ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第16話

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天才たちの盟約

「やあ、倉崎くん。呼び出しに応じてくれて、助かったよ」
 爽やかな笑顔をぶら下げながら、久慈樹 瑞葉は倉崎にスマホを見せる。

「ボクは無視をされるのが、嫌いでね。彼女たちは中学の同級生なんだケド、ほら……」
 スマホの液晶画面には、首輪を捲いた3人の少女の姿が映っていた。
少女たちの顔は腫れ上がり、犬のように四つん這いになっている。

「子供か、キサマは。下らない」
 倉崎 世叛は、心底目の前の男をあざ笑っていた。

「ボクが下らない……子供だって?」
「自分の汚さを、得意気に自慢しているなど、ただの子供だろう?」

「アハハハハハハハ……思った通りだ。面白いねえ、キミは」
 久慈樹 瑞葉は、スカした制服の内側からバタフライナイフを取り出す。

「お前、もう少し頭のキレるヤツかと思っていたが、失望したよ」
 倉崎はタブレットを取り出し、屋上の給水塔の乗っかっている塔屋にもたれ掛かって、作業を始める。

「フッ、コイツを見ても顔色一つ変えないなんて、やっぱキミは異常だよ」
 呆れ顔の久慈樹は、ナイフを懐に仕舞うと倉崎の隣に座った。

 2人の少年の周りを、しばらくの間ゆっくりとした時間が流れる。
春の風に、校庭に植えられた桜の花びらが舞い上がった。

「オレに用があると言ったな。なんの用だ?」
「ん……実は、ただ退屈だったのさ。キミは一体、なにに熱中しているんだい?」
 久慈樹は、隣のタブレット画面を覗き込んだ。

「それ、動画だろ。編集をしているのか」
「ああ、授業の動画だ。先生は、オレだがな」
「授業……学校の、授業?」

「その通りだ。小学生向けの、国語や算数のな」
「何だって、そんなモノを動画にしている。普通なら、ゲーム配信とかだろう」

「実は妹が、学校でイジメに遭ってな。それで学校に行っていないんだ」
「不登校の、妹用の授業動画ってワケか」
「中々、部屋から出てこない妹でな。デジタルには、やたら強いんだが」

「そうは言っても普通、授業を動画にしようとするかい。キミの妹しか見ない、動画なんだろう?」
「そのつもりだったんだがな。これが、意外なホド再生数が伸びてな」
「マジか!?」

「マジだ。妹と似たような感じの、不登校の小学生が見始めて人気になったらしくてな。今では普通に学校に通っている生徒まで、見ているらしい」

「そうか。最初は何の意味があるのかと思ったが、よく考えてみれば動画であれば、授業に付いて行けなくなるコトもないからな」
「ああ、何度も見返せるから、便利らしいぞ」

「なあ、世叛。この動画、ビジネスになるぞ」
 久慈樹 瑞葉は、小学生の子供のように興味を示した。

「ああ、そうだろうな。オレも同じコトを、考えていた」
「じゃあ、なんで実行しない。もしかして、もう始めているのかい?」

「イヤ、オレはプログラムや動画配信で、手一杯な感じでな。ビジネスを任せられる、有能な社長を探していたところだ」
 倉崎は、悪戯っぽく久慈樹を見た。

「オイオイ、ボクに社長をやれって言うのかい」
「そこそこ、乗り気なんだろう?」
「う……まあ確かに、興味はあるかな」

「オレにとって社長なんてモノは、究極の雑用係なんだ」
「キミも大概だな。その雑用係を、ボクにやらせようって魂胆だろ」
「オレは表舞台に立つのは、苦手だからな」

 この時、久慈樹 瑞葉はしばらく考える。

「どうだろうか。確かに一見すれば、キミよりもボクの方が社交的ではある。だが、もしかするとキミがトップに立った方が、良い結果を招くかもしれないぞ」

「そうは思えんのだが?」
「フフ。まあ少しだけボクを信じてみろよ、世叛。キミにはカリスマがある。組織のトップに立つには、必要な素養だ」

「カリスマと言うのであれば、お前の方があるだろ」
「あんなモノは、上っ面さ。人生経験の少ない子供なら騙せるが、世間の大人を相手には容易く見抜かれてしまうだろう」

「オレが、社長までこなすのか。やはり……」
「安心したまえよ。キミの言う社長の雑用部分は、ボクが引き受けるからさ」
「いいのか、久慈樹」

「営業や企業アピール、宣伝活動なんかは、キミよりもボクの方が向いている。キミは客寄せパンダに、専念してくれて構わない」
「フッ、お前も大概じゃないか」

 その日、校舎の屋上にて、2人の天才による盟約が結ばれた。

 

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