連鎖する悲劇
「パレアナが……死んだ?」
ニャ・ヤーゴの街外れにある小さな教会で、蒼い髪の少年が呟いた。
「ああ……そうだ」
赤い髪の少女は、顔を伏せながら頷く。
王都での戦いから、数日が経っていた。
「ウ、ウソでしょ?」
「残念だが、本当だ……」
「申し訳ございません、因幡 舞人!」
金髪の少女が、荒れた聖堂の床に額を擦りつけ土下座をする。
「なんで、皇女殿下が……」
「パレアナは、サタナトスの刃からわたくしを庇い、命を落としました。今、わたくしがのうのうと生きていられるのは、彼女のお陰なのです」
「そんな……そん……な」
少年は、幼馴染みの少女が、そう行動してしまうコトを知っていた。
彼の瞳から、熱い涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「シャロリュークさんが付いていながら、どうして!?」
けれどもそこに、彼が憧れた英雄の姿は無かった。
英雄を少女の姿に変えたのは、自分自身であるコトを思い出す。
「我らが遅れを取ったのが、原因だ。心から詫びよう」
四人の少女騎士を従えたプリムラーナ女将軍が、床に伏せる皇女に歩み寄る。
皇女の替わりに、非難され罵倒される覚悟だった。
「今は……誰かの責任を問うても、詮無きことよ。パレアナの死を、悼んでやろうぞ」
ヒザを付いた少年の蒼い頭を、漆黒の髪の少女が撫でる。
「パ、パレアナのヤツ、お節介で、世話焼きで、いつも誰かのコトばかり考えて……」
「そうじゃったの。優しい娘であったわ」
「アイツが死ぬなんて……あり得ない……」
パレアナが死んだ現実を、受け入れられない舞人。
「ヤホーネスの王都は、サタナトスが召喚した魔王によって蹂躙され荒廃してしまいました」
その情報をニャ・ヤーゴにもたらした、ナターリア・ヒルデブラント、オベーリア・シンディーネ、ダフォーリア・ケイトファルスの三人の侍少女は、皇女に寄り添った。
「レーマリア皇女殿下は、自らも曾祖父である王を亡くされました」
「王都にいた大勢の知人も、失ってしまわれたのです」
皇女の側近となった三人は、プリムラーナの計らいで皇女と湯を共にする。
裸で皇女と触れ合った少女たちには、レーマリアに対する忠誠と親愛が生まれていた。
「それでもレーマリア皇女殿下は、女王として国を背負い立ち上がらなければならない」
女将軍は手を差し出し、皇女を抱き起こす。
「シャロリューク様の力が抑えられた今、サタナトスの脅威に立ち向かえる力を持ったアナタの力、貸してはいただけませんか?」
毅然とした皇女の問いかけにも、蒼い髪の少年は返事をしなかった。
「因幡 舞人よ。今すぐに立ち直れなどとは言わん」
プリムラーナは、肩に手を掛けた皇女と共に少年に背中を向ける。
「だが、英雄としてのお前の力が、いずれこの国の未来を救う可能性があると言うコト……肝に銘じておいてくれ」
レーマリアと女将軍は、教会を後にする。
四人の少女騎士と、三人の皇女の側近も後を負った。
「なにが……英雄だ……」
少年は、ガラクタ剣を握りしめる。
「幼馴染みの女の子一人護れないで、なにが英雄なんだぁ!!」
振り上げた剣は、教会を荒らしたオオカミの姿の魔王へと向けられた。
「魔力が無くなる程に無数に切り刻んで、消滅させてやる!」
今の少年に、魔王を女の子へと換え救う気など微塵も無い。
「お待ちくだされ、蒼き髪の英雄さま!」
少年が剣を振り下ろすのを、止める者がいた。
「オ、オメーは確か、魔王城を攻略した時の別動隊の……」
「その説は、ずいぶんと命を助けていただきましたな。クーレマンス殿」
「そ、そいつはいいが、どうしてオメーが、魔王を庇うんだ?」
「攻略の折に話したと思いますが、わたしの妻は王都で王宮魔導士をしておりました」
「そうか……って、まさか!?」
「はい……」
別動隊の隊長を務めた男は肩を落とし、背後の魔王に目をやった。
「わたしがかき集めた情報では、妻は他の王宮魔導士や神官たちと共に、王都でサタナトスの手によって殺され、魔王とされてしまったのです」
前へ | 目次 | 次へ |