大魔王VS古代の戦士
『では、行くぞ!』
大魔王ダグ・ア・ウォンが、蒼きウロコに覆われた4本の腕に、多重魔法陣を展開させる。
蒼かった空を、黒雲の群れが覆い隠した。
ダークグレーの空から、4つの巨大竜巻が出現して大海の水を飲み込み、海から立ち昇る渦巻きとなって黄金の戦士を襲う。
『ほう、これホドの魔法を操れるとはな。ドラゴンにしては、器用なマネをする』
ラ・ラーンは、鞘から黄金の剣を抜き、巨大な渦巻きに向かって斬撃を放った。
「み、見ろよ。大魔王サマの、渦巻きが……」
「一瞬で、消されたっしょ!?」
「あの戦士、やるだな」
遠心力から解放された海水が、亡国の虚城の上にも降り注ぐ。
天井すら存在しない城に居並ぶ魔王たちは、気にせず海水を浴びた。
けれどもサタナトスは、簡素な魔法を展開して濡れるのを拒む。
「虹が……出てる」
栗色の髪の少女が、ポツリと呟いた。
その視線の先には、巨大な虹がいくつも浮かんでいる。
「竜巻で巻き上がった大量の海水が、スクリーンの役目を果たしているんだ」
少年のヘイゼルの瞳にも、7色の架け橋が映る。
その向こうで、蒼き龍の大魔王と、炎と太陽の戦士が対峙していた。
『グハハ。我が魔法ウラ・カーンの正体を、見破ったか』
ダグ・ア・ウォンは、4つの腕を組んで豪快に笑う。
『無論だ。魔法で真空の歯車を生み出し、周りの大気を吸い込んでいたのであろう。周囲の海水まで吸い上げるホド、低い気圧を生み出せるのには驚いたがな』
科学の知識を持って解説する、黄金の戦士。
それは、台風やハリケーンの原理に他ならなかった。
『今度は我が、仕掛けるとしよう』
ラ・ラーンの背中からは、クジャクか鳳凰を思わせる黄金の羽根が、12本も伸びていたが、それが左右上下に後光のごとく展開する。
「オ、オイ、見ろ。ラ・ラーンの周りから、急激に黒雲が遠のいてやがるぜ!?」
「マ、マジっしょ!? アイツの周りだけ、ぽっかり青空になってるっしょ!」
「ま、眩しいべ!」
「まるで、鏡だ!?」
「どうやら展開した黄金の翼が、太陽の光を集めているようですな」
「なるホドね、彼が太陽の戦士と呼ばれた理由が、少しだけ解かった気がするよ」
部下である5体の魔王たちの解説が一通り終わると、サタナトスは虹の橋が架かる空を見上げた。
『先に言って置く。避けた方が、身の為だぞ』
ラ・ラーンの黄金の剣が、集められた太陽の光によって真っ白に光り輝く。
『我は、大魔王ダグ・ア・ウォン。引かぬ!』
4本の腕を十字にクロスさせ、身構える蒼きドラゴン。
『ならば、その身を以て受けるが良い!』
剣に集約された光のエネルギーが、閃光となって解き放たれる。
『させぬわ!』
大魔王と古代の戦士の間に、水の壁が幾重にも出現した。
『大気に留まっていた、水分を使ったか……だが!』
真っ白な閃光は、壁のど真ん中を撃ち抜く。
水の壁は次々に蒸発し、水蒸気の煙幕となって2人の姿を覆い隠した。
煙幕は生き物のように蠢(うごめ)く、巨大な積乱雲と化す。
雲間から突き抜けた閃光が、遠くの海に着弾し海水が水柱となってそびえ立った。
「なんとも規格外な戦いだねえ。今だかつて、これホドの御前試合を閲覧した王は居ただろうか?」
玉座から立ち上がった少年王は、満足した笑みを浮かべる。
積乱雲からラ・ラーンが現れて、サタナトスの前に降り立つ。
「だ、大魔王サマは、やられちまったのか!?」
「そりゃそうっしょ。あんな攻撃、真正面から受けたら……」
「一発で、あの世だべ」
『イヤ……自らの言葉通り、我が攻撃を耐え抜いたようだ』
ラ・ラーンの言った通り、雲の間から姿を見せる大魔王。
4本あった腕は1本が残るのみとなり、胸から右肩にかけて大きな穴が穿たれていた。
「これはこれは、ボクたちの完敗を認めざるを得ないな」
『どうだかな。あの大魔王、まだ本気を見せてはおらぬのであろう』
「それは、キミも同じじゃないか、ラ・ラーン」
『フッ、御前試合で本気になるのも、無粋と言うモノだ』
「一応聞いて置くが、キミの後ろに控える2人も、キミと同等の戦闘力を持っているのかい?」
サタナトスは、クシィーを護るように左右に立つ、鎧姿の2体に視線を向けた。
『単純な戦闘力であれば、2体は我より劣る』
「そうでない役割が、あると?」
『そうだ、詳しく述べる気は無いがな』
「せめて、名前くらいは聞いても、構わないだろう?」
無邪気な笑みで、2体を見つめるサタナトス。
『わたくしは、トゥーラ・ン。愛と慈愛の女神と呼ばれておりました』
女性を思わせるフォルムの、銀色の鎧を纏った一体が、柔和な女性の声で答える。
『アタシは、マ・ニア。死と混沌の魔女だよ』
やはり女性的な黒鉄色の鎧姿のもう1体も、少しハスキーな少女の声をしていた。
クシィーと名を変えた少女の周りに、古代の3体の魔神が居並んだ。
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