ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第03章・14話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

カプセルの覗き穴

 目の前にあった冷凍カプセルは、かつて黒乃とともに眠りについた時のものと酷似していた。

「ど……どうしてこんな場所に、冷凍のカプセルが!!?」
 ボクは固唾をのんで、冷凍カプセルに近づく。
「確かに基礎的なデザインはよく似ている……でも……」

 宇宙船の艦橋に置かれた冷凍カプセルは、ボクや黒乃が眠りについたカプセルとは、根本的に異なる部分があった。

「このカプセル……蓋が透明なガラスじゃない。分厚い金属製だ!?」
 それは同時に、『カプセルの内部を確認できない』コトを意味していた。

「カプセルから伸びてるコード類も、ボクや黒乃が眠っていたカプセルとは比べものにならないくらい、本格的だ」
 コード類はまとまって、艦橋のさらに上の方へと伸びていた。

「なあ、お前ら。このカプセルの中には、誰が眠っているんだ?」
 ボクは、周りにいた娘たちに聞いてみる。


「誰だろ? 知らない男の人」「キレイな女の人だったよ?」
「変なカッコのおっさんじゃん」「太った牛が入ってた」
「おっきなパンダさん」「気持ち悪いエイリアンだよ!」

「おいおい、おかしいだろ!? どうして同じものを見て、意見がここまで違うんだよ!?」
 娘たちの意見は、一つとして同じものは無かった。

「ところでお前たちは、どうやって中身を確かめたんだ?」
「フタんトコに、ちっちゃな覗き窓があるじゃん」「そっから中を見たんだよ」
 彼女たちの答えは、極めてシンプルだった。

「なる程な。確かに覗き穴が開いてる」
 それは、わずか1センチにも満たない小さな穴だった。
「こ、これか。一体、何が入っているんだ?」

 ボクは、好奇心と恐怖心が織り交ざる、心臓の鼓動を抑えながら中を覗き込む。
右目を覗き穴につけると、段々と焦点が合ってくる。

「こ、これは……く、黒乃!!?」
 ボクの右目が見たのは、明らかに時澤 黒乃だった。
「特徴的なクワトロテールには結ばれてないが、紛れもなく彼女だ!」

 このときボクの脳は、カプセルの中身を黒乃と判断した。
「どうしてこんな場所に……それじゃあ、フォボスで巨岩に圧し潰されたのは……!?」
混乱する、ボクのシナプス。

「え~、なに言ってんのさ、パパ」「中身はパンダだよ?」
「 きれいな女の人だった」「違うよ、エイリアンだよ!!」
 ボクとは、まったく異なる意見を主張し続ける、娘たち。

「なんだって言うんだ? カプセルの中身は黒乃だろ!!?」
 ボクは再びカプセルを覗き込むが、右目に映ったのはやはり、一糸纏わないまるで女神のように美しい、黒乃の姿だった。

『申し訳ございません、艦長』
 再び、穏やかな女性の声が聞こえた。
けれども、その丁寧な喋り方は黒乃のモノではない。

「誰だ……キミは一体、誰なんだ!!?」
 ボクの声が、艦橋にこだまする。
心配になって、再びカプセルの穴を覗き込んだ。

「うあああッ!!? な、なんだこれ……く、黒乃!!?」
 ボクの右目が見たモノは、頭部や上半身が圧し潰され、脳しょうや内臓が飛び出た時澤 黒乃の遺体だった。

『わたしは、カプセルの中の者……言わば、魔法瓶に入り込んだ虫と言ったところでしょうか』
「カプセルの中の……!?」
 もう一度カプセルを除くと、美しいままの黒乃が眠っていた。

『わたしは、見たいように見られる者。わたしの姿は、確定されておりません』
 不思議な言い回しだった。

「見たいように……見られる者? だからキミの姿は、人によって違っているのか?」
『はい……同一の人物であったとしても、違うと思えば違って見えてしまう……それがわたしです』
「キミは今まで、自分のコトを『わたし』としか読んでいない。キミに名は無いのか?」

『わたしの声も、話す言語や声質も、全ては聞きたいように聞こえる……それがわたしです』
 禅問答のようだと感じた。
『名は、ありません。わたしの名を決定する権限を持つのは、艦長ただお一人です』

「そういえばキミは、ボクを『艦長』と呼んでいるのか?」
『はい、艦長。わたしは時の魔女によって、艦長をお迎えに上がる任務を与えられました』
「時の魔女……それは、時澤 黒乃と関係があるのか?」

『艦長をお引き受けいただかねば、お答えするコトはできません』
 カプセルの中の『誰か』は、ピシャリと言った。