新たなる悲劇
「フラーニア共和国の宝剣、『ボナ・パルティア』……」
その美しい容姿に、心を奪われるレーマリアとパレアナ。
剣から放たれる光は、みすぼらしい教会をも神聖なる場所へと換えていた。
「それが噂に聞く光の神剣、ボナ・パルティアか」
うすら笑いを浮かべる、サタナトス。
「本来であれば、天下七剣に数えられておかしくない能力だと聞くケド?」
「余裕でいられるのも、今のうちだ」
プリムラーナの右に展開した、アーメリアが言った。
「イヤイヤ、これでも興奮しているんだよ……」
サタナトスは、両腕にそれぞれ剣を握った。
「フラーニア共和国の聖剣を、ボクのコレクションに加えられるんだからね」
「シャロリュークさまのエクスマ・ベルゼも、お前は!」
女将軍の左に控えるジャーンティが、表情を歪める。
「あのコは、キミらと同じくじゃじゃ馬でね。中々言うコトを聞いてくれないんだ」
「ならば、返して貰うまでだ」
「油断しないで。ヤツの剣に刺されれば、プリムラーナなら魔王にされてしまうわ」
ジャーニアが、自軍の部隊長に注意を促した。
「それにヤツのもう一つの剣は、蜃気楼の剣士・ラディオさまの……」
「幻影剣・『バクウ・ブラナティス』だな」
忠告を受け取った、プリムラーナの表情が強張る。
「そう言うコトさ」
サタナトスは挑発するように、五人の少女騎士の目の前で空間を斬り裂いた。
「そんなあ。それじゃ、わたしの聖盾剣・『パシィル・ヴァール』の絶対防御も……」
「空間を切り裂く剣の前では、意味がないようだ」
「ボクはいつでも、死角からキミらの命を奪えるのさ」
金髪の少年は悠然と、次元の裂け目へと身を隠す。
……と同時に、教会の聖堂に、無数の次元の狭間が浮かび上がる。
「つまりキミたちは、いつ次元の狭間から顔を出すか解からないボクに怯えながら、魔王と戦闘を行わなくてはならない」
『ギャオオオオォォォォーーーーーーーーッ!!』
巨大な狼の咆哮が響き、黒いブレスが辺り一面を霧のように覆う。
「マ、マズイですよ、プリムラーナ。このままでは……」
「解かっている。一瞬で、カタを付けるしかあるまい!」
皇女の元を離れ、宝剣を両腕で天に振り上げる女将軍。
「邪悪なる魔族の王よ、光の渦に飲まれるがいい……」
眩い光が剣に集中し、魔王が生みだした黒い霧を吹き飛ばす。
「『ボナ・パルティア』ッ!!!」
巨大な閃光の柱が、魔王『マルショ・シアーズ・フェリヌルス』の上へと降り注いだ。
「や、やったのか?」
「魔王は確かに、光の渦に飲まれた!」
警戒をしながらも、光が収まるのを待つアーメリアと、ジャーンティ。
『グルル……』
少女たちの耳に、獣が喉を鳴らす音が聞こえた。
「い、生きている!?」
「ボナ・パルティアの閃光の直撃を喰らって……ナゼ?」
「み、見てください。狼の真上に、巨大な次元の裂け目がッ!?」
ルールイズが指さす先には、巨大な異空間が口を開け存在していた。
「絶対防御は、キミの専売特許じゃないよ。おチビちゃん」
「う……うう、です」
意気消沈の、ルールイズ。
「そして、ボクの『真の狙い』は、キミじゃ無いのさ……プリムラーナ」
「なん……だと!?」
女将軍は咄嗟に、皇女殿下の安否を確認する。
目的が自分では無いとすれば、部下である可能性も低いからだ。
「レーマリア皇女!!」
「……え?」
皇女の背後に次元の裂け目が現れ、そこからサタナトスの上半身が姿を見せる。
「し、しまった。ここからでは……」
「間に合わない!!」
「ジャーニア、狙撃を……」
「……ああ……」
プリムラーナやアーメリアたちが、一斉に部隊の狙撃手を見るが、彼女の前には狼の姿の魔王が立ちはだかっていた。
「気付くのが、少しばかり遅かったみたいだね」
華奢な背中に、紫色の刀身の剣が、今まさに突き立てられようとしている。
「我が魔晶剣、プート・サタナティスの刃を受けて、魔王と化すがいい!」
……その時だった。
「あ、危ない、皇女さまッ!」
レーマリアの身体が、栗毛の少女の手で弾かれる。
「な、なにィ!?」
「きゃああぁぁぁああぁぁぁ!!」
刺し貫かれたのは、シスター見習いの少女、パレアナだった。
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