魔王パーティー
「シャロリューク様、申し訳ありません。ですが、今のヤホーネスには英雄が必要なのです」
レーマリア皇女殿下が、赤毛の少女に深々と頭を下げる。
「気にすんな、気にすんな。オレも、異存はね~よ」
「みんなの裸を覗いたクセに、偉そうなのよ!」
カーデリアに頬をつねられる、小柄になってしまったシャロリューク。
「私は、年老いた王の代理として、このニャ・ヤーゴの地に参りました。それは『因幡 舞人』……貴方を、『遊撃騎士団長』に任ずる為なのです」
レーマリアは、舞人と同じ十五歳の少女であるにも関わらず、王族の威厳を携えていた。
「ええッ。遊撃騎士団長って、シャロの正式な勲位じゃない!?」
「確かにオレたちゃ、『覇王パーティー』なんて呼ばれちゃ~いるが、正式的には『ヤホーネス遊撃騎士団』って名だからなあ。六人しか居ね~ケドよ」
「そんなことはどうだっていいわ、クーレマンス!」
パッションピンクの髪の少女は、筋肉男をいとも簡単に制する。
「レーマリア。シャロが力を失ったからって、簡単に爵位を剥奪するなんて酷いわ!」
「シャロリューク様の爵位は、既に恒久的な物です。剥奪など致しません」
「え? あッ……ごめんなさい。わたしったら……」
カーデリアは、自分の勘違いに顔を赤らめる。
「私の方が言葉足らずでした。私は『因幡 舞人』に、『新たなる遊撃騎士団の団長』になっていただきたいのです。そのコトは、王都を立つ前から決めておりました」
「フッ。年若くして、中々に聡明でいらっしゃるな。レーマリア皇女殿下は」
この一件で、王より後見人を仰せつかったプリムラーナ女将軍は、皇女をいたく気に入る。
「ヤホーネスが皇女・『神澤・フォルス・レーマリア』が王の代理として命じます」
皇女は、王より授かった伝来の刀を抜き、舞人の肩に当てた。
「『因幡 舞人』。此れより貴方を、正式な『ヤホーネスの『遊撃騎士団長』に任じます」
「つ、謹んで、お……お受けします」
皇女の前で片膝をつき、頭を垂れる蒼い髪の少年。
(ボクが、ヤホーネス遊撃騎士団の団長……?)
彼が子供の頃から、何度も夢に見た憧れの存在。
(シャロリュークさんと同じ、英雄……なのか!?」
だが、いざ本当に自分が『救国の英雄』とされたとき、その『責任の重さ』を実感せずには居られなかった。
「『ルーシェリア・アルバ・サタナーティア』……貴女を副団長とします。どうか、騎士団長を助けてあげて下さい」
「良いのか、人間の皇女よ。妾は元・魔王なのじゃぞ?」
「ですが今は人間であると、お見受けいたしました」
皇女の言葉は、ルーシェリアを信頼しているという証だった。
「『副団長』とは、納得出来ぬ部分もあるが……頼りない騎士団長サマじゃから、仕方ない。助けてやるとするかのォ」
その後、ネリーニャとルビーニャの双子姉妹や、アイーナ、アキーナ、アミーナ、アリーナ、マイーナ、マキーナ、マミーナ、マリーナの八つ子姉妹にも、遊撃騎士団員の位が与えられる。
「何故に、邪神たる我らが……」
「この様な『間抜け』の下に就かねばならん?」
白い髪にオレンジ色の瞳の双子姉妹が、不満を口にした。
「あらぁ~だモン?」
「ひょっとして勲功を上げる自信が無いモン?」
「無能は、とっとと失せるモ~ン♪」
「フッ。我らがキサマら如きアホに……」
「遅れを取るハズがなかろう?」
八つ子の言葉にプライドを傷付けられた双子姉妹は、挑発に乗せられてしまう。
「それから騎士団の本拠地は、この『ニャ・ヤーゴ』の街外れにある教会とします」
「ええッ、ウチの教会ですかぁ!?」
皇女殿下の言葉に、悲鳴のような声を上げる栗毛の少女。
「騎士団のバックアップは、お願いしましたよ……パレアナ」
「は……はいッ。お、お任せくニャニャいッた~いッ!?」
思い切り舌を噛んだ少女を見て、皆が笑った。
ここに、蒼い髪の少年を団長とし、かつて魔王だった少女や、邪神と呼ばれていた少女たちを加え、新たな騎士団が結成される。
彼らは後の世に、『魔王パーティー』と呼ばれる事となった。
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