人間とは……
「ヤレヤレじゃ、完全に劣勢ではないか。これは困ったのォ、ご主人サマよ」
ルーシェリアは、サタナトスに注意を払いながらも、ベク・ガルの向こうで巻き上がった土煙を見た。
「フフフ、やはりその『能力』を、使うほか無かったようだね」
サタナトスのヘイゼルの瞳も、漆黒の髪の少女の紅い瞳と同じ対象を写す。
「ざ、残念だケド……今のボクには……もうこれしか……ガアッ!」
土煙が晴れると、そこには黒いオーラを纏った蒼い髪の少年が立っていた。
けれども少年は、苦しそうに胸を押さえている。
「ダ、ダーリン。その能力(ちから)は、使っちゃダメだって!?」
「なに余裕ぶっこいてるっしょ。お前の相手は、このペル・シアっしょ!」
舞人を心配する、スプラ・トゥリーに、襲い掛かる黄玉の魔王。
シドンとベリュトスも、それぞれの相手に完全に押され、舞人を助けるどころではない。
「サ……サタナ……トス、お前さえ……倒せば!」
漆黒の闇に意識を支配されそうになるのを振り払い、舞人はサタナトスに向かって突進する。
『グハハ、小童が、やらせはせぬ!!』
舞人の前に立ちはだかった、大魔王ダグ・ア・ウォンが4本の腕で竜巻を繰り出した。
「こんな……モノォォ!!!」
黒いオーラを放つガラクタ剣が、4つの巨大竜巻を両断する。
「パ、パレアナが……生きていたんだ。絶対に……取り返す!!」
『グハハ、身のホドを弁(わきま)えぬ小童だ。周りを、よく見てみよ!』
偉大なる蒼きドラゴンは、戦闘態勢を解除し4つの腕を組んでいた。
「な、なんじゃ……斬られたと思った竜巻が、1つの巨大な竜巻になっておるのじゃ!?」
「ぐッ……うわあッ!?」
巨大竜巻にシェイクされ、空中高く舞い跳ぶ蒼き髪の少年。
「舞……人……」
その時、クシィ―と名を変えた栗毛の少女の瞳に、ほんの一瞬輝きが戻る。
少女を手をかざすと、それだけで巨大竜巻が四散した。
「ガハッ!!!」
竜巻が消えたコトで、落下し地面に叩きつけられる舞人。
ジェネティキャリパーで身体が強化されていなければ、危ない高さだった。
「へえ。キミたちって、そう言う関係だったんだ?」
金髪の少年が、天使のように涼しい顔でパレアナを見る。
けれども栗毛の少女は、元の無機質な表情に戻ってしまっていた。
「因幡 舞人……考えてみれば、キミやルーシェリアと最初に出会ったのは、ニャ・ヤーゴとか言う街の近郊だった」
「あの時は、妾がキサマの腕を、切り落としてやったがの」
会話を引き伸ばし、舞人が回復する時間を稼ごうとする、ルーシェリア。
「シャロリュークを完全なる魔王にしてやるつもりが、とんだ邪魔が入ったモノだよ。ま、その教訓が、海皇を大魔王にするとき活きたケドね」
「クッ……ソ。悪党が、学んでんじゃねェよ」
瓦礫から立ち上がった、バルガ王子が言った。
「キミも、まだ生きていたのかい。死ぶといね」
「テメーを倒すまでは、オチオチ死んでられねェからな」
「まあいいさ。話を、戻そうじゃないか」
「確かご主人サマと、パレアナの話じゃたの」
嘯(うそぶ)く、ルーシェリア。
「あまり気に留めてなかったケド、キミのご主人ってのはニャ・ヤーゴの出身なんだ」
「そうじゃの。妾の城も近くで、のこのこ退治に来よったわ」
「そしてボクは、クシィーをニャ・ヤーゴの教会から奪った。つまりキミたちは……」
サタナトスは、蒼き髪の勇者に視線を移す。
「ボクとパレアナは……孤児で……お前の襲った教会で育った幼馴染みだ」
「へえ。ボクとキミは、境遇が似てるねえ」
「お前の故郷の村を探って……ボクもそう思った。ボクだって孤児だから……お前の気持ちが……少しはわかる」
魔剣に意識を支配されないよう、争(あらが)いながら話す舞人。
「キミらは、孤児であっても人間だろう。ボクは魔族として、人間どもを滅ぼすつもりでいる」
「キサマとて、人間の血も流れておろうに」
「だからさ。ボクの中に流れる人の血が、そうさせるんだよ」
「人は……争うだけの生き物じゃない!」
「いいや。争うだけの生き物さ。血に飢え同族を騙し、理想とやらの旗の元で、互いに殺し合うのが人間なんだ」
主張を曲げない2人の少年は、互いの剣を抜き身構えた。
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