商売の基本
「しっかし、アレじゃのう。富の魔王だけあって、金を稼ぐ能力がハンパ無いのォ?」
魔王であった頃の主でもある、ルーシェリアも関心する。
「確かにな。景品やポイントカードのアイデアも、凄いよ」
「それにキャンペンガールも……ね」
パレアナが視線を送った先には、ネリーニャとルビーニャの双子姉妹が、ウサ耳カチューシャにバニー服の格好で、看板を持って客の呼び込みをやっていた。
「なんで、我らがこのようなはしたない格好で……!?」
「屈辱的! 覚えておれ……八つ子のアホども!!」
無愛想な二人ではあったが、客の寄り付きは悪くない。
「そこ、チャキチャキ働くモン!」「お客さんが逃げちゃうモン!」
「働かざる者、喰うべからずモン!」「サボってたら、ご飯あげないモン?」
「それにお客さんの前では笑顔でモン!」「接客は満面の笑顔が一番モン!」
「もっと色っぽく振る舞うモン!」「って言っても、無理かモン?」
「おのれ……!?」「言わせておけば!?」
「おッ、なんか可愛いコが呼び込みやってんなあ?」
お客から声がかかったので、仕方なく双子は引きつった笑顔を見せる。
「……そんじゃちょいと、ナイフの一つでも買ってってやるかな!」
「へー、ネリーニャちゃんに、ルビーニャちゃんっていうのか?」
「オレ、この斧貰うよ」「じゃあオレは、こっちの弓だ」
客の予想外の反応に、ネリーニャとルビーニャは顔を見合わせた。
「なんか……意外と商売も面白い気もする?」
「と、当然少しだけだが……な」
商売は大いに賑わい、昼を過ぎた頃には在庫を切らした商品が出始めた。
「ねえ、舞人。もう商品が無いよ!」
「マジで? それじゃあそろそろ、店じまいを……」
「これはマズイモン!」「ご主人サマのご主人サマ。買い付けに走るモン!」
「ええ、まだ売るの!?」「売れそ~なときに売るモン」「さっさと行くモン!」
舞人は昼ご飯を食べる間も無く、隣町まで武器の買い付けに走らされる。
「な……なんでボクが、こんな目に!? アイツら、ルーシェリアのコトは尊敬してるみたいだケド、ボクのコトは召使いくらいにしか思ってないんじゃないのか!?」
文句を言いながらも、レンタルした荷馬車を走らせる舞人。
なんとか買い付けた武器を荷馬車に載せ、ニャ・ヤーゴへ帰ったときには三時を過ぎていた。
「もう、何やってるモン!」「遅すぎモン!」「せっかくの商機が台無しモン!」
「それに、高く買い過ぎモン!」「向こうの言い値で買って、どうするモン!」
「もっと値切って安く仕入れるモン!」「商売の基本モン!」「困ったもんモン!」
苦労して買い付けに行った挙げ句、幼い外見の八つ子にこっ酷く叱られる少年。
「……とんだブラック企業だよ、全く!?」
「そこの主が、なに言ってるモン?」「でも、とりあえず商品は補充されたモン!」
「食べ物の屋台に人が流れる夕暮れまでが勝負モン!」
「さあ、ご主人サマのご主人サマも、まだまだ仕事がモン?」「アレ……いないモン?」
舞人はルーシェリアを連れて、街の外へ逃走を計っていた。
「ヤレヤレ、参ったよ……アイツら商売のこととなると、悪魔みたいに……厳しいんだから」
「まあ……ついこの間まで……『悪魔』じゃったからのォ」
二人はかなりの距離を走ったので、息が上がっていた。
それが落ち着くと、自分の右手がルーシェリアのか細い左手を強く握っていることに気付く。
「アッ……ごめん! 痛かったか、ルーシェリア?」
「い……いや、別に……なのじゃ!?」
不意に謝罪をされた少女は、顔を赤らめて俯いた。
「フ、フンッ! 妾は魔王なのじゃぞ。これくらい、なんとも無いわ!」
漆黒の髪の少女は、その場を誤魔化す為に怒った振りをする。
「そっか? ならいいケド」
舞人は、そんな彼女の心境に気付くこと無く歩を進めた。
「……!?」
うしろを歩くルーシェリアは、片方の頬を大きく膨らませている。
「ん? なに怒ってんだ?」
「……だから、ご主人サマは『間抜け』と呼ばれるのじゃ!!?」
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