幽世の戦い
恐竜なりきる部が、体育館のステージに上がっていた、丁度その頃~
絹絵は街の上空で、千乃 玉忌と戦っていた。
上空と言っても、絹絵は飛行出来るわけでは無く、跳躍によって空中戦をこなしている。
「こっちだけ飛べないんじゃ、ちょっと不利ッスねえ…!」
「狸の小娘ごときが、何が少しなモノかのォ! 九尾には及ばぬが、七尾を持つ仙狐の妾に勝てるとでも思っておるのかえ?」
千乃 玉忌は、禍々しい紫色のオーラを身に纏いながら、空に浮かんでいた。
二人の様子は、道行く人間や、殆どの大人には認識されない。
一部の『霊感の強い者』か、『純粋な子供』で無ければ見れない幽世の次元で戦っているのだ。
「お前には、勝つッス! ご主人サマと約束したッスから!!」
絹絵はジャンプして玉忌に攻撃を仕掛けたが、玉忌は周りを囲んで飛んでいた狐火を一斉照射させて絹絵を撃墜する。
「……自分の能力を見誤り、過信するから死を早めるのじゃ。仙狸になり損ねたのォ?」
千乃 玉忌は、立ち昇る土煙を見下ろして言った。
「なに、言ってるッスか? まだまだこれからッスよ!」
土煙の中から現れた絹絵は、戦国武者の甲冑を身に纏っていた。
「なんじゃ、その姿は? 稚児のチャンバラ遊びかえ」
失笑する玉忌。
兜には狸の可愛らしい耳、腹の甲冑はポコッと出て、お尻にはシッポがぶら下がっている。
「『人間に化ける』のは、お前たち狐には及ばないッスけどね。『物質変化』はアチシたち狸には、得意中の得意なんスよ!!」
絹絵は、太鼓型の巨大ハンマーを『ポン!』と出すと、玉忌に向って跳躍した。
「今度は、こっちから行くッスよ!!」
再び狐火で撃ち墜とそうとしたが、絹絵はハンマーで狐火を砕いて突進する。
「とりゃああああぁァぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
絹絵がハンマーを降り降ろすと、玉忌は驚異的な勢いで地面に叩きつけられた。
またしても巨大な土煙が立ち昇る。
「……ふう、やれやれッス! なんとか勝つことが出来たッス……」
絹絵は額の汗を拭い、体育館に戻ろうとした。
「こ、この妖気はッス!!?」
絹絵は、背後で恐ろしいまでの妖気が立ち昇るのを感じる。
「クククククククク……! 狸風情が、なかなかどうして……愉しませてくれるでは無いかえ?」
土煙の向こうに、巨大な影が浮かんだ。
「……やっと化け狐が……正体を現したッスね!?」戦慄を覚える絹絵。
それは七つの尾を持つ狐の姿となった、玉忌の姿だった。
その頃には、恐竜なりきる部のステージは終わり、体育館の壇上には、お尻に『安全第一』と、『+』マークが書かれた黄色いブルマ姿の、五人の少女が上がっていた。
「アスファルトの歴史は非常に古く、人類最古の文明と言われるメソポタミア文明の頃には、既に防水剤、接着剤としての用途で、天然アスファルトが使われてたんだぜ」
部長の工藤 梢が、現場監督のような仕草で説明をする。
「へー? アスファルトって、そんなに古くからあるんだぁ?」「知らなかったぁ。」
会場からの反応も上々だ。
「日本においても、縄文時代から使われた形跡があって、秋田や青森の遺跡からも出土して……」
渡辺は茶会後半の抹茶を点て終えた後、やはり絹絵のことが気になって仕方なかった。
(いくら何でも遅すぎる。絹絵ちゃん……もし、絹絵ちゃんの身に何かあったら……)
渡辺は、双子に相談した。
「ここをしばらくの間、任せられるかな? オレ、絹絵ちゃんを探してくるよ」
「え? 絹絵は用事じゃなかったんですか?」「まさか迷子とか……?」
「とにかく頼むよ! 茶道部の舞台が始まるまでには、必ず戻るから!」
こっそり体育館を出た渡辺は、渡り廊下に向ったが、そこには既に絹絵の姿は無かった。
「誰も居ない……既に移動した後か? ……どこだ、絹絵ちゃん!?」
渡辺はその後も、絹絵を探しに走り回った。
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