ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・86話

舞い戻った女神

「あ、あそこだよ。ボクのオリジナル!」
 バル・クォーダのコックピットの中で、群雲 美宇宙(みそら)が叫んだ。

 無数の星が煌(きら)めく全天の宇宙に、漂うゼーレシオン。
それは、プラネタリウムで小さな星を見つけるよりも、困難な作業だった。

「こんなダダッ広い宇宙で、よく見つけられたな」
 プリズナーが、美宇宙の頬っぺたをつまんで、左右に引っ張る。

「ホントですよ。救難信号すら出してないのに、よく解りましたね」
 並行するテオ・フラストーのパイロットである、メルクリウスさんも美宇宙を褒めた。

「ホレホロレモ……って、いつまで引っ張ってんだい。痛いじゃないか!」
 美宇宙が、プリズナーの手を跳ね除ける。

「ギャハハ。オメーに、バル・クォーダ任せてやってんだ。多少は本体イジっても、イイだろ?」
「イイワケ無いでしょ。んモウ!」
 美宇宙はコミュニケーションリングにて、バル・クォーダと1体となっていた。

「ですが宇宙斗艦長は、どうして救難信号を出さなかったのでしょう?」
「さあな。ゼーレシオンの救難システムに、ダメージでもあったんだろ」
 プリズナーは、美宇宙の後頭部を眺めながら、大きくアクビをする。

「それより、ブラックホールが消滅したって、ホントなのかな?」

「バルザック大佐は、観測者として名を馳せた方です。消失の原因は解りませんが、ネメシスは元々存在自体があり得ない、ブラックホールでしたからね」

「……ンなコトより、さっさと艦長を救助して、コキュートスに追い付かなと、太陽系の最果てで置いてけぼりを喰らっちまうぜ」
「それもそうですね。では、急ぐとしましょう」

 バル・クォーダと、テオ・フラストーが、ゼーレシオンに接近して来る。

 ミネルヴァさんを救えなかった自責の念と、彼女を失った喪失感でいっぱいのボク。
1000年前のように、ゼーレシオンのコックピットの中で、膝を抱えて丸まっていた。

 ~その頃~

 地球でも、ボクと同じ様に、自責の念にかられる少女が居た。

「おじいちゃん……ゴメンなさい。わたしは、みんなを護れませんでした……」

 彼女は、真珠色の巨大イルカ(アフォロ・ヴェーナー)へと続くタラップの途中で立ち止まり、大勢の人間が亡くなったドームを見上げる。

「どうした、セノン。行くぞ」
 彼女の親友が、背中から声をかけた。

「マケマケ……わたしが、もっと上手くやってれば……」
 今にも泣き出しそうな、栗色のクワトロテールの少女。

「そりゃ、人間にはムリってモンさ。アタシだって、たくさんの選択肢があったハズだ。だけど、最善の選択を選んだのかと言われれば、違うと答えるよ。アタシらは、神サマじゃ無いんだからさ」

「うん、真央の言う通り……」
「セノンは、よくやったよ。水を手ですくっても、零れてしまう水だってある。救えなかった人たちには申しワケ無いケド、セノンが救った命もたくさんあると思うよ」

 ヴァルナとハウメアも、栗毛の少女を慰めた。

「貴女たち、早くアフォロ・ヴェーナーに入りなさい。隕石の雨が止んだとは言え、このセノーテも脆(もろ)くなっているわ」
 巨大な真珠色のイルカの中から、トゥランの声がする。

「行こうぜ、セノン」
「はい……」
 親友に促(うなが)され、アフォロ・ヴェーナーへと続くタラップを登り始めるセノン。

 その時、巨大セノーテの下にある地下ドッグが、大きく揺れた。

「やべェ、やっぱ岩盤が脆くなってやがる!」
「急いで、セノン……」
「岩でも落っこちて来たら、お終いだよ!」

「は、はいですゥ!」
 真央たちに言われ、慌ててタラップを駆け上がろうとするセノン。
けれども彼女は、天井が空いたドームの中に、眩(まばゆ)い光を見た。

「アレは……」
 光の中に、異形の姿のサブスタンサーが顕(あらわ)れる。

「なにしてんだ、まったく!」
 真央が、強引にセノンの手を引いた。

 直後にタラップが切り離され、激しい揺れの中を真珠色のイルカは、潜水艦ドッグの黒く淀んだ水の中へと潜って行く。
海中のトンネルを抜け、黒い雨が降り続ける海面へと浮上した。

「ミネルヴァさん……地球を……お願いします」
 宇宙へと飛び立つ、アフォロ・ヴェーナー。
そのリビングの中で、栗毛の少女は地球に舞い戻った女神(ミネルヴァ)を想った。

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