。
すると前方から、慌てた様子の教え子たちが駆けて来る。

「貴女たち、ずぶ濡れじゃない。一体どうしたの?」
 制服が透き通るくらいに濡れた、4人の姿に驚く新人教師。

「な、なんでも無いです」
「屋上でお弁当食べてたら……」
「雨降って来ちゃって……その……」

 モジモジと内股で腿を前後させる生徒のスカートからは、雫がポタポタと落ち続けている。

「だからって、そこまでずぶ濡れに……その首、どうしたの?」
 新人教師は4人のうち、2人の首元がアザになっているのに気付いた。

「わ、わたし達、保健室でジャージに着替えて来ます」
「授業、遅れちゃうカモだから……」
「貴女たち、ちょっと……!?」

 4人は慌てて、担任教師の前から立ち去る。
教え子の行動に、違和感を感じた鳴丘 胡陽。
けれども彼女が知り得た情報は、たったそれだけだった。

 その日の午後の授業は、自習となる。
教育民営化法案施行の阻止を訴えた教職員によって、遂にストライキが決行されたからだ。

 鳴丘 胡陽は申し訳程度に顔を出し、各教室を見て回った。
それだけの行為であっても、職員室を出る時には彼女は白い目を向けられる。

「本当にストライキを決行するなんて、民意を敵に回すだけだわ。推進派の思う壺だと言うコトを、どうして気付かないのかしら」
 新米教師は憤りを言葉として吐き捨てると、自分の受け持つ教室へと入った。

 既に生徒の大半は帰宅してしまっており、教室には数名だけが残る。

 その年、従来の学校を基盤とした義務教育は、大きな音を立て崩壊した。

 

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