ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第九話

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交通事故

 渡辺が絹絵を探し回っていた頃、絹絵は血まみれで地面に臥していた。

「ククククク……小狸如きに、正体を見せる羽目になるとはのォ? 誉めてつかわすぞェ」
 玉忌は、巨大な狐の姿で眼下の絹絵を見降す。

「……む、無念ッス。ごめん……なさい……ご主人サマ。絹絵は、約束を……」
 絹絵は既に、虫の息だった。

 巨大な姿を現した狐は、全身を青白い炎に包み、七本の尾は天に渦を巻くように伸びる。
「さて、どうしたものかえ? このまま妾が炎で焼き殺してくれようか……それとも……?」

「絹絵ちゃん、どこに行ったんだ!? 返事をしてくれぇー!」
 現実世界で、絹絵を探し走り回る少年。

 狐の耳にも、現実の眼鏡の少年の声が飛び込んできた。
「クク……先ほどの小僧かえ? お前のコトを、捜し周っておるようじゃのォ?」

「……ごっ、ご主人サマ! ご主人サマに……なにを!? ゴホッ、ゴホ!!」
 口から血を吐き、立ち上がることさえままならない絹絵。

「お前は放っておいても、直に死ぬ。じゃが妾は……慈悲深い故のぉ?」
 狐は細く吊り上がった目を、更に吊り上げた。
「最期に、あの小僧が死ぬさまを、お前に見せてやろうと言うのじゃ……」

「なっ!? ……やめる……ッス!?」
 絹絵は、必死に体を動かそうとしたが、言うことを利かない。

「クク……まあそこで大人しく見ておれ。事故に見せかける必要があるで……のォ」
 千乃 玉忌は、その巨大な白い身体をクルリと曲げ、天を駆け始める。

「絹絵ちゃん! どこだ絹絵ちゃ~ん!?」
 絹絵を探す渡辺は、学校の敷地の外にまで捜索範囲を広げていた。
横断歩道を渡ろうとする渡辺の前に、一台のトラックが迫って来る。

「ご……ご主人……サマ!? 逃げ……て……!!」
 運転手はブレーキを踏み、トラックは渡辺の前で停止する筈だった。

「クククク……その重そうな荷を、妾が押してやろうぞ!」
 真っ白な狐は、トラックの荷台に体当りをする。
 バランスを失ったトラックは、横断歩道の横の電柱を薙ぎ倒した。

「ウワアアアあぁぁぁあぁあーーーーーーッ!!?」
 電柱は、渡辺の頭上に向って一直線に倒れ、辺り一帯に轟音が轟く。

 トラックはそのまま、街路樹に突っこんでやっと停止した。
しばらくすると、倒れた電柱の下から大量の血が滲む。

「ご主人サマアアァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
 絹絵の悲痛な叫びも、狐の耳には心地よく響き渡った。

「さて……妾もそろそろ、あの男の元に行ってやらねばのォ?」
 幽世の世界の狐は、絶望する絹絵をあざ笑いながら、その姿を変える。
「あの男、自らが最も無能であることに気付きもせん……利用価値の有る人間じゃ」

 狐は、醍醐寺 草庵の経営コンサルトである、千乃 玉忌の姿に戻る。
「既に彼奴の会社……醍醐寺の株式は、四十八パーセントが妾のモノ……彼奴を憎む重役どもがから、合法的に買ったモノじゃ……」

 千乃 玉忌は、現実世界へ戻ると、瀕死の絹絵を置いて草庵の元へと戻って行った。

「……ご、ごめん……なしゃ……い!!? アチシは結局……ご主人サマを……死なせて……」
 絹絵は薄れ行く意識のなかでも、大粒の涙を流し続けた。

 気を失った彼女は、やがて光に包まれる。
光が消えると、一匹の狸と、割れた『淡い翡翠色の茶碗』が草むらに現れる。

 瀕死の狸は、一人の医者によってその場から連れ去られ、茶碗の欠片だけがその場に残された。
(茶碗の欠片は、やがて二人を探しに出た双子姉妹によって、発見されるコトとなる)

 電柱の倒壊した現場には、人だかりが出来ていて、焦燥し切った表情のトラックの運転手がスマートフォンを使って、警察や消防に連絡を取っている。

 だが、この時点では事故の情報は学校には伝わらず、皮肉にも大茶会は順調に進んでいた。

 

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