ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第06章・62話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

見殺しにされた7億の民

 ゼーレシオンの大きな瞳が見た、戦場の凄惨な映像(ビジョン)が、ボクの脳裏に映し出される。

 灼熱の炎に包まれた道路を、逃げる大勢の人波。
1000年の時が流れた未来でも、人々は互いに押し退け合い、踏み潰されて死んで行った。

「宇宙斗艦長、これ以上被害の拡大を防ぐには、貴方の部下を投入する他ありません!」
「キューブの数が、多すぎる。どうやったって、こっちの戦力が少なすぎるぜ!」
 メリクリウスさんと、プリズナーが、ボクの娘たちのアクロポリス防衛戦の参戦を望む。

「ダ、ダメだ。アイツらを、危険には晒せない。クーリアを……クーリアさえ止められれば、この戦闘は終わるんだ!」

 ボクは『究極のトロッコ問題』の決断を、先延ばしにした。

 トロッコ問題とは、思考実験の1つである。
その大まかな概要はこうだ。

 暴走したトロッコがあって、その先に4人の作業員が居たとする。
4人はトロッコに気付いておらず、そのままでは4人が確実に死んでしまう。
けれど、トロッコと作業員の間にはポイントがあって、トロッコを退避線に逃がすコトが可能だ。

 アナタは、ポイントを操作できる場所に立っている。
けれども待避線には、1人の作業員が気付かず作業をしていた。
アナタは、ポイントを操作すべきだろうか?

 操作すれば、4人の人命は救われる。
けれども、本来であれば死ぬ必要のなかった1人が、死ぬコトになる。
それは、殺人では無いのだろうか?

 操作しなかった場合、4人の作業員が死んでしまう。
4人は、アナタがポイントを操作すれば助かったハズだ。
アナタは、4人を見殺しにしたのでは無いだろうか?

「こんなコトを……こんなコトをしちゃあ行けない、クーリア!」
 飛翔したゼーレシオンの銀翼が、燃え盛る街の炎で赤く染まる。

 眼下の道路で、幼い男の子がつまづいて倒れた。
直ぐに母親らしき女性が近寄って助け起こすが、2人を炎の渦が焼き払う。
そんな悲劇が、広大なオリュンポス山の裾野に広がる巨大都市の、至るところで発生していた。

「なんで、こんなコトになってる……キミは、優秀で優しい女のコだ!」 
 街に降下し、エッフェル塔のように聳え立つQ・vavaに向って、突き進むゼーレシオン。

 この時のボクは、全く気付いていなかった。
『先延ばしにする』とは、『ポイントを操作しない』のと同じなのだと言うコトを。

 ボクは娘たち可愛さに、7億の民の命を見殺しにしてしまっていた。

「キミは自分の血筋を誇るコトも無く、自分の役割りからも、逃げなかった!」

「そう……でもそれは、周りがわたくしに押し付けた、わたくしの虚像なのです」
 Q・vavaのマントが、再びフォトンレーザーを一斉照射する。

「虚像って……クーリア、キミは!?」
 レーザーの弾幕を掻い潜り、ボクは異形のサブスタンサーに進路を取った。

「本当のわたくしは、逃げたかった。全てを投げうってでも、貴方の傍らに居たかった!」
 今度は、前後左右を覆うマントのパーツの間から生えた、巨大な鎌を持った4本の腕が、ゼーレシオンを斬り裂こうと攻撃を仕掛けて来る。

「でも、そんな我がままを、周りの誰も許してはくれなかったのよ!」
 大鎌が、ゼーレシオンの後ろの高層ビルを、上下に分断する。
裂け目から人々が地上へと落下し、地上では大勢の人間が倒れて来るビルの下敷きになった。

「フラガラッハァッ!!!」
 吹き上がる土煙の向こうから飛んできた大鎌と、斬れぬモノの無い剣が斬り結ぶ。
軍配は、ゼーレシオンに上がり、Q・vavaは4本あった腕の1本を失った。

「確かにキミは、真面目過ぎたのかも知れない。だけど、こんなコトをしちゃダメだ!」
 ゼーレシオンで、更なる接近を試みるモノの、それは残った3本の鎌による連続攻撃で跳ね返される。

 その間にも、ボクのしてしまった決断によって、多くの人命が失われて行った。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第六章・EP037

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

鉄壁の黒蜘蛛

「すまない、千葉。お前にパスを送ろうとも、考えたんだが……」
 ゴールを決めた桃井さんが、千葉委員長となにやら話してる。

「イヤ、まずはチームの勝利を優先すべきだ。お前の判断は、正しい」
「相変わらず、生真面目なヤツだな。だがお前は先パイたちに、後半だけでハットトリックを決めると豪語したんだ。無得点じゃ、終われんだろう?」

「もちろん、終わるつもりは無いさ。相手のキーパーは、伊庭に比べればかなり劣る。ボールさえ入れてくれれば、決めて見せる」
「そうか。ならばボクも、全力でお前にボールを送ろう」

 2人の1年生プレーヤーは、それぞれのポジションに向かって走り出した。

「クッソ……スマンな。オレが、PKを止められたばかりに、カウンターになっちまって……」
「いえ、あのコースを止められたのですから、相手キーパーを褒めるべきでしょう」
 落ち込む紅華さんを、勇気付ける柴芭さん。

「しっかし控えキーパーのクセに、凄まじい反応スピードだったよな?」
「そうでありますな、黒浪隊員。前半の小柄なキーパーも、かなりの反応スピードでしたが、後半のキーパーはそれに加え、手足が長く背も高いであります」

「ですが、出来る限り早く彼を攻略しないコトには、ウチが勝つ術はありません」
「まあな、柴芭。こっちのキーパーは、メタボコーチだからなァ。何点取られるか判ったモンじゃない。こりゃ、骨が折れるぜ」

 ため息を吐く、紅華さん。
中盤にいるハズの雪峰キャプテンが、議論に加わらなかったコトもあり、デッドエンド・ボーイズは大した結論も出さずに、試合を再開した。

 今日、何度目かのホイッスルが鳴り響く。

「やっぱカズマは、ポジションチェンジを伝えてないね。なんで雪峰が、最終ライン下がってるよ?」
 ベンチでは、セルディオス監督が倉崎さんに、怒りをぶつけていた。

「アイツは喋るの、苦手ですからね。ですが今後、こんなシチュエーションの試合もあるかも知れません。アイツらの、対応力に期待しましょう」

「今度は、オレが仕掛ける。行くぜ!」
 ピンク色の長い髪を振り乱し、技巧派ドリブラーが敵陣に斬り込む。

「紅華、キミの進入は許さない。ボランチのボクが止める!」
 桃井さんが、ピンク色の髪を揺らしながら進路を塞いだ。

「そうかよ、ンじゃ抜くの止めるわ」
 紅華さんは直ぐに、桃井さんとの勝負を放棄してボールを左に叩く。

「オッシャ、もっかいワイが、決めたるでェ!」
 左のサイドライン際でボールを受けた金刺さんは、再び相手の右サイドバックを抜く。
今度は中には入らずに、ライン際を切れ込んだ。

「倉崎、相手はあのモモノイってボランチが抜かれると、厳しいみたいね?」
「岡田と1年のツートップは言うに及ばず、仲邨も守備しませんからね。他の中盤の選手も弱いし、彼にかかる負担はかなりのモノですよ」

「倉崎、彼らはそれに気付くと思うね?」
「気付いているからこその、紅華のプレーだと思いますよ」
 メタボ監督の質問に、剣道の面を被った少女が押す車椅子に乗った、倉崎さんが答える。

「なるホド、彼は相手の弱点付くセンスあるね」
 結局のところ、ボクたちがチャンスを作れているのも、紅華さんが相手のウィークポイントを上手く利用しているからだった。

「ほな、センタリングや!」
 金刺さんが、マイナス気味のクロスを上げる。
ゴール前には、紅華さんと黒浪さんが飛び込んでいた。

「……あ!?」
 けれども、上ったボールはあっさりと、伊庭さんにキャッチされてしまう。

「あの高さを、届いちまうのかよ!」
「このキーパーやっぱ、守備力ハンパ無いぞ!」
 ボールを受けれなかった2人のドリブラーが、互いに顔を見合わせ嘆いた。

「来い、伊庭!」
 前線で、千葉委員長が手をあげた。

「マ、マズイで、またカウンターや!?」
「こんな弱点の無いキーパー相手に、これ以上得点されたら……」
「グダグダ言って無ェで、いいから戻れ、駄犬!」

 今度は金刺さんも、黒浪さんも、紅華さんも、必死に自陣に向って走っている。

「ウス……!」
 黒蜘蛛キーパーのパントキックが、大きく空へと舞い上がった。

「ア、アレ……?」
 荒れたグランドの隣に併設された、立派な野球場の方を見る黒浪さん。

 伊庭さんの蹴ったボールは真横に跳び、並木道を超えて野球場の方へと転がって行った。

 前へ   目次   次へ 

ある意味勇者の魔王征伐~第11章・48話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

パーティーの力

 深海の宮殿から、巨大ドームまで続く大魔王の作り上げた道。
宮殿まで僅かな距離まで辿り着いた、海皇パーティーと舞人たち一行だったが、あと1歩のところで行く手を阻まれていた。

「これでよしっと。王子の友だちの手足の傷口は、ボクのアス・ワンの触手で塞いだよ」
「サンキューな、スプラ。恩に着るぜ」
 応急処置を施されたアラドスを抱え、礼を言うバルガ王子。

「ねえ、ホントにキミ1人で、だいじょうぶなの。あのライオンたち、この人の手足を一瞬で喰い千切ったんだよ?」

「なんじゃ、イカの小娘よ。妾の身を、案じてくれるのかえ?」
 漆黒の髪の少女を取り囲んでいた、金属のライオンや狼たちが、周囲をゆっくり歩きながら飛び込む間合いを伺っていた。

「そ、そんなんじゃ……ボク的には、キミが死んじゃった方が助かるしね」
「素直では無いのォ。まあ良いわ」
 1人だけ一行の輪から離れていたルーシェリアは、黒いオーラが集まった球体を上空へと移動させる。

「妾の剣は、どうやら皆を巻き込んでしまう、恐れのある剣じゃからな」
 漆黒の髪の少女は、イ・アンナと銘打たれた剣を振り降ろした。
黒い球体が、ルーシェリアの周囲を駆け巡る。

『ガルル……』『クオン!』
 黒い球体が頭上を通過したライオンや狼たちは、次々に四肢を屈し、やがてその身体までもが完全に圧し潰された。

「ス、スゴイ。ライオンや狼たちが、ペチャンコになっちゃった!?」
「ルーシェリアの剣は、重力を操れるみたいだね」
「ねえ、ダーリン。重力ってなに?」

「重力ってのは、この星が上にあるモノを引っ張ったりする力で、例えばスプラが重たいのも、重力があるからなんだ」
「失礼な、ボクは重たくないよ!」

「蒼き髪の勇者……因幡 舞人と言ったな。だが今は、結果を論じている場合では無い」
 バルガ王子の参謀である、シドンが注意喚起する。

「そうだな、シドン。上空には、まだ怪鳥の魔物が旋回してやがる。アラドスがまだ、しぶとく生きているうちに、先に進みたいところだが……」

「あの怪鳥どもが、いつ襲って来るかわかんないってコトかァ」
「イ・アンナの攻撃も、あの高さまでは届かぬしのォ」

「でもキミ、飛べるじゃん」
「この剣は、まだ慣れておらぬでのォ。飛んでおっては、集中が出来んのじゃ」

「スプラ、お前の触手で絡め捕れ無ェのか?」
「ちょっと無理かな、王子。アス・ワンの触手で捕まえても、ボクの方が振り回されちゃいそうだよ」

「あの高さまで、届けばいいの、ルーシェリア?」
 蒼い髪の少年が、いきなり質問をした。

「な、なんじゃご主人サマよ、急に。確かにそうじゃが……ま、まさか!?」
「ウン。ジェネティキャリパーの力を開放する」
「ダ、ダメだよ、ダーリン。また、暴走しちゃう!」

「大丈夫だよ、スプラ。ほんの、一瞬だけだから」
 そう言うと舞人は、漆黒の髪の少女を抱きかかえる。

「うにゃあ、な、なにをする!?」
「行くよ、ルーシェリア……」
 少年の瞳が、赤く輝いた。

「……なッ!?」
 バルガ王子の目の前に居た舞人は、一瞬にして遥か上空に到達する。

「ルーシェリア!」
「仕方ないのォ。イ・アンナ!!」
 黒き球体が洞窟の天井ギリギリを旋回し、飛んでいた怪鳥たちを地面に叩き落とした。

「やりやがったな。コイツら、ドームに群がってやがった鉄の鳥と違って、バカデカい図体だから、落ちただけでかなりのダメージ受けてやがる!!」
 王子は、アラドスをシドンに預けると、地を這う怪鳥に向かって飛び込む。

「黄金剣『クリュー・サオル』!!」
 怪鳥の金属で出来た首の継ぎ目に、自慢の剣をねじ込んだ。

「チッ、生き物じゃ無ェから、黄金にならねえ!」
 怪鳥は、首をもたげ起き上がろうとしている。

「ティルス、オレに力を貸してくれ!!」
 王子は、長年仕えてくれた亡き少女の形見の剣を、振りかざした。
見る見る氷漬けになる、怪鳥たち。

「今度こそ、喰らいやがれ。『クリュー・サオル』!!」
 黄金剣が、太陽の如く光り輝く。
怪鳥の外殻は、低温から一気に高温に温められたためボロボロになり、粉々に破壊された。

 前へ   目次   次へ 

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第22話

f:id:eitihinomoto:20200806163558p:plain

曲のイメージ

 テニススクールの照明の落ちた食堂で、テニスボールでも詰まっているのかと思うくらい肥大化した頬を抑えるボク。

 けれども、華やかなテニスウェア風のアイドル衣装を着た7人の少女たちは、ボクでは無くボクの友人を取り囲んでいた。

「ところで、先生とはずいぶん親しそうですケド、どんなご関係なんですか?」
 プレー・ア・デスティニーの実質的なリーダーであるアステが、先陣を切る。
彼女は、パステルブルーの長い髪が特徴的な、みんなをまとめるのが得意な少女だ。

「キミがアステちゃんか。オレらは大学時代からの親友だよ。生真面目なコイツとは、なぜか気が合ってね。よく勉強を一緒にしたモノさ」

 コイツ……ボクが喋れないのを良いコトに!
ろくに講義も聞かないお前に、ボクがノートを見せてやっていただけだろう。
けれども、腫れ上がった頬っぺたが邪魔で、喋る気になれない。

「先生の友達なんだ。それで今日は、どうしてテニススクールなんかに?」
 プレー・ア・デスティニーのリーダーで、本質的には7人の保護者であるタリアも問いかけた。
トレードマークのパーカーも、今日は派手なアイドル風の物になっている。

「キミが、タリアちゃん。コイツにコンビネーションパンチを叩き込んだ、女の子だったよな?」
「ア、アレは……いきなりバスタオルが落ちちゃって、つい……」
 ついで叩きのめされては、たまったモノじゃない。

「実はユークリッドから、キミたちのソロ楽曲の、作曲依頼を受けてね。だけどデビュー前のアイドルって、情報少なくてさ。曲のイメージも、湧かないから……」

「それでわたしたちに、直接会いに来たんだ。ってコトはご友人さん、作曲家なんですか?」
 物怖じもせず、エレトが聞いた。
彼女は白い髪を、後ろで二つに束ねていた。

「作曲家なんて、偉そうなモンじゃ無いさ。ソーシャルゲームの音楽をやっている会社に所属して、パソコンとかキーボード使ってBGMとか作ってる」

「いわゆる、ゲームミュージックってヤツだね。ボクもソシャゲよくやるケド、テンポいい曲多いよね」
 薄いオレンジ色のレイヤーボブの少女が、友人に賛同する。
彼女は名を、マイヤと言った。

「マイヤちゃん、解ってるね。今話題のカードゲームアプリの、ドラゴン召喚ムービーの時の曲なんか、まさに神曲だと思うぜ」
「だねだね、ボクもあの曲大好き!」

 コミュ力最強クラスの友人は、すでにボクの生徒たちと親しくなり始めていた。

「他もみんなも、どんな感じの曲が好きか教えてくれるかな。キミは、好きなアーティストとかいる?」
 大人しそうな、モスピンク色の巻き髪ツインテール少女に、問いかける友人。

「わ、わたしですか。そうですね、アコースティックな曲をよく聞きますね。ヒーリング音楽やクラシックも好きです」

「うわ、そんなの聴いてるんだ。メルリって大人だよね」
 ウェーブのかかった桜色の長い髪の少女が、口をアワアワさせて驚いている。

「ちなみにタユカは、どんな曲が好きなんですか?」
「えっと、日曜にやってるアニメの、オープニングかな」
 メルリの質問に、甘えた声で答えるタユカ。

「それって、小さい女の子向けのアニメ番組ではありませんか。タユカは子供ですわね」
 抹茶色のミディアムボブの少女が、丁寧な言葉遣いで言った。

「むう、だったらカラノは、どんな曲聞くの!」
「わたしですか。クラシックはよく聞きます。メルリさんと同じ感じですわね。他にも、演歌や日本民謡も好みですわ」

「カラノはカラノで、歌の趣味シブ過ぎ〜アハハ」
 鼻にかかった声で、ケタケタと笑うアルキ。
彼女は、イトパープルのパイナップルヘアをしている。

「いいえ。最近の日本人が、和の心を忘れてるんですわ。そう言うアルキは、どんな曲を聴くんです?」
「アチシかあ。ハワイアンとか、ジャズとかかな」
「意外に、まともな音楽ですわね」

「アチシ、おじいちゃんがハワイ出身なんだ。ウクレレも、少しなら弾けるよ」
「へえ、アルキちゃんはウクレレ弾けるんだ。オレも大学時代はよく、ギター弾いてたんだよ」

 友人のか表情が、来たときとは違って穏やかになっていた。

 どうやら、曲のイメージくらいは掴めたようだな。
腫れた頬っぺたを抑えながら、ボクはそう思った。

 前へ   目次   次へ 

一千年間引き篭もり男・第06章・61話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

究極のトロッコ問題

 焼け落ちる、アクロポリスの巨大な街。
パリやロンドン、北京やニューヨークと言った地球上の街を、デザインの基盤コンセプトとして設計された12の区画を、逃げ惑う大勢の人々。

「止めろ、止めてくれ、クーリア!」
 ゼーレシオンは、降下し始めたQ・vava(クヴァヴァ)を追って、区画の1つへと降り立つ。
周りを取り囲む、レンガ造りの建物の窓からは炎が吹き上げ、街のあちこちで黒煙が立ち昇っていた。

「キミは、こんなコトをする人間じゃない。こんなコトをしては、ダメなんだ!」

 ボクの叫びも虚しく、上空に飛来したQ・vic(キュー・ビック)と命名された立方体の触手が、容赦無く人間たちを消し炭に変えて行く。
それは宛(さなが)ら、20世紀のアメリカのB級映画の様相をていしていた。

 異なっていたのは、アクロポリスの街は火星に存在し、上空に来襲したのは火星人ではなく、時の魔女と同化したクーリアが呼び出した、下僕たちと言う点だった。

「どうすんだ、艦長。とんでも無い数の敵を相手に、単騎じゃ焼け石に水だぜ」
「ですが1機ずつ、破壊していく他に対処法がありません。これだけ街の中まで入り込まれては、アポロのヘリオスブラスターで一掃するワケにも行きませんしね」

 他の区画に降下した、バル・クォーダや、テオ・フラストゥーとその旗下の12機のサブスタンサーも、苦戦を強いられている。
1つの区画が10億の人口を擁する巨大都市を防衛するには、余りに戦力が不足していた。

「クーリア……キミはこの街を、忘れてしまったのか!」

「忘れてなどおりませんわ、宇宙斗艦長。貴方はこの街のホテルで、あの純真無垢な少女を装った女と、何をしたのかを!!」

 Q・vavaは、マントのような胸と背中、両肩のパーツから一斉にレーザーを照射する。
ジョージアン様式やヴィクトリアン様式の建築群が、跡形もなく灰塵と化した。

 ゼーレシオンの前で、紅蓮の炎に包まれている街並みは、アクロポリスの12区画のウチの、やぎ座(カプリコーン)区画のモノだった。

「ヴェル、ボクの娘たちはなにをしている!?」
 ボクは、優秀なフォログラムが答えてくれるコトを期待して、問いかけた。

『彼女たちはアクロポリス宇宙港と、ディー・コンセンテス・タワーの2方面にて、防衛任務に当たらせております』
「一部をこちらに、回せないのか?」

『可能ですが、彼女たちが撃破されるリスクは高まります。全員の命の保証は、不可能となります』
 ヴェルダンディに対して、娘たちの命を最優先に作戦を遂行してくれと、指示を出したのを思い出す。

『どう致しますか。彼女たちのサブスタンサーを、アクロポリスの街に展開すれば、多くの人命は救えるでしょう』
「そうした場合、娘たちが撃破される可能性はどれくらいある?」

『100パーセントです』
「そ、そんな……」
 ボクは、ヴェルの出した数字に落胆した。

「いいですか、宇宙斗艦長。これは戦争なんですよ。戦力差が圧倒的にある場合ならいざ知らず、味方が死なないなんてご都合主義は、戦場では通用しません。現にボクの部下も、半数が撃破されてしまっているんです!」

「メ、メリクリウスさん……」

「構うことは無ェだろ、艦長。アイツらは、元々時の魔女が生みだした手先だ。つまりは戦争用に造られた、人造の尖兵たちなんだからよ!」
 合理主義な考えのプリズナーも、娘たちの戦場投入を指示した。

 ボクの脳裏に、娘たちの無邪気な笑顔が浮かぶ。
MVSクロノ・カイロスの街の銭湯で、触れた少女たちの肌の暖かな温もり。

「す、すまない、娘たちの投入は出来ない」
「で、ですが艦長、このままではアクロポリスの街では、更に多くの人間が死ぬコトとなるんですよ!」

「オイ、偉そうな人工知能。このままあのウィッチレイダーたちが投入されなかった場合、人的被害はどれだけ増える!」
『推定ですが、7億……戦闘が長引けば、更に増える可能性がございます』

「60人と7億……天秤にかけるまでも、無ぇだろ!」
 バル・クォーダからの声が、ボクに選択を促す。

 『究極のトロッコ問題』に、ボクは決断を迫られていた。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第六章・EP036

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

黒蜘蛛(ブラックシャドウ)

 ペナルティマークにボールをセットする、紅華さん。
少し黄ばんだネットが張られたゴールには、大柄なキーパーが長い手足を伸ばして待ち構えていた。

「ケッ、まるで蜘蛛みてェな、ヤロウだぜ」
 左利きのドリブラーは、右側から助走を取るため、右斜め後ろへと下がる。

「オイ、イソギンチャク。ピンク頭が止められたら、こぼれ球押し込むぞ!」
 ペナルティエリアのギリギリで、スタートダッシュを決めようと、陸上のクラウチングスタートの体制を取る黒浪さん。

「誰がイソギンチャクやねん。そない常識、お前に言われんでもわ~とるわ!」
 金刺さんも、ボールが弾かれたら押し込もうと、準備していた。

「一馬隊員。我々ボランチは、カウンターになった場合の準備をするであります!」
 杜都さんの言葉に、ボクはコクリと頷く。

 ボクが監督の指示を伝えられなかったせいで、ボクがボランチをやるコトになったんだ。
ボランチならやったコトあるし、失点なんてしたら監督に2度と使って貰えなくなっちゃう。

「残念だケド、このPKは止められるよ」
 すると、ボクの隣にピンク色の髪の選手が並んで、ゴールを見ながら言った。
確かボクたちと同じ1年の、桃井さんだったよな?

「キミと同時に入ったキーパーは、伊庭 英也(いば ひでなり)。黒蜘蛛(ブラックシャドウ)の異名を持つ男さ。レギュラーの川神先パイよりも、殆どの能力で優れている。劣っているとしても、せいぜい瞬発力くらいなか」

 ボクも改めて、ゴールの前に立ちはだかるキーパーに注目する。
黒いユニホームに身を包んだキーパーは、PKだと言うのに落ち着きはらっていた。

「駄犬もイソギンチャクも、オレが止められると思ってやがんな」
 紅華さんは、なにやら呟きながら助走を開始する。
けれども、キーパーは微動だにしない。

「いくら手足が長くたって、ボールを止めれるとは限らんぜ。余裕ぶってられんのも、今のウチだ!」
 左足のインサイドで回転をかけ、ゴールの外側から巻いてくる軌道のシュートを放つ紅華さん。

「うお、メッチャ回転かかってんな!」
「こりゃあ、流石に決まったやろ」
 黒浪さんと金刺さんも、PKの成功を確信した。

「な、なんだとォ!?」
 シュートを放った体制のままの紅華さんの目の前で、長身キーパーが素早く反応する。

 左の上隅を狙ったボールに、右に跳んで長い手足を伸ばし、見事にキャッチしていた。

「来い、伊庭!」
 ボクの遥か後方で、委員長が叫ぶ。

「し、しまった、カウンター来るぞ!」
 最終ラインの右に入った雪峰さんが、叫んで指示を飛ばした。

「ウス……」
「いや待て、オレによこせ!」
 キーパーのパントキックを止める、斎藤さん。

「ウス」
 ボールはスローイングで、右に展開していたリベロに出される。
ボクたちはカウンターを警戒したため、誰も斎藤さんのマークについていない。

「アイツは、3点目の起点になったヤツやないか。ワイがマークに行ったるわ!」
 ペナルティエリアから、慌ててマークに付こうと走る金刺さん。
 斎藤さんは構わず、全力でドリブルを開始する。

「ボクが行きましょう。先ほどはやられましたが、今度はそうは行きませんよ」
 ゴールからある程度の距離を取っていた柴芭さんが、斎藤さんのドリブルを止めようと接近した。

「個人の勝負になど、興味は無い」
 あっさりとボールを離す、斎藤さん。
グランダーのパスは、前線に走る千葉委員長に通ろうとしていた。

「ウラッ!」
 けれどもボールは、途中で仲邨さんによってカットされる。
委員長に通っていれば、決定的なチャンスになったかも知れないのに。

「これは、ラッキーであります。ボールをいただくであります!」
 杜都さんのタックルが、仲邨さんのボールを襲う。

「ファウルにしてやっても構わんが、また1年にボール取られるのもシャクだからな」
 華麗なダブルタッチで、タックルをかわす仲邨さん。
そのままペナルティエリアに、パスを入れる。

「ナイスパスです、仲邨先パイ!」
 ボールを途中で奪ったのは、桃井さんだった。

「コラ、桃井。そこスルーだろうが!」
「それはお互い様です」
 美しいフォームのドリブルで、前線に進入する桃井さん。

 マズイい、桃井さんが完全にフリーで走ってる。
ボクは慌てて戻ったが、まだかなり距離があった。

「千葉にも岡田先パイにも、マークが付いてる。岡田先パイなら、マークを振り切ってゴールをするコトも可能だろうが……ここは、1年と3年の勝負がかかってますからね」
 そのままシュートを狙う、桃井さん。

 基本に忠実なクリーンシュートは、ゴール左隅に綺麗に決まった。

 前へ   目次   次へ 

ある意味勇者の魔王征伐~第11章・47話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

イ・アンナ

『サタナトスよ。お前は、この世界の王となって何を望む?』
 ラ・ラーンと呼ばれる黄金の戦士は、虚城の玉座に鎮座する少年に語りかける。

「そうだねェ。とりあえずは、人間どもの駆逐かな。そしてボクを頂点に、魔族を中心にした世界を創り上げる。他にも目的はあるんだが、それはまだチョット言えないかな」

『アナタは、人間がお嫌いなのですか?』
「嫌いだね。完全に、この世から消し去りたいとさえ思っているよ」
 トゥーラ・ンと名乗る銀色の女神の、質問に答えるサタナトス。

『この小僧が人間嫌いな理由も、容易に予想は付くだろうよ、トゥーラ・ン』
 マ・ニアと称する黒鉄色の魔女が、しゃがれた声で言った。

『サタナトスと名乗る小僧の身体には、半分は人間の血が、もう半分は魔族の血が流れておる。どちらの種族か、あるいは双方から迫害を受けたのじゃろうて』

「なかなかに賢しいじゃないか、マ・ニア。確かにキミの言う通り、ボクと妹はかつて、人間たちから迫害を受けた。人間など、ウソを言い人を騙し、同族同士で争い、戦争や殺戮を好む、愚かな種族さ」

「初耳ですな。サタナトス様に、妹がいらしたとは……」
 アクト・ランディーグと言う名の紫色の海龍が、主の顔色を伺いつつ問いかける。

「勝手に妹を、殺さないでくれよ。彼女は、まだ生きている」
「これは出過ぎたマネを……申し訳ございません」
 怒気を荒げるサタナトスに、アクトは平伏した。

『なれば何故アナタは、人を憎むのです。妹と共に、何処か人の手の及ばない場所で暮らすと言う選択肢も、あったでしょうに』
 聖母のように優しし顔を向ける、トゥーラ・ン。

「その選択肢は、とうの昔に人間どもの手によって奪われたさ。ヤツらはキミみたいに、慈愛に満ちてはいないからね」
 金髪の少年の脳裏に、アズリーサやケイダン、幼くして魔王の生贄とされた孤児たちの顔が浮かぶ。

「せめてヤツらは、妹を殺すべきだった……」
 小声で呟いたサタナトスの視線は、大海原の彼方に向けられた。

 彼が見つめる紺碧の海の下には、魚たちの楽園が広がっている。
更に潜った海底には、パックリと巨大なクレバスが大きな口を開けていた。
この海の渓谷を潜って行くと、かつて栄華を誇ったアト・ラティアが、遺跡と化し眠っている。

 1万年もの間、静寂が支配していた深海に沈んだ、黄金の海底都市。
けれども今は、遺跡を守護する金属の巨人と侵入者たちによって、沈黙は破られていた。

「アラドス、死ぬな。お前まで、死んじゃならねェ!」
 ファン・二・バルガ王子が、両足と左腕を失った男に命令する。

「ス、スマンな……王子。どうやらワイも、ここまでのようや……ゴホッ」
 鮮血が、アラドスの口から噴き出した。

「ふざけんじゃ無ェ。ティルスが死んで、ビュブロスが死んで、お前まで死ぬってのかよォ!?」
 血まみれの男を抱きかかえる王子は、自慢の海皇パーティーのウチすでに2人を失い、もう1人も虫の息である事実を、受け入れられないでいた。

「まさか金属の獣まで、おるとはのォ」
 槍を身構えるスプラ・トゥリーと、背中を合わせるルーシェリア。
彼女たちの周りを、金属の身体のライオンや狼たちの群れが、口から血を滴らせ取り囲んでいる。

「上にいる鳥たちも、巨人くらいの大きさがあるよ」
 巨大な鳥のような姿をした金属の魔物が、大魔王が穿った洞窟の上空を窮屈そうに旋回していた。

「仕方ない、ジェネティキャリパーの能力を開放して、身体を強化するしか……」
「待つのじゃ、ご主人サマよ。それは、最後の手段じゃ」
「え、でも他にこの場を切り抜ける方法なんて、あるのか?」

「そう言えばキミ、地上の国の女王から魔剣を貰ったって言ってたよね?」
「まあ、そう言うコトじゃ。そろそろ使わねば、なるまいて……」

 ルーシェリアは異空間から、黒い剣を顕現(けんげん)させる。
それは6枚の翼の鍔(つば)を持った、美しい剣だった。

「銘を『イ・アンナ』。全てを押し潰して飲み込む、混沌の魔剣じゃ」
 剣は禍々しい黒いオーラを発生させ、それによって少女の漆黒の髪が棚引く。

「ル、ルーシェリア……これは!?」
「少しばかり離れておれ、ご主人サマよ。此奴(コヤツ)らを、一掃するでの」
 イ・アンナから流れ出るオーラが、一箇所に集まって漆黒の球体となった。

 前へ   目次   次へ