シライトイソギンチャク
「ワイは、金刺 導誉(かねさし どうよ)っちゅーねや」
どうよ……変った名前だなあ。
「サーフィンズっちゅう会社名やから面接応募したのに、ネット動画作ことる会社やなんて、完っ全に騙されてもうたわ」
「紛らわしい名前で、悪かったね」
苦笑いをしながら、ドリンクバーのコーヒーをすする佐藤さん。
「でもさ。なんで、サーフィス・サーフィンズって名前だんだ?」
「佐藤さん始め、ギルドの主要メンバーの趣味が、ネットサーフィンだったからだよ」
「当時は今ホド、ネットも普及してなかったからね。トレンドだったのさ」
黒浪さんの質問に気さくに答える、サーフィンズのメンバー。
「ホンマけったいな理由やで」
「まさか、本物のサーファーが応募してくるなんて、夢にも思わなかったよ」
「まあ金刺くんの前にも、何件か問い合わせがありましたケドね」
「え、そうなの?」
「はい。御社はサーフィンの会社ですか……と言う問い合わせは、何件かありました」
「アハハ、そーなんだ。イヤァ、初耳だなあ」
「この人社長で、ホンマ大丈夫かいな?」
金刺さんも、ボクたちのテーブルに座る。
「コイツ、マジでサーファーなの。それっポイ格好してるとは、思ってたケド」
「コイツ言うなや、ピンク頭。導誉っちゅう名前で呼べや」
「うわ、イソギンチャクが喋った!?」
「誰がイソギンチャクや。ふざけんのも、大概にせぇや」
一触即発な感じの、紅華さんと金刺さん。
「まあまあ、2人とも。そんなに熱くならないで」
「すみません、佐藤さん。ウチの紅華が……」
「お互い様さ、雪峰くん。こちらも金刺くんが、失礼を言ったからね」
大人な対応をする、佐藤さんと雪峰さん。
「お前はオレの親か、雪峰」
「せやな。オトンでも無いのにキショいで、佐藤はん」
「なんだ、2人とも気が合うんじゃね?」
「ケッ、誰がこんなイソギンチャクと」
「お前も相変わらず、煽るな。こんなイソギンチャク、いねーだろ」
黒浪さんが、金刺さんの頭を指さしながら言った。
まあ、そりゃそうだよね。
「シライトイソギンチャクが、近いっちゃ近いわな」
「……へ?」
ナゼか反論する金刺さんに、驚く黒浪さん。
「ホントだ。画像検索かけてみたら、お前の頭にソックリなのが出て来た」
紅華さんが、テーブル席に座っている全員に、検索画像を見せる。
「だあぁあ、誰がシライトイソギンチャクや!」
「お前が言ったんじゃねェか!」
2人の漫才に、みんなが笑い転げた。
「アハハ……アハハハハハハハ!」
「ス、スゲー。一馬が笑ってる!?」
「自分も始めて見たぞ。普段は冷静さを崩さない、御剣隊員まで笑わせてしまうとは」
「何や、その褒め方わ。テメーら全員、シバくぞ!」
顔を真っ赤にして、怒り心頭な金刺さん。
みんなでなだめるのに、十分近くかかった。
「そろそろ本題に入りますか、佐藤さん」
「そうだね。実は今日、集まるように持ち掛けたのは、ボクたちの方なんだ」
「え、そうなのか、キャプテン?」
「ウム。佐藤さんたちの会社が、ストリーミング動画の制作会社だと言うコトは、話しただろう」
「聞いたケド、ストリーミング動画ってなんだ?」
「ストリーミング動画とは、動画をアニメの様に細かく切り分け複数枚の画像とし、画像と再生する順番を記したリストを……」
「おい、雪峰。無駄だって。コイツに説明したところで、馬の耳に念仏だぜ」
「クッ、悔しいが……言い返せないのが更に悔しい!」
「そない難しい理屈、言われても……なあ」
「オメーらの方こそ、気が合いそうじゃねえか」
「紅華。あまり話の腰を折るな」
「ヘイヘイ。で、動画制作会社が、オレたちに用があるってんなら、当然アレだろ?」
「キミは中々に、鋭いね」
佐藤さんは、言った。
「キミたちデッドエンド・ボーイズの活躍を、ウチの動画のコンテンツとして使いたい」
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