皇女と後見人
出立の前に、レーマリア皇女は、王であり曽祖父でもある老人に対し、王都を立つ報告をした。
「……フラーニア共和国の方々、それに……カーデリア。どうか、我が不肖の曾孫娘を護ってやって……下され。それから、お前には……これを……」
王は病によってり震える手で、一振りの刀をレーマリアに手渡す。
それは、ヤホーネスの王権の象徴であり、絶対的な権力の象徴でもある『刀』だった。
「ワシはもう……永くは持たんじゃろうて。プリムラーナ将軍……どうか、これの後見人となっては……下さらぬか?」
「御意、わたくしの祖国と自由の名にかけて……」
女将軍は、静かに頷いた。
王は安心したのか疲労で眠ってしまい、一同は王の間を出る。
「それでは、出立致しましょう。砂漠で傷付いた魔王を乗せる牛車も、用意させました」
神澤・フォルス・レーマリア皇女が、後見人となったプリムラーナに視線を送る。
プリムラーナが城の窓から城下を眺めると、城門の前で巨大な牛車が控えていた。
「皇女様には、危険なイティ・ゴーダ砂漠を迂回するルートを進んでいただきます。魔王の回収は、我が部下二人に当たらせましょう」
「ですが……フラーニアの方々に、これ以上ご迷惑をおかけするワケには……」
「わたしは、貴女様の後見人を仰せつかったばかり。危険にさらすような真似はできません」
「わ、わかりましたわ。宜しくお願いいたします」
レーマリアは、麗しき女将軍・プリムラーナに、深々を頭を下げる。
「わたしと、カーデリア殿、アーメリアとジャーンティで、皇女殿下の乗った馬車を護衛する。ジーンベルとルールイズは、魔王の回収を任せる!」
皇女レーマリアの乗った馬車は、プリムラーナ自身とカーデリア、それにアーメリアとジャーンティの護衛の下、ニャ・ヤーゴへと向かう。
「それにしても、砂漠で魔王の回収とは……」「牛さん、足遅いのです~!」
別働の魔王回収部隊として、プリムラーナと共に来た『ジャーニア・ジーンべル』と、『ルールイズ・フェブリシアス』が、牛車隊を率いることとなった。
その頃、ニャ・ヤーゴでは久しぶりに『因幡 舞人武器屋』が店を出していた。
「さあさ、みなさま寄ってくモ~ン♪」「色んな武器が、なんと通常の二割引だモン!」
「今ならなんと、こちらの石鹸もつけちゃうモ~ン!」「出血大サービスだモ~ン♪」
店は『元・富の魔王』である、レモン色のショートヘアの四人によって客が呼び込まれる。
「こっちは、大きな剣だモン!」「ナマクラだケド、今なら砥石をつけるモン♪」
「現在、ポイント二倍キャンペーンだモン!」「買わないと、後悔するモン!」
サーモンピンク色の、ミディアムヘアの少女たちも、頑張って商品を売りさばいている。
「な……なんか、スゲーな、お前たち。いわく付きの商品が飛ぶように売れてるぞ!?」
舞人は、見た目が十歳くらいにしか見えない少女たちの、販売能力に驚く。
「当たり前だモン!」「商売の基本は、お客様に満足してもらうコトだモン」
「欠陥品はまだ、直す手段といっしょに売れるモン」
「でも、呪われた装備は闇の者にしか売れないのが、厳しいトコだモン?」
八つに別れた富の魔王のうち、レモン色のショートヘアの、アイーナ、アキーナ、アミーナ、アリーナが言った。
「でも、殆どは借り入れして買った、真っ当な商品だモン」
「お金を借りて、ちゃんとした商品を仕入れて売ってるモン」
サーモンピンクのミディアムヘアの、マイーナとマキーナが言った。
舞人の隣で、漆黒の髪の少女が心配そうな表情を浮かべる。
「お前たち……借金などして、本当に大丈夫なのかえ?」
「ご主人サマ……借金じゃなくて、借り入れって言って欲し~モン!」
「それに、もう元は取ってるから、あとはジャンジャン稼ぐだけだモン♪ これが帳簿だモン」
マミーナとマリーナが、帳簿を差し出す。
帳簿を見せられても、チンプンカンプンな舞人とルーシェリアは、武器屋の屋台を八つ子たちに任せて、宣伝用のビラを撒く作業に移った。
前へ | 目次 | 次へ |