死とは……
死を覚悟した、ボク。
『死』とは……一体、なんなのだろう?
1000年もの間、冷凍睡眠されていたボクは、果たして生きていたのだろうか?
ゲーの巨大な拳が、ボクに向って振り降ろされる。
地球を象徴する異形の女神は、もはやなにも考えていないように感じた。
「宇宙斗、艦長!」
黒乃の声が、聞こえる。
本物の、時澤 黒乃ではない。
容姿が似たミネルヴァさんの、若返った姿だ。
「キミは一足早く……そっちの世界に……」
走馬灯のように、黒乃との山道を登りからの、鉱山へ降りた記憶が甦った。
死神も、それくらいの配慮はしてくれたらしい。
それから身体が砕かれ、脳が激痛を感知した。
だが、それは一瞬で終結する。
ボクの身体は、地球のかつて東京と呼ばれた地で、四散した。
生まれ育った街では無いが、ボクの生まれた国であるのに間違いない。
日本と呼ばれた国は、跡形もなく消滅していたが、その地で死ねることは幸せだったのかも知れない。
~ボクが、死を迎えていた頃~
MVSクロノ・カイロスの艦橋で、深淵の宇宙に煌めく星々を見つめる少女がいた。
少女はクワトロテールの栗色の髪をしていて、子供っぽい顔を曇らせていた。
「オイ、どうしたんだ、セノン。さっきから、ため息ばかりじゃないか」
サファイアブルーの短髪に、ターコイズブルーの瞳をした少女が、背中から話しかける。
「マケマケ……別に、なんでも無いのですゥ」
「そっか。ならイイんだケドよ?」
踵を返すマケマケの前に、2人の少女が立っていた。
「さっきからじゃない。ここんトコ、ずっと……」
「真央はやっぱ、鈍いよね。そ~いうのさ」
呆れ顔の、2人の少女。
「な、なんだよ、ヴァルナ、ハウメア。アタシだって、セノンのため息の理由くらい、ちゃんと解ってんだぜ。宇宙斗艦長のコトが、心配なんだろ?」
「これは意外!」
「まさかガサツで短絡的なアンタが、理解してただなんて!?」
水色のセミロングの髪に青緑色の瞳をしたヴァルナと、茶色いドレッドヘアに褐色の肌、太い眉にモスグリーンの瞳をしたハウメアが驚く。
「うっさい。失礼だな、オメーら。人を、なんだと思って……」
「確かに、宇宙斗艦長のコトは心配!」
「わたしら、艦長が助けてくれなかったら、死んじゃってたしね」
「話を逸らすな、話を!」
「アハハ、マケマケ必死過ぎィ!」
「うっせ、セノン!」
3人のオペレーター娘は、セノンに笑顔が戻ったコトに安堵する。
「そう言えばお前、髪飾りを替えたんだな?」
「あ、これですか。実はおじいちゃんに、貰ったんですよ」
セノンは、クワトロテールの1つに付けられたハート型の髪留めを、大事そうに撫でながら答えた。
「それ、鈍すぎ……」
「けっこー前から、替えてるよ。やっぱ真央は、真央だね」
「アレ、マジで。ゼンゼン気付かな……や、気付いてたし!」
笑いが、少女たちの会話に花を添える。
「実はこれ、おじいちゃんを未来へ導いた女性(ひと)の、形見なんです」
「え、そうなのか!?」
「未来へ導いた、女の人……」
「それはまた、複雑な代物だねェ」
「出会って直ぐに、プレゼントされちゃいました」
ニコッと笑う、セノン。
けれども何処か、陰りのある笑みだった。
「お前、やっぱ地球に行きたいのか?」
真央が、問い掛ける。
「真央、なに言ってる?」
「クロノ・カイロスは動けないんだよ。マーズが支配する、火星に監視されてるからね」
「行きたい。わたしが行っても、役立たずなのは解ってる。でも!」
「真央が、余計なコト言うから!」
「火に油そそいじゃったじゃない!」
相変わらずの呆れ顔で、顔を見合わせるヴァルナとハウメア。
「仕方ないな……」
「アンタらだけじゃ、心配だしね」
「そ、それじゃあ、2人も!?」
栗毛の少女の顔が、可愛らしい笑顔になった。
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