謎の艦隊と黒乃の意思
「これホド早く、嗅ぎ付けられるとは思いませんでした」
時澤 黒乃となったミネルヴァさんは、そのまま応接室を駆け抜ける。
「どこの艦隊か、確認はできませんか?」
「艦に残ったオリティアからの報告では、艦隊を構成する艦に該当するデータは、無いとのコトです」
黒乃の質問に、メラニッペ―が答えた。
「Unknown(アンノーン)……これは、最悪の相手かも知れませんね」
「時の魔女……彼女自身が、艦隊を組んで来たってコトですか?」
ボクも後ろから、黒乃に追いついて質問する。
「火星の艦隊は、おおよそ把握しております。月が新鋭艦隊を開発していたか、時の魔女の艦隊が現れたか……考えられる可能性は他にありません」
「どの道、朗報ではありませんね。早急に、対策を取らないと」
すると外交官を出るところで、ニケ―さんが立ち止まった。
「わたしは、ヴィクトリアの艦隊を率いて出ます。ミネルヴァ様……失礼、黒乃さまと宇宙斗艦長は、ご自分の艦に戻って下さい」
白い髪の少女は、ボクたちとは別の方向へと車を飛ばす。
「まさか、こんなコトになるなんて。お土産どころじゃ、ないですゥ!」
「仕方ないさ、アンティオペー。上手く対処して、また戻って来たいところだが……」
ボクと黒乃、アンティオペーとメラニッペ―は、時折り揺れるコロニーの中を駆け抜け、なんとかテル・セー・ウス号まで帰還できた。
「どういう状況だ、オリティア。教えてくれ」
「はい、宇宙斗艦長。現在、ヴィクトリアのコロニー群から見て地球方向に、謎の艦隊が現れてコロニー群に向け、威嚇射撃を行っております」
「被害は出ているか、オリティア?」
「残念ですが、各コロニーにそれなりの被害が出ております。外に居る艦隊を動かし、反撃を試みてはいるのですが、大した損害は与えられておりません」
「謎の艦隊から、コンタクトは無いのですか?」
「ええ……と、ミネルヴァ様でよろしかったでしょうか?」
少女の姿になってしまったミネルヴァさんに、オリティアが問いかける。
「今は、時澤 黒乃の名前を名乗っております。黒乃と呼んで下さい」
1000年前の時澤 黒乃にしか見えない少女が、言った。
「了解です、黒乃さま。現在のところ、謎の艦隊からのコンタクトはございません」
「そうですか、敵の狙いは解らないままなのですね」
「敵の艦隊規模は、どれくらいなんだ?」
「残念ながら、それも不明です。謎の艦隊の艦はどれも、ステルス性能の高い艦のようなので」
ボクたちが質問する合間にも、テル・セー・ウス号はアンティオペー艦長の操舵で、ヴィクトリアの宇宙ポートを出航する。
「敵影を、映します」
メラニッペーが、艦橋のオペレーター席に座って言った。
「これって……艦の装甲に星が反射しているのか。肉眼じゃ、宇宙と見分けがつかないぞ」
黒い鏡のような装甲に覆われた艦隊は、煌びやかな星々をプラネタリウムのように反射させている。
「赤外線センサー、光学センサー、レーダー波のどれも、ジャミングされてますね。敵艦隊の規模が、把握できません」
「こっちは、半個艦隊だ。敵の規模が解らない状況じゃ、迂闊に動け……」
「動きましょう、宇宙斗艦長」
時澤 黒乃が言った。
「地球に向け、進路を取ります」
「そ、それだと、謎の艦隊の中央突破をするコトになるんですケド!?」
「解っております、アンティオペー。ですが、元々の目的地は地球でした」
「ですが黒乃さま。余りに無謀な、戦術ではありませんか?」
「そうは思いません、メラニッペー。このまま手を拱(こまね)いていては、ヴィクトリアのコロニー群に対する被害が増えるばかりです」
「なるホド、それは一理ありますね」
「どう言うコトだ、オリティア?」
「敵の狙いが我々だとすれば、我々が動けばヴィクトリアは敵の標的から外れます」
平凡なボクと違い、オリティアはミネルヴァさんの戦術の意図を、瞬時に理解する。
「宇宙斗艦長、構いませんか?」
「そうだな、黒乃。キミの意思に、従うよ」
旗艦(フラッグシップ)であるテル・セー・ウスを先頭に、半個艦隊が鋭利な矢のような陣形を組んで動き始めた。
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